第122話 都市伝説検証配信
国内有数の規模を誇る犬飼工業グループは、国内に幾つもの土地や施設を保有していた。
商品を生産するための工場や工房はもちろんのこと、新製品開発に繋がる独自の研究施設もいくつかあり、数多くの職員が働いている。
そんな研究施設のなかでも、務めている職員の数が極めて少ない施設があった。
F市郊外に存在する犬飼第一研究所だ。
グループ内でも特別優秀な研究者や加工適性のある者しか在籍できない精鋭研究所とされており、重要な特許技術が流出するのを避けるため同グループの重役でもおいそれと入ることのできない聖域扱いとなっている。
だが実のところ……その研究所が限られた人間以外立ち入り禁止となっている理由はまったく別のところにあった。
第一研究所はその地下に本来なら絶対にあり得ないものを――国が存在すら把握できていないダンジョンを違法に隠し持っていたのである。
「ふぅ」
週末の午後。
深層を保有する隠しダンジョンの最奥から1人帰還した犬飼洋子は、満足気に息を吐いていた。
「ダンジョン核の調子は上々。人為強化種の成長具合も報告どおり順調ね。これなら問題なく計画成就のための研究に本腰を入れられるわ」
自分をダンジョン入り口まで運んだ超強化ミノタウロスに下層へすぐ戻るよう命じつつ、犬飼は視察を終えたダンジョンの様子を記録していく。
ダンジョンの管理や人為強化種作製の基礎研究はしばらく部下たちに任せて日本の国力低下工作及び
まだまだ目標達成までは遠いが、ひとまずは順調と言っていいだろう。
それにしても……と犬飼洋子は軽く息を吐く。
「やっぱり、わざわざ日本国内で研究用のダンジョンを確保しておかないといけないのは面倒ね」
隠蔽に数々の工作が必要な隠しダンジョンにうんざりしたような声を漏らす。が、同時に仕方のないことだともしっかり理解していた。
最重要攻略地域である日本の目障りなダンジョンを〝消して〟侵略計画の完遂を果たすためには、日本のダンジョンで超越的強化種生産実験や各種解析を行う必要があるからだ。
各ダンジョンでモンスターの出現傾向や広さ、特性が違うように、ダンジョンの有する核の質は地域によって大きく異なる。
ゆえに日本を筆頭に各国のダンジョンを消すにはダンジョン大国と呼ばれる本国だけでなく、各地域で研究のためのダンジョンを確保しなければならなかった。
「まあどのみち活動資金のために巨大企業を乗っ取り拡大する必要はあったし、ダンジョンが出現する場所とタイミングの事前把握は世界の常識と違って私たちにとって造作もないこと。土地と建物を確保する金さえあれば大した手間でもなかったけどね」
それに、確保したダンジョンの隠蔽も面倒ではあるが憂いはない。
この土地は犬飼グループ保有で全域が立ち入り禁止の私有地となっているし、隠しダンジョンを有する研究所は『強力な探索者による産業スパイを警戒して』という極自然な名目で厳重な警備を敷いている。さらには近くにある首塚ダンジョンの気配を隠れ蓑とし、祖国由来の特殊な方法でこのダンジョンが生まれたその瞬間から気配を隠蔽し続けているのだ。そしてとある理由からダンジョン崩壊の心配もない。この隠しダンジョンの存在が露呈することなどまずなかった。
ダンジョンを確保して研究をはじめた初期こそ
なので通路は部下に命じて何年も前に埋め立ててあるし、そもそも通路は
まあそれはいいとして……と犬飼洋子は再度視察の結果を確認して満足げな表情を浮かべる。
(やはり私が選んだだけあってここの研究員たちは優秀ね。いまこの研究所で強化種生成実験に従事してるのは私たちの正体を知らない、金や違法実験目的のマッドサイエンティストども。いまはただ意図的に強化種を作り出してより価値のある素材を得るための違法実験施設としか教えてないけど……これまで日本弱体化工作なんかに駆り出していた本国の部下やこの私が研究に本格合流すればより良い結果を出していけるに違いないわ。強化種実験の果てにあるダンジョン排除に向けて)
まあ、その部下のうち10人ほどがお優雅怪奇現象に見舞われ再起不能になったので、増援は必要かも知れないが……。
なんにせよ準備は万端。
研究資金は犬飼グループの下請けや傘下企業どもをいままでどおり酷使搾取すればいくらでも稼げるし、№2のあいつがスランプから脱せるよう資金や設備を全力支援しつつそれを口実に手柄の多くをかすめ取る立ち回りも考えてある。
「いまに見ていなさい山田カリン……! いまはあなたを排除できなくとも研究にひたすら注力して、より完成度の高い侵略計画で日本をメチャクチャにしてあげる……!」
あるいはその研究過程できさらぎダンジョンを(百倍くらい)上回るような副産物が奇跡的に生まれれば必ずや排除してやる。
そんな暗い情熱を滾らせながら、犬飼洋子は隠しダンジョンの視察を完了。
違法研究に勤しむ職員たちに「明日からこれまで以上に力を入れてもらう」と声をかけてから、自分自身も明日から研究に専念すべく少し早めに研究所をあとにするのだった。
※
「皆様ごきげんよう~。山田カリンのお優雅なダンジョン配信の時間ですわ~」
〝ごきげんようですわー!〟
〝お嬢様の配信の時間ですわオラァ!〟
〝待ってましたわー!〟
〝連日の配信助かるます!〟
〝↑アーニャかな?〟
〝ダメだろアーニャこんなバイオレンスお嬢様の配信なんか見ちゃ〟
〝お嬢様の思考なんて読んだら頭おかしなるで〟
〝待ってましたわああああああ!〟
雑談配信の翌日。
ちょうど連休で学校が休みということもあり、カリンは早速いわくつきダンジョンでの配信を敢行していた。
「SNSで直前に告知しましたが、今日は昨日の配信でも少し話したように妙な噂のあるダンジョンをお優雅に攻略していこうと思いますの。というわけで今日挑戦するダンジョンはここですわ!」
とカリンが浮遊カメラに映すのはF市の
なんか思ったより交通費がかかりますわ……!? とビビり散らかしながらおっかなびっくりやってきた深淵保有の大ダンジョンだ。
これまで金欠のため都内のダンジョンばかり潜ってきたこともあり、奥多摩に続く2回目の遠征に少しわくわくした様子でカリンは続ける。
「えーと、潜っているダンジョンを特定されるのはよくないということで名前は出しませんけど、ここのダンジョンのいわくはこうですわね。下層にあるモンスターハウスからモンスター様の悲鳴のようなものが聞こえてくる。ダンジョン内部で女性のすすり泣く声が響く。どちらかを聞いてしまってからというのも酷い後遺症に苛まれて探索者を引退したり、そのまま行方不明になってしまう方が何人もいた、というものですの」
〝おお、なんかまっとうに怪談っぽいやつですわ……〟
〝声か。つまりお嬢様リサイタルで相殺しながら攻略すれば平気ってわけですのね!?〟
〝もう対処法判明してておハーブ〟
〝お嬢様以外に真似できない対処法は対処法じゃないんだよなぁ〟
〝下層モンスターハウスが噂の発生源か……これは普通じゃ検証できませんわね〟
〝モンスターハウスとか基本避けるべき危険地帯ですものね……〟
〝てかお嬢様がっつりスマホでいわくカンペしてておハーブ〟
〝隠そうともしないのほんま草〟
〝にしてもなんかあんま聞いたことない噂ですわね……?〟
〝洒落怖まとめそこそこ見てますけど覚えがないですわ?〟
〝ダンジョン特定するわけじゃないけどちょっと調べてみますのー〟
〝きさらぎダンジョンほどヤバい噂じゃないですがなにが出るやらですわね!〟
〝仮に噂がガチでもお嬢様にビビってなにも出てこない可能性〟
〝まあ今日はまったりお嬢様の無双を楽しませていただきますわ!〟
〝間違いなく大丈夫でしょうけどカリンお嬢様お気を付けてですわー!〟
「みなさまありがとうございますですわー! それでは視聴者の方々も集まってきたようですし……早速噂の検証がてら攻略していきますの!」
いわくの説明や挨拶の間にすぐさま膨れ上がった同接やコメントに「あ、相変わらずたくさんの方に集まっていただけて恐縮ですわ……!」といまだ慣れない様子で戦きつつ……カリンはドレスを揺らしてダンジョンの奥へと進んでいった。
F市のなかでも最大規模を誇る首塚ダンジョンにはひとつの特徴があった。
それは下層を中心にモンスターハウス――倒しても倒してもモンスターが無数に湧き出してくる大部屋――の数が非常に多いという点だ。
モンスターハウスは湧き出すモンスターの数や密度ゆえ、共食いによる強化種が比較的発生しやすい。
加えて首塚ダンジョンは奥多摩ダンジョンほどの魔力濃度ではないが深淵も保有しており、強化種が非常に生まれやすいダンジョンとなっていた。
そのため強化種由来の強靱な素材を狙いやすいスポットではあるのだが難易度も高く、交通の便があまりよくない山林地帯というのもあって探索者の数が非常に少ないダンジョンなのだった。
そしてその難易度を証明するように、
「グオオオオオオオオオオオオッ!」
〝うわ!? なんかでかいヤツいる!〟
〝まさかまた強化種ですの!?〟
〝下層潜って10分経たず3体目はおかしいだろ!〟
〝多すぎィ!〟
〝これもしかして深淵保有ダンジョンじゃね!?〟
〝にしても奥多摩よりエンカウント率高いですわよ!?〟
首塚ダンジョン下層の大部屋に足を踏み入れたカリンの前には、数多のモンスターに混じって一際巨大な敵影が立ちはだかっていた。
両手についた巨大鉄球のような器官を怪力で振り回す、近接破壊力に秀でた下層モンスター、メイスオーガの強化種である。
モンスターハウス内に多くいる通常のメイスオーガに比べてその体躯は3倍ほど。腕の先端についた鉄球も明らかに肥大化しており、さらには速度も通常種とは比べものにならない。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!」
そしてそんな強化種が、意思ある鉄球クレーン車のように両腕を高速で振り回しカリンに襲いかかる。だが、
「えい」
「「「グガアアアアアアアアアアアッ!?」」」
振り下ろされた巨大鉄球器官をカリンが避けることすらせず真正面から殴りつければ――ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
強化種の腕の先端にあった鉄球器官が凄まじい勢いでもげて吹き飛び、そのまま進路上にいたほかモンスターたちをまとめて葬った。
さらには、
(あ、これ分裂ケルベロス様の頭を拳で砕きながら吹っ飛ばして3体まとめて素手で倒すやつの練習になりそうですわ!)
と、カリンが強化種の腕に残っていたもう片方の鉄球器官を先ほどとは異なる力の入れ方で殴りつければ――ドッゴオオオオオオオオオオオオオオン! ボボボボボボボンッ!
「「「「「グゲエエエエエエエエエエエエエエッ!?」」」」」
カリンの拳を食らった鉄球が散弾のように爆散。
モンスターハウス内にひしめいていたモンスターたちの頭部を貫き、貫通力と射程のあるショットガンのように大軍を一掃する。
「これいいですわね! モンスター様をお優雅に殲滅できますわ!」
〝ファーーーーーーーーーーwwwwwww〟
〝あまりに蛮族すぎて草ァ!〟
〝鉄球を殴り返すだけならまだしも爆散させてほかモンスターまで一網打尽は敵からしたら悪夢なんよ〟
〝このお嬢様〈神匠〉使うまでもなくモンスターを武器にするのなんなんですの!?〟
〝ダ ン ジ ョ ン ボ ア 大 砲 か ら 続 く 伝 統 芸 能〟
〝これが加工適性……〟
〝これもう田中脊髄剣の亜種だろ〟
〝た、戦ったライバルたちの力を糧にする圧倒的主人公属性ですわね!〟
〝ものは言いよう過ぎる〟
〝わたくし新参お嬢様、「お優雅」の意味が迷子ですわ!?〟
〝ここでいう「お優雅」は敵を効率よく殲滅できたって意味でしてよ!〟
〝これもう「優雅」が「典雅」並みにミーム汚染食らってるだろwwww〟
〝ゆ、優雅とお優雅は違うからセーフ!〟
〝てかこれなんか破片がかなり正確に敵モンスターの急所貫いてませんこと!?〟
〝破片の軌道まで精密コントロールしてる疑惑あるのなんなんですの!?〟
〝ゴリゴリの実のパワーゴリ押し人間かと思いきやむしろ技術のほうがカンストしてるの相変わらず凶悪すぎる……〟
いつもどおり無茶苦茶なカリンのダンジョン攻略に視聴者たちが盛り上がるなか、カリンはさらにメイスオーガ通常種の鉄球器官も次々と殴りつけて爆散。お優雅にモンスターハウスを攻略していった。
――と、そんな調子で下層のモンスターハウスを襲撃しまくっては当然のように被弾0で暴れ回り順調に進んでいくカリンだったのだが、
「うーん、特になにもありませんわね……?」
配信開始からしばし。通算4つ目のモンスターハウスで暴れ回りながら、カリンは悩ましげに呟いていた。
今回の配信は噂話の検証なのだが、特に妙なことは起きないしそういう気配を感じることもなかったのだ。
まあまだ配信開始からあまり時間も経っていないし、そもそも噂が本当だったとしても必ず遭遇できるというものでもないだろうとは思っていたが……それにしたって異常がなさすぎる。
とカリンが「うーむ」と唸りながらメイスオーガショットガンを決めていたところ、
〝お嬢様―。ちょっと調べてみたんですが、そこのダンジョン多分噂に尾ひれついてますわ〟
〝ダンジョン名は出せないから確定じゃないかもですけど〟
〝そこ多分ただの高難度ダンジョンですの〟
¥5000
さっきお嬢様が話したいわくについて調べてみたんですが、まとめアフィサイトが何個かヒットしただけでしたの。推定F市の某ダンジョンと思われますが、ギルドの出してる統計見るにそこのダンジョンで変な後遺症を負ったとか行方不明が多いとかって事実はないですの。心霊スポットの廃墟を巻き込むように出現したという経緯があるっぽいので、そこから変な尾ひれがついたみたいですわね。モンスターの悲鳴が聞こえるってのは何年も前に数件だけ書き込みがありましたけど、それも強化種の共食いによるものでしょうし
〝え、なにこれこの短時間で調べたんですの!?〟
〝ネット有志の調査力と集合知が相変わらずですわー!?〟
〝デマ? の由来に加えて数年前の書き込みまで把握してんの洒落怖板に入り浸ってるプロですわー!?〟
「わ、皆様わざわざ調べてくださったんですの!? そ、そんな大金を投げてまで……あ、ありがとうございますですの!」
とカリンはコメント欄に流れてきたいくつかの書き込みに頭を下げつつ、
「にしても……なるほどそういうことでしたの。後遺症云々というのもあって気になってたんですが……やっぱりネットの情報ってあんまりあてになりませんわね」
〝あ、やばいまたお嬢様がネットの情報を信じなくなってる!〟
〝きさらぎダンジョンの一件でちょっと改善の傾向があったのに!〟
〝まあアレは実際に異常現象が起きてた+フェイクじゃないと判明した
〝億単位のスパチャ入ってんのにいまだに5000円が大金認識なのおハーブ〟
〝三つ子の魂百までですわね〟
〝つまりカリンお嬢様はもうずっとこの調子……ってコト!?〟
と、視聴者たちが少し慌てるなか、カリンは自分の感覚と一致するその書き込みに納得したような素振りを見せる。
(まあもともと空振りは多いだろうと思ってましたし、被害に遭った方がいないならなによりですわね。しかしそうとなると……出現傾向が違うと思うのでリベンジとはちょっと違いますが、ここまで来るのにかけた
コメントを参考に深淵保有のダンジョンにしておいて正解でしたわ! とカリンはすぐさま深層へ繋がるルートを策定すべく、感知の範囲をいままで以上の規模へと拡大した。
――直後。
「……ん? え?」
カリンは目を見開いていた。
そしてなにかあり得ないものを発見したかのように目を向けるのは、モンスターハウス最奥。ダンジョンの端に位置している関係で、通常の地層と隣接していると思われるダンジョン壁だ。
と、数瞬目をぱちくりしていたカリンは、ほどなくしてコメント確認のため腕につけていたスマホで
〝ん? お嬢様どうしたんですの?〟
〝なんかお嬢様の様子おかしくない?〟
〝いつもどおりってこと?〟
〝急に地図なんて起動してどうされましたの?〟
〝お嬢様!? 地図アプリに現在位置出ちゃってましてよ!?〟
〝現在位置の座標が映り込んでますわー!?〟
〝いやまあ噂話の時点で多少特定されてるし交通の便も悪いから問題ないとは思いますが〟
〝首塚ダンジョンでしたの。あそこ周りにほかのダンジョンもないし人少ないですわよね〟
〝スマホ凝視しながら片手間にモンスターハウスのモンスターなぎ倒してておハーブ〟
〝このお嬢様歩きスマホしながらダンジョン攻略できそう〟
〝実際コメント凝視しながら戦ってること多いですしおすし〟
〝お嬢様どうされましたの急に?〟
〝もしかしてデマってのがデマでガチの怪異系イレギュラー見つけましたの?〟
〝だとしてもなんで地図アプリ?〟
とカリンの(いつもとは別ベクトルの)奇行に視聴者たちが「?」を多く書き込んでいたところ、
「やっぱり下調べどおり……このあたりでギルドやダンジョン庁のホームページに載ってるのは首塚ダンジョンだけですわよね……? ということはもしや」
とカリンが真剣さと懐疑の入り交じる声を漏らした直後。
キンッ!
突如。アイテムボックスから〈名刀モンゴリアンデスワーム〉を取り出したカリンが周囲のモンスターごとダンジョン壁を切り刻んでいた。
ダンジョンの端に位置するため、刻まれた壁の向こうに広がるのはただの地層。
そしてカリンはその地層をさらに切り刻み――アイテムボックスで飲み込むようにしてあっという間かつお優雅に掘り進む。
〝え!?〟
〝ちょっ、お嬢様急になにしてますの!?〟
〝なんだこのアイテムボックスの使い方!?〟
〝@御剣弁護士:お嬢様!? (やれる方がいるなんて想定されてないしモンスターが出てくるわけでもないので)建設禁止エリアの外まで掘らない限りは特に禁止されてないとはいえ急にどうされましたの!?〟
そして当然カリンの突然の行動に視聴者たちは引き続き困惑の声をあげるのだが……その困惑はすぐに塗り替えられることになった。
カリンが一瞬で10メートルほど掘り進んだ先に――明らかに人工の通路が現れたからだ。
〝ん!?〟
〝え、なにこれ!?〟
〝隠し通路!?〟
〝お嬢様これを見つけたからダンジョン壁切ったんですの!?〟
〝え、けどだいぶ分厚く土で埋まってたし全然使われてなさそうだし隠し通路って感じでもなくね……??〟
〝心霊スポットだったって廃墟の地下がダンジョン発生時に巻き込まれたやつ?〟
〝ダンジョンに側面から侵入できないか実験してた時代の名残か???〟
水漏れや痛み具合から明らかに長年使われていない通路にそんな声があがるが……しかしその仮説もすぐに拭き飛ばされる。
「ちょっと進んでみますわね!」
とカリンが浮遊カメラを置いてけぼりにしそうな速度で駆ける通路は地上方向に伸びるわけでもなく、どこまでも真っ直ぐ続いていたからだ。カリンの足が速すぎて正確な長さは測りづらいが、少なくとも100メートルや300メートル程度ではない。明らかに廃墟や側面侵入実験の遺構などではなかった。
そしてしばらく走った先に現れるのは、「別にこのくらいでいいだろ」とばかりに埋め立てたような土の壁。
「しっ!」
しかしそれもまたカリンがモンゴリアンデスワームで切り裂き軽く殴りつければ――ゴドンッ!!
土の向こうで一緒に切り裂かれたのだろう通常の金属よりも遥かに頑丈な物質が落下しぶつかりあうような音が重く響いて。
切り裂かれて穴のあいた壁の向こうへとカリンが浮遊カメラとともに飛び込んだ。
するとそこに広がっていたのは――淡く発光する広大な岩窟。
〝え〟
〝え〟
〝え?〟
「や、やっぱり」
カリンはその光景と、GPS機能で自分の位置を正確に示すスマホの地図アプリを浮遊カメラに映しながら、
「これ、グーグ○マップ様にもダンジョン庁様のホームページなんかにも載ってない未登録の隠しダンジョンですわー!?」
〝は!?〟
〝は?〟
〝は?〟
〝え〟
〝ちょっ〟
〝ふぁ!?〟
〝は!? いくらなんでもうせやろ!?〟
〝は……!? ちょっ、な、なにとんでもないもん掘り当ててんだ山田ァ!?〟
ダンジョンアライブにも出てきたその〝隠しダンジョン〟という存在に、カリンが真剣な表情を浮かべながらも若干興奮したように叫ぶなか――。
あまりにも唐突に出現した、
―――――――――――――――――――――――――
なんか色々説明が多くなっちまいましたわ……!
未登録ダンジョンについてはまた次回詳しく
ちなみにお嬢様は地上では基本高速移動をしないので(というかルールやマナーに従い探索者の力を抑えているので)、長距離移動の際は普通に交通機関を使ったほうが早いですわ。ただ常人の短距離走速度で汗ひとつかかず何百㎞もぶっ通しで走るとかは余裕なので、都内で1人の際は電車とか使わずとも意外と効率よく移動できますの(さすがにずっと短距離走の速度は目立つ&人混みだと迷惑なのでそこまで自由に走り回れるわけではないでしょうが)
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