番外編 特典化お嬢様!

「う、うひぇ……! きょ、今日もまたとんでもない量のおメールですわね……」


 ある日の夜。

 カリンは自室のパソコン前でちょっとお優雅でない声を漏らしていた。


 なにをしているのかといえば、ここ最近すっかり日課となっているメールチェックである。


 ダンジョン崩壊鎮圧や深淵ボスソロ討伐などによって凄まじい知名度と人気を獲得してからというもの、カリンのもとには連日凄まじいまでのお仕事依頼が届いていた。


 いわゆる案件というやつで、配信動画内で自社商品を紹介してほしいというものからCM出演まで、国内どころか国外からも様々な打診がよせられるのである(ちなみにクランの勧誘などはカリンがソロ優先と言い続けていることや「絶対に持て余す」という理由から一周回ってどこからも届いていなかったりする)。


 なのでそのメール群をチェックするのがいつの間にやら日課になっていたのだが……ぶっちゃけ依頼を受けることはほとんどない。


 単純に普段の配信や学校、自主お稽古で忙しいというのもあるが、どのお仕事が信頼できるものなのかカリンにはさっぱり判断がつかないからだ。


 企業所属の配信者ならばこういう依頼の精査も会社側が行ってくれるのだろうが、カリンはバリバリの個人勢。しかもここ最近急激に知名度が上がったこともありこの手の案件対応もまったく慣れておらず、お返事できる可能性が非常に低いことはSNSのプロフにも注釈が置いてあるほどだった。


「とはいえお世話になった方や信頼できる方からの依頼は受けたいですし、前に光姫様が紹介してくださった新人育成配信のようにわたくしの間違ったイメージを払拭するのに繋がる企画なんかもあるかもですし、返信は難しくともとりあえず目は通しておきませんと」


 と、カリンは爆速コメント欄も瞬時に読み取れる認知能力を駆使してメールチェックを開始。リプ○ンから送られてきたお紅茶に「ありがたいですわ……! 天の恵みですわ……!」と毎度のごとく手を合わせてから口をつけつつ、ちょっと気持ち悪い速度で手と眼球を動かしメールを捌いていた。


「おん?」


 と、そのとき。


 とある一通のメールを目にとめたカリンの手がふと止まり、心臓が軽く跳ねた。

 

 ベルセルクル出版コミック編集部。

 もちもちたまご先生の担当編集さんからメールが届いていたのである。


 実はもちもちたまご先生の担当さんとは以前から何度かやりとりしているのだが、それでも出版社の人、それもたまご先生の編集さんからの連絡となるといまだに現実とは思えず緊張が拭えなかった。本物かどうかも定かではない超大企業からのメールよりよっぽどドキドキである。


「な、なんの要件でしょう……あ、もしかして前に依頼を受けていたダンジョンアライブ新装版の帯推薦文とやらの件でしょうか。なにやら畏れ多いことに全巻分の献本を送ってくださるとか仰ってたのでそれについてとか……?」


 ダンジョン崩壊を犠牲者0で抑え込んだあと。カリンは殺到する依頼のなかからひとつだけ企業案件を受けていた。それが急遽販売の決まったダンジョンアライブ原作コミック新装版の推薦帯コメントを書くというもの。


『ほ、本当にわたくしなんかでいいんですの!?!?』とビビり散らすことはあれど断る理由などないその依頼にダンジョンアライブに対する1万字越えの怪文書を送りつけ『すみません全文は別の場所に掲載するので帯コメントは50字以内くらいで……』と申し訳なさそうに返され自らのうっかりに悶絶したのもそこそこ前の話。


 たまご先生の書き下ろしや裏話なども多く収録されているというその新装版発売が迫り改めてなにかお知らせでもあるのだろうかと、カリンはメールを開いた。


「それにしても、メールの着信時間が深夜3時なんですけど……前も4時とかに届いてましたし編集様っていつ寝てらっしゃるんでしょう……?」


 と呟きながらメール本文に目を通す――直後。


「え゛」


 カリンの口からちょっとばかし汚い声が漏れる。


 しかしそれも当然だった。

 なぜならメールは献本がどうとかの話ではなく、


「ダ、ダンジョンアライブ新装版の店舗有償特典に……たまご先生の描いてくださったわたくしのイラストをもとにしたグッズをつけていいかの打診、ですの……!?」


 カリンをしてちょっと意味不明としか思えないその依頼内容に、しばし思考回路がショートしたように固まるのだった。



 

 

 そしてそれからしばらく経った後。


「み、皆様ごきげんようですわー! 今日の配信はちょっと特殊というか案件動画とも言いにくいというか……既に軽く告知もされているダンジョンアライブ新装版の有償特典サンプルが届きましたので、その紹介配信になりますの!」


 

〝ごきげんようですわー!〟

〝待ってましたの!〟

〝告知に目を疑ってきましたわー!〟

〝カリンお嬢様がダンジョンアライブの特典になるとかこれもうわかんねえな〟

〝仮にも作品の一ファンが公式グッズ化するってどういうことですの!?!?!?!?!?〟

〝千葉県のYさんですら公式グッズにはなってねぇんですのよ!?〟

〝わけわからんのに最近の流れを見るに納得するしかないやつ!〟

〝ベルセルクル出版社ついにトチ狂ったんかwwwwww〟

〝カリンお嬢様の自作自演疑惑のときにたまご先生の応援イラスト増産を止めるどころか誹謗中傷への法的措置を宣言しながら拡散してた出版社やぞ〟

〝まあカリンお嬢様は実質漫画のキャラみたいなもんですし……〟

〝なんかダンジョンアライブ作中でセツナ様の後ろに妹分としてずっとくっついてちょろちょろしてた気がするもんなカリンお嬢様〟

〝存 在 し な い 記 憶〟

〝個人勢かつ学生配信者のお嬢様はグッズなかったから純粋にありがたいですわー!〟

〝たまご先生が描いたカリンお嬢様様のイラストをもとにしたグッズって話ですけど一体なに作ったんですのー!?〟 



 出版社からのその前代未聞な打診にOKを出したカリンは、ちょっと怖いくらいの速度で届いたそのグッズサンプルを紹介すべく自宅配信を行っていた。


 同接はみるみるうちに膨れ上がっていく。


 元々カリンは人気に反してグッズ展開など皆無だった。そこに突如公式グッズの話が出てきたうえ、それがダンジョンアライブ新装版の有償特典というちょっと斜め上にカッ飛びすぎた供給源だったことからカリン党が殺到しているのだ。

 

「……!? な、なんだかいつも以上に勢いがヤベーですわ!? わ、わたくしのグッズの紹介なんてなんだかとても気恥ずかしいんですけど……こ、これ以上視聴者様が増えたらもっと恥ずかしくなって余計に言い出しづらくなってしまいそうですの……! と、というわけでいきなり出しちゃいますわ! 今回畏れ多くもダンジョンアライブ新装版についてくる有償特典はこれ、わたくしのアクリルスタンドですの!」


 言って、カリンは出版社から送られてきたその品をカメラの前に「えいっ」と写しだした。

 透明な板にもちもちたまご先生の描いたカリンのイラストを印刷し、台座に差して自立できるようにしたものである。



〝おー!〟

〝なるほどアクスタですの!〟

〝いいですわね!〟

〝フィギュアよりもお求めやすい値段で入手できるのが学生にも優しいですわー!〟

〝初のお嬢様グッズ&たまご先生描き下ろしとか一粒で二度美味しいやつですの!〟

〝こりゃ転売が不安ですわ……と思ってたらえげつない量確保してるらしくておハーブ〟

〝なんならアクスタは追加増産も比較的簡単だしな〟

〝これは普通にいい品でしてよ!〟

〝おあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! 最高にお優雅です!! 配信で稼いだお金全部つぎ込んで確保しまくります!!!!〟

〝↑おいこれ光姫様の裏垢だろ〟

〝使用用、観賞用、保存用、布教用、使用用、使用用をそれぞれ10個ずつ買ってそう〟

〝なにに使用するんですかね……〟

〝爆買い転売ヤ―かと思ったら光姫様だったって記事が出回るの確定〟



 カリンがカメラに写したそのグッズに、視聴者たちが盛り上がる。


 アクリルスタンド。


 口さがない者からはフィギュアなどに比べると安っぽいなどと言われることもあるが、アクリル板という丈夫な素材に加えてかさばらない形状から様々な場所に持っていきやすく、どこにでも飾れて手入れがしやすいなど、その手頃な値段とあわせてフィギュアとはまた別ベクトルの需要がある人気グッズである


 この手のグッズは当然色々と権利関係の話があるし、依頼する企業が信頼できるかの見極めも難しいので未成年かつ個人勢のカリンが展開する予定はなかったのだが……そこはもちもちたまご先生がメインで活動している出版社主導の企画。


 カリンに自作自演疑惑があった際にもちもちたまご先生が応援イラストを描きまくってくれていたが、それはたまご先生が単独バーサーカーをやっていただけではなく出版社も「たまご先生がそこまで言うなら」と自分達も炎上に巻き込まれること覚悟で立ち回っており、そのあたりの縁もあってカリンは先方をかなり信頼していた。実際契約内容などもカリンに相当割のいい条件になっており、真冬が快諾したこともあって話はトントン拍子。アクリルスタンドの生産が比較的容易なこともあり、こうして即座にサンプルがあがってきたのだった。


 そしてその早い仕事に反してクオリティも社運を賭けたかのごとくしっかりしており、



〝いやでもこれ本当に良いものですわよ!?〟

〝もちもちたまご先生のイラストがシンプルに神〟

〝わたくしなんとしてでも確保してセツナ様のフィギュア&ねんどろいどと並べることを決意〟

〝カリンお嬢様が笑顔で拳を握ってるポーズ、かわいい&凜々しくていいですわね!〟

〝拳に血管浮いてておハーブ〟

〝机に飾ってたら元気がもらえそうですわ!〟

〝お優雅なグッズ嬉しいですわー!〟



「え、えへへ。本当ですの? まだまだ未熟なわたくしなんかがたまご先生のお優雅なイラストでグッズになっていいんでしょうかとかなり不安だったんですけど……そう言っていただけて安心ですわ!」


 カメラ越しでも視聴者の反応は上々で、カリンは照れたようにはにかむ。

 が、そうしてカリンがアクスタの評判にほっとしていたところ、



〝マジでいい出来ですの!〟

〝これはカリンお嬢様が本当に側にいてくださる気分になりますわー!?〟

〝魔除けになりそうでいいですわね!〟

〝あとなんかアクリルスタンドにあるまじき耐久性してそう〟

〝胸ポケットに入れてたらヒビひとつなく銃弾弾いてくれそう〟

〝アルコールで拭いたら禿げるはずの絵が禿げなさそう〟

〝家に置いといたら空き巣とか撃退してくれそう〟

〝粗末に扱ったらブラックタイガー並みの破滅に引きずり込まれそう〟

〝大切に扱ったらなんか幸運がきそう〟

〝いつの間にかイラストなのに髪が伸びてそう〟

〝夜中勝手に動き出して冷蔵庫漁ってそう〟

〝お供え物欠かしたらオナカスキマシタワって声が聞こえてきそう〟

〝ダンジョンアライブ視聴してたらいつの間にか隣に移動して一緒に画面見てそう〟

〝トイ・○トーリーに出演したら1人だけ本物準拠の力持っててなにもかも消し飛ばしそう〟

〝怒濤の風評被害に草〟

〝マジックアイテム通り越して速攻オカルトアイテムみたいな扱いになってておハーブ〟

〝言いがかりもいいとこなのになんとなく否定しづらいのほんま草〟



「ちょっ!? 皆様なんですのその評価!?」


 と、なにやら悪ノリ(?)が始まりコメント欄の雰囲気が怪しい方向に傾き始めたことにカリンは絶叫。

  

 へ、変な加工とかしてませんわよ!? とあわあわと慌てたカリンがちょっとずれた反論をするという一幕はあったものの、はじめてのグッズ紹介配信はなんやかんや高評価で進行していくのだった。


―――――――――――――――――――――――――――

というわけで、近況ノートなどでもお知らせしましたが3月18日発売のお嬢様バズ2巻でカリンお嬢様のアクリルスタンドが本当に有償特典としてついてくることになりましたわー! しかも担当イラストレーター様である福きつね先生描き下ろしの新規イラストですの!(近況ノートに画像ありますわ!)

メロンブックス様にて入手できますので、特典SS付きブックカバー(2巻時系列における追加の掲示板回になります)とあわせてよろしくお願いいたしますわ!(地方在住お嬢様も通販が利用できるはずですの)


※アクスタ、売り上げ好調&メロンブックス様にて激推しの作品でしかやってもらえない特典らしく、まさに皆様の応援のおかげでの措置になりますわ! 改めて応援ありがとうございますですの! 書籍2巻への追い風になるよう、面白いと思っていただけたら引き続き☆やフォローなどで応援していただけますと大変嬉しいですの!

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