第124話 犬飼帝国の崩壊


「いやいやいや……」


 一度カリンの配信を閉じて、犬飼洋子は頭を横に振る。

 そして深呼吸してからもう一度配信を開き、


「いやいやいや……いくらなんでもあり得ないわよ。いやいやいや、いやいやいや……いやあああああああああああああああああああああああああああ!?」


 変わらず映し出される配信の様子に、いよいよ現実逃避もできなくなって絶叫していた。



 万が一の場合に少しでも言い逃れの余地が残るよう「建物の基礎部分を巻き込んで突如ダンジョンが現れた」様子を再現した秘密の地下空間。ダンジョンから漏れる燐光だけが照らすその隠しダンジョンの入り口に、浮遊カメラを携えた山田カリンが出現していたのである。


 同接は500万超え。

 その数はさらにどんどん増え、犬飼工業の最高機密がそれこそ世界中に垂れ流されていた。


 まだ電話の繋がっている部下が研究所への対処指示と並行してこんなことになった経緯を端的に語るが……いやどんな確率だよ!


(関東圏だけでも数多あるダンジョンから昨日の今日で首塚を選んで! さらには隠しダンジョンに近い位置にあったモンスターハウスで広範囲感知を使うって! いや経緯を見ればここを引き当てた理由はわかるし山田カリンの感知スキルが異常であることを考えれば不自然ではないかもしれないけど……いやそれでもどんな確率よ!?)


 しかしどれだけ理不尽を叫ぼうが現実は非常。



〝おいこれ犬飼工業マジでなにやってんだ!?〟

〝あの広い私有地のなかにぽつんとある研究所ドンピシャに未登録ダンジョンって……〟

〝強化種わらわらといいあの変な通路といい間違いなくクロだろ!?〟

〝絶対なんかアカン研究やってますわよこれぇ!?〟

〝リアルアンブレラ社はおハーブ枯れる〟

〝ハーブ枯れたら体力回復できねえですわー!〟

〝まさかダンジョン隠蔽も人為的とか言わねえよな!?〟

〝人為的ダンジョン隠蔽はさすがに……けどなんにせよ確実にヤベェ施設ですわよこれ!〟



 とんでもない数の人間が犬飼工業の違法実験をほぼ確信し声をあげまくっていた。

 さらには、


『まあ……建物の地下にダンジョンなんて余計に危ないですわね……どうやら建物内に人もいるみたいですし、これはちょっと最優先で避難誘導しないとですわ!』


「ちょっ」


 一人だけ事態の深刻さを認識していないかのように、カリンが「建物の基礎部分と1階を繋ぐ点検口」に偽装した出入り口を一発で見つけて研究所内部へと進撃をはじめていた。



〝ちょっとお嬢様!?〟

〝その施設多分ヤベーとこでしてよ!?〟

〝お嬢様そこ違法実験してる犯罪組織の巣窟かもですわー!〟

〝通報しつつひとまず様子見したほうがいいのではなくて!?〟


 

 迷いなく研究所内部に進むカリンへ、犬飼だけでなく視聴者たちも慌てたような声をあげる。

 だがカリンは『確かに色々妙な気はしますけど……』と頬に指を当てつつ、


『この未登録ダンジョン、近くに深淵ダンジョンがあるせいか魔力が紛れてわかりにくくなってたっぽいんですが、それでもちょっとスキルの威力を高めれば普通に感知可能ですの。こんなガバガバな隠しダンジョンを保有して違法な実験をするおバカさんなんているわけねーですわ! きっとこの建物の方々もダンジョンに気づいてらっしゃいませんの! どうも基礎部分? を巻き込むように出現したダンジョンみたいですし、なにはともあれ避難誘導は最優先ですわ!』


 建設禁止エリアが定められている理由でもあるが、ダンジョン崩壊時は周囲の建物も吹き飛ばされてしまう。そのためダンジョンを発見した探索者は(新しく発見されるダンジョン=普通は出来たてほやほやの不安定なものなので)周囲の建物にいる者を急ぎ避難させなければならないのだ。基礎部分にダンジョンの出現した建物ともなればダンジョン崩壊が起きずとも危険であるためなおさらである。


 とそんなこんなでお優雅理論をぶち上げたカリンは『立ち入り禁止措置は避難が終わったあと、建物ごとにする必要がありそうですわね!』と研究所の人たちの「安全を確保する」ため止まろうとはしなかった。なんなら普通に駆け足で躊躇など一切ない。



〝いやそれは多分お嬢様の感知スキルがイカれてるだけだから!〟

〝常識がないことと頭がお嬢様なの除けばほんといい子ですわね(白目)〟

〝た、確かに建物の地下にいきなりダンジョン現れたみたいな感じだしガチで気づいてない可能性もあるけどさぁ〟

〝ここまできたら犬飼無罪なんてカリンお嬢様が常識に目覚めるくらいの確率だろ!〟

〝い、いやもうここまできたらどっちでもいいですわよこれ! マジで気づいてないなら避難誘導しなきゃだしヤベー研究してるなら証拠消される前に映像に残したほうがいいし!〟

〝と、とりあえずノンストップお嬢様は置いといてわたくしたちは通報しまくりですわ!〟



 無論、犬飼洋子を筆頭に研究所サイドも頑張った。

 突然のお嬢様襲撃という非常事態を超えた非常事態を前にどうにか時間を稼いで証拠隠滅をすべく、必死に方策をひねり出そうとはした。


 だがいくらセキュリティ万全の研究所とはいえ、それはあくまで隠しダンジョンとその周辺にある最高機密エリアを守るためのもの。初手で最も堅いセキュリティの内側に潜り込んできたバケモノお嬢様が善意のノンストップ進撃をかましてくるという圧倒的理不尽相手には最早どうしようもなく――そこから先はもうメチャクチャだった。




〝おいおいおいおいなんだよこれぇ!?〟

〝お嬢様は避難呼びかけ優先でスルーしてるけどいま保管庫みたいなとこに映ってたの強化種のドロップアイテムじゃねえの!?〟

〝うっわスロー再生したら明らかにさっきの強化ミノのくそでかホーンやんけ!?〟

〝隠しダンジョン由来としか思えん素材めっちゃ保管してておハーブ枯れる〟

〝塩害レベルで草枯れるんだが!?〟

〝犬飼工業マジもんの真っ黒くろすけ確定じゃん!?!?〟

〝犬飼工業! おまえんち、違法そーしき!〟

〝ハゲにハゲって言っても侮辱罪は成立するから気をつけるんですのよ!〟

〝また髪の話してる〟

〝うおおおおおおおおお! 犬飼帝国の破滅だああああああ!

〝休日出勤中に友達からメールきて動画開いたらお嬢様レボリューションだうおおおおおおおおおおおおおおおおお!

〝お嬢様のアクスタ予約して神棚に飾る準備ですわあああああ!〟

〝いやもう神社作りましょう! お優雅大社!〟

〝ひゃっはあああああああ! 犬飼工業やっぱりあいつらろくでもないことしてやってやがったぜええええええ!〟

〝ざまみろ殿様商売のクソ元請け!! ずーーーーーっと保管してたパワハラや労基違反の証拠畳み掛けてやるからなあああああ!〟

〝どうせ握りつぶされると思ってしまっておいたブラック強制と違法操業の証拠がお優雅トリングレベルで火を噴きましてよおおおおおおおおお!〟

〝半信半疑でコメント控えてたけどこれはもう暴れて大丈夫なやつですわあああああ!〟

〝あああああああああ! 毎晩カリンお嬢様が巨大化してすべてをめちゃくちゃにしてくれないなって祈ってたら現実になったああああああ! お嬢様は破壊の女神様ですわああああ!〟

〝なんかブラックタイガーんときとは比べものにならん数の鬱憤が爆発してて草ァ!〟

〝下請けや傘下企業搾取で有名って本当でしたのね犬飼グループ……〟

〝あの大企業の下請けや傘下となれば母数が違うぜ母数が!〟

〝勝利を確信した凄い数の革命軍が集まってる!〟


〝あーもう(なにもかも)めちゃくちゃだよ!〟

〝わたくしいまギルドにいるんですけどコメ欄どころか現実までめちゃくちゃを超えためちゃくちゃなんだよね怖くない?〟

〝なんかギルドの人らが血相変えてると思ったら地元で想像の100倍ヤバいこと起きてて草枯れる〟

〝わたくしギルド職員、自分の管轄で長年隠匿されてたと思しきダンジョンと違法実験疑惑の施設が見つかったらと考えただけでゲボ○きそう〟

〝はく、の漢字がまだNGでおハーブ〟

〝わたくしF市住みお嬢様、警察署のほうからサイレンの音がエグい〟

〝これF市の対探課総出動してない!?〟

〝なんなら縄張り超えて東京の対探課も出動してるでしょ……〟

〝お、穂乃花様またお嬢様とコラボかな?〟

〝↑カリンお嬢様レベルに呑気でおハーブ〟

〝トップクラスの大企業が未発見ダンジョン隠蔽確定で違法実験疑惑とかこんなもん地方自治体どころか国ですらちょっと持て余す案件でしてよ!〟

〝おかしい…今日はいわくつきダンジョンでまったり配信だったはずでは……〟

〝お嬢様の配信にまったりなんて求めるのが間違ってましたわね!〟

〝お嬢様のダンジョン配信に癒しを求めるのは間違っているだろうか〟

〝↑審議の余地なく間違いなんだよなぁ〟

〝残念だったなぁ! お嬢様の配信とはこういうものだ!〟

〝そうだったのか……クソぉ!〟

〝いやちょっとこれふざけてる場合じゃないんだが!?〟

〝SNSも掲示板もこれ一色でほんまヤバい〟



 濁流のように流れていくコメント欄はもう大騒ぎを超えた大騒ぎで、収拾がつかないほどとっちらかっていた。


「……ざけ」


 そしてそんななか、


「ふ、ざけんじゃないわよおおおおおおおおおおおおお!」


 お嬢様災害に為す術なく翻弄されていた犬飼洋子が血走った顔で怒声をあげていた。


「だったら……! だったらこっちにだって考えがあるわ!」


 腹心の運転手が狼狽するなか車内で異質な魔力を練り上げて、

 

「そこにいる研究員どもと一緒に、すべての証拠を〝消して〟やる!」


 いま研究所にいるのは人為強化種のことしか知らない下っ端研究員たちだけ。

 だがそれでも犬飼洋子がダンジョンの存在を秘匿しつつ違法実験を主導していたことなど、十分不都合な情報を持っているのは間違いない。このまま逮捕されるのは非常にまずかった。


 ゆえに研究施設にたっぷり残る証拠ごとまとめて消す。


 死人に口なし。


 このまま全員消し飛ばし、死んだ研究員たちの独断専行だったとすべての罪をかぶってもらう!


(もちろんそんな苦しい言い訳じゃ犬飼工業への追及や大ダメージは避けられないし、どのみち研究所と隠しダンジョンは放棄するしかない。けどこのままなにもせず、いい資金源になっていた犬飼グループごとすべて失うより遥かにマシよ!)


 そうして犬飼洋子が「今日の視察でアイツに触れておいてよかった……!」と目を閉じて魔力を練り上げれば――その魔力に呼応するようにして、遠く離れた隠しダンジョンに身を潜める異形が薄闇のなかで蠢いた。


 そして、


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 上層で雄叫びをあげたのは無数の触手を持つ怪物。

 本来ならば下層に出現するはずの「テンタクルワーム」だった。


 その威容は、通常種とは大きく異なる。

 深層ボスを思わせる体躯と魔力濃度に加え、無数に生えた触手の先端は鋭い牙の生えた捕食器官になっていた。


 研究過程で「グリード」の名を与えられたその異常個体は、犬飼洋子の意に従うようにして一斉に触手を伸ばす。

 

 行き先は――地上だ。


 その口から湧き出る特殊な酸でダンジョン壁をも容易く貪り、あっという間に地表へ現出する。


 本来ならば魔力のない地上にモンスターは進出できない。


 しかしその触手は、ダンジョン崩壊による魔力放出以外ではモンスターが活動できない地上において、さらなる暴食を働いた。


「とある仮説」に基づきモンスターや精錬素材を食べさせまくることで「超強化種」とでも呼べる存在となり、触手の先だけではあるがダンジョンの外でも活動できるようになった異常個体。犬飼洋子の研究成果がひとつ。


 ダンジョン崩壊が起きたわけでもないのに地上に進出したモンスターという特級のイレギュラーが、研究所内のすべてを食い漁ろうと牙を剥いた。


 が、次の瞬間、


『お、お高いものを切ってしまったらすみませんですわ! 感知スキルではお値段がわかりませんの!』


 研究所内のあらゆる場所から湧き出した触手がすべて切り飛ばされていた。

 触手の存在を完全に把握していたカリンが〈モンゴリアンデスワーム〉を振り抜き、壁越しに最低限の破壊で切り捨てたのだ。当然、研究員たちは無傷である。



〝え!? なんだいまの!?〟

〝モンスター!?〟

〝は!? ダンジョン崩壊の気配なんてねーよな!?〟

〝え、ちょっ、マジでおかしいだろここ!?〟

〝おいおいまだ出てきてんぞ!?〟


 

  視聴者たちが戦くなか、カリンは『さっきダンジョン内で感じた変な気配はこいつですわね!』とさらに湧き出る触手を切り飛ばす。

 その速度と精度は凄まじく、触手による捕食証拠隠滅がまったく進まないほどだ。


 だが――犬飼洋子は焦ってなどいなかった。


「さすがにバケモノね。けどそっちは囮! 証拠隠滅の本命はこれよ!」


 その手に握られているのは起爆スイッチ。


 万が一に備えて研究所内に仕込んでおいた爆炎石に着火するための自爆装置である。


「いくら強かろうが! ドラゴン・カノンの砲撃を受け流せようが! 触手に気を取られてる状態で爆発からすべてを守るのは無理でしょう!?」


 犬飼洋子はなにもかもメチャクチャにされた恨み辛みを晴らすように口角をつり上げて、


「証拠と一緒に、誰も死なせないのがお優雅とかいうあんたのふざけた矜恃も吹き飛ばしてあげるわ!」


 だん! 全力で自爆スイッチに拳を叩きつけた。

 研究所内中央に仕込んでおいた巨大爆炎石に加え、念のためさらにその周囲に設置していた2つの爆炎石に一斉に火がつく。


 それは触手に気を取られた状態ではどうしても初動が一瞬遅れるだろう悪意。いくらカリンが人外とはいえその一瞬が命取りになる不意打ちだった。


 が、次の瞬間。


『! ちょ、ちょっとごめんなさいですわ!』


 ずばん! ドッゴオオオオオオオオオオオオン!


「え?」


 カリンは即応していた。

 

 起爆スイッチが押されるとほぼ同時、次々と現れる触手ごと進路上の壁に切り込みを入れては発泡スチロールのように粉砕し、目にも留まらぬ速度で爆炎石のもとへと直行する。


 ――カリンはこれまで、影狼の迷惑行為に光姫の巻き込まれたダンジョン崩落と、爆炎石の脅威に何度か直面したことでその存在に敏感になっていた。

 

 というか実は研究所に踏み込んだその瞬間から仕込まれた爆炎石の存在に気づいて『なんか危なくありませんこと?』とずっと意識を向けていたのだ。


 ゆえに、


『ちょ、あぶねーですわ! なんでこんな管理してんですの!? ……はっ、だから研究所ってアニメでよく爆発するんですのね!?』


 どごん!

 壁の内部に仕込まれていた巨大爆炎石を爆発前に鷲掴みにして、ぽい!

 

 壁のなかから引きずり出すと同時に時間停止のアイテムボックス内に回収。

 さらには、ドゴゴゴゴン!


 先ほどと同様触手を切り飛ばしながら残りの爆炎石のもとまで一瞬で駆け抜けアイテムボックス内に回収。


 さすがに最後の1個をアイテムボックスに突っ込むには一瞬間に合わず、近くにいた研究員を巻き込んで爆発しそうになるのだが、


『ふんっ!』


 どふん!


 カリンが壁に手を突っ込んで爆炎石をぎゅっ!! と手の平で包めば……ダンジョン壁すら破壊する爆発が小さなお手々のなかだけで完結。


 あまりにも強すぎる握力はモンスターを引き寄せ凶暴化させる臭いすらほとんど漏らすことがなく……少し煙が漏れる程度で犬飼洋子の目論見を完全に握り潰していた。



〝え!? いまのなに!?〟

〝なんかお嬢様の肩に乗っけたカメラがブレまくってたけどなにが起きた!?〟

〝ん? てかなんかお嬢様拳から煙みたいなの漏れてない?〟

〝え、握りっ屁ですの!?〟

〝お嬢様このわけわからん緊急事態に握りっ屁してる!?〟



『!? ちょっ、違いますわよ! なんか爆炎石が爆発しそうになっててアイテムボックスに入れるのも間に合わなそうだったので握って阻止しましたの!』



〝は? 爆炎石の爆発を……握って阻止?〟

〝さ、さすがにカリンお嬢様でもそれは……〟

〝そもそも爆炎石ってどういうこと……?〟

〝お嬢様いくら握りっ屁したからって……〟

〝爆炎石握りつぶしと握りっ屁なら後者のほうがあり得ると思われてるカリンお嬢様で臭〟

〝なんでみんなこういうときだけカリンお嬢様に腹芸は無理ってこと忘れるんだよ!〟



『ちょっ、違います! 違いますの! やめてくださいまし! 風評被害ですの!』


 と、カリンの所業が速すぎてなにが起きたのかわからず混乱する視聴者たちの言葉にカリンが触手を切り飛ばしつつ反論するのだが――なにが起きたのかわからなかったのは犬飼洋子も同じだった。


「………………………………は?」


 かち、かち、かち。

 あまりのことに呆然として何度も何度も起爆スイッチを押し直すが、しかし当然爆発はもう起こらない。


 それどころか、


『ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?』


『よし! なんか変なイレギュラーも討伐! これでもう大丈夫そうですわね! あとはこちらの皆様を外に避難させれば……え、ええと……なんか結構色々壊しちゃいましたけど……こ、これ大丈夫ですわよね? さ、最悪弁償しますけど……!』


 カリンは触手が掘り進んできた穴に「お優雅トリング」をぶっ放して「グリード」本体を遠隔討伐し、犬飼洋子の放った証拠隠滅要員をすべて完封していた。


 それはすなわち、もはや違法研究の証拠も証人も消すことができないということで……。


「……………………………………」


 完全に魂が抜けたような顔で、どれだけの間カチカチと自爆スイッチを押し続けていただろうか。

 

「あ、あの……犬飼様……?」


 車を路肩に止めていた運転手がさすがに犬飼洋子の様子を見かねて声をかけた。

 すると、


「……げるわよ」


「え?」


「逃げるわよおおおおおおおおおおおお! いますぐ私の自宅やアジトに残ってるヤバい情報を消して……ナンバー2あいつのとこまで逃げるわよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「は、はい!」


 と犬飼洋子は運転手の尻を蹴り上げて急いで東京へと戻り――長年築き上げてきた侵略工作のための地位も設備もなにもかも投げだして、自分たちとは別行動をとる侵略工作部隊のもとへと逃走を開始した。




 ――そしてその後。

 犬飼グループは無事に逮捕された研究員の証言から犬飼社長自らが未確認ダンジョンを秘匿し違法実験を繰り返していたと正式に判明し大炎上。そこから下請けを搾取しまくる企業体質もリークされまくり、社長の指名手配と雲隠れが決定打となって一気に崩壊。解放された下請けや傘下企業従業員の祭りやら連日報道される強化種実験の概要やらで世間はしばらく大騒ぎが続くのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――

 犬飼様の顛末はまた次回ですわ

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