第61話 告白


 ボッ!!!!


 カリンの放った4つの斬撃により、ダンジョン壁で構成された下層の天井が真四角に切り取られた。


 その斬撃はカリンがいまいる下層第2層から下層第1層にまで届き、人1人が通れるほどのショートカットを一瞬で作り上げる。


 だがそのぶん切り取られた質量も大きく、超重量の四角柱が落下してくるのだが、


「ふんぬっ!」


 カリンはその切り取られたダンジョン壁を両腕でキャッチ。

 全身のバネで完全に衝撃を殺して近くの通路にそっと降ろし、いま作り出した真四角の穴へ速攻跳躍。滑らかな切り口を見せる壁面を蹴って一気に上の階層へと躍り出た。



〝ええええええええええええええええええええええ!?〝

〝なんですのそれええええええええええええええええええええ!?〝

〝ちょっ!? 下層の天井切り抜いて強引にショートカット作った!?〝

〝は!? なに!? これマジでもう下層第1層にいるの!?〝

〝どうなってんだ!? どういうことだこれ!?〝

〝音も衝撃もなくダンジョン壁を切り取りましたの!?〝

〝文字通り道を切り開いてるううううううううううう!?〝

〝階層間のダンジョン壁がどんだけ分厚いと思ってんだよ!?!?!?!?〝

〝どこまで斬撃が貫通してんだこれ!?!?!?〝

〝斬撃もおかしいけど落ちてきたダンジョン壁を普通に受け止めて横にそっと置いてるのなんなんですの!?〝

〝ふんぬっ、じゃねえですわ!?!?!?!?!?〝

〝あの大きさのダンジョン壁とか何十トンあると思ってらして!?!?!?〝

〝発砲スチロールじゃねえんだぞ!?〝

〝いやまあラージキメラ振り回してたお嬢様ならいけるだろうけども!〟

〝てかよく見たらいまカリンお嬢様が持ってる刀ちゅぱかぶらじゃなくない!?〝

〝モンスターどころかダンジョン壁まで音もなく切り裂く大刀とかいつの間にそんなヤバい装備作ってたんですの!?〝

〝カリンお嬢様マジどんだけ装備隠し持ってまして!?〝

〝いやなんにせよグッジョブじゃねえかこれ!?〝

〝これなら犠牲が出る前に間に合う、のか……!?〝

〝いやでもいくら衝撃がないとはいえこんな無茶苦茶やってダンジョンは大丈夫ですの!?〝



「問題ありませんわ! ダンジョン壁には濃い魔力が通ってますから! どこをどう切れば崩落しないか、余所に影響を与えないか、斬撃の射線上に人がいないか、完全把握してますの!」


 断言したカリンはさらにボッ! ダンジョン壁を再び切断。

 強引に作り上げた最短距離を突き進む。


「というわけで生き埋めになった皆様方! どうかご安心くださいまし! いまわたくしがお優雅に最短距離を行きますの! ですからパニックを起こさず冷静に! それこそが全員で助かるお優雅な道でしてよ!」


『カ、カリンお嬢様ぁ……!』

『バケモノすぎてこんな状況なのに変な笑いが出てきた……っ』

『ぜ、絶対にみんなで生きてカリンお嬢様に会いますっ!』


「その意気ですの! たとえどれだけ道が塞がっていようが、わたくしにかかれば上層まで駆け上がるなんてあっという間ですわ!」


 カリンはいつものお優雅な笑みで断言する。


 とはいえ……下層から上層まではシンプルに距離がある。

 二次被害を気にせずなにもかもぶっ壊して突き進んでいいならともかく、いまのやり方ではいくら最短距離を進むとはいえそこそこの時間がかかることは間違いなかった。

 ましてやなにかイレギュラーが起きれば……。


(どうか踏ん張るんですのよ、光姫様に引率の皆様、講習参加者の方々……!)


 そんな内心はおくびにも出さず、講習参加者を元気づけるように高笑いさえ響かせて。

 100万、120万と凄まじい勢いで増えていく同接に目もくれず、可能な限りの全速力でカリンは上層に向かって突き進んだ。



      〇



「……っ!?」


 通路の向こうから際限なく湧き出してくるモンスターをひたすら切り伏せるなか、光姫はしばらく前から後方の雰囲気が変わったことに気づいていた。


 パニック寸前だった講習参加者たちの雰囲気が、恐怖に震えながらも少し落ちついているのだ。


 それによって講習参加者たちの様子を窺う必要が少なくなり、モンスターとの戦闘が少なからず楽になっていた。


(地上とはまだ電波が通じてるはず……なら大手クランやギルドが救援要請に応じてなにか希望的な声明を出してくれた……!?)


 モンスターの叫声によって講習参加者たちがなにを見聞きしているのか把握できていない光姫のなかにいくつかの仮説が浮かぶ。


 だが戦闘が少し楽になってなお、その疑問の答えを探る余裕など光姫たちには欠片もありはしなかった。


(……! 戦闘開始からまだ大した時間も経っていない……! なのに、いくら凶暴化しているとはいえ上層中層モンスター相手にここまで消耗するなんて……!)


 レベル900とは本来、安全マージンを考えなければ下層のソロ攻略も可能になってくる猛者の領域だ。それが3人もいれば、普通は上層中層モンスターの群れ程度に苦戦するなどあり得ない。


 特に光姫は幼少時から鍛え抜いた達人級の剣技により、レベル900のなかでも突出した戦闘力を有していた。


 上層中層のモンスターが通路の奥から際限なく湧いてきたところで一滴の汗も流すわけがない。


 だが――それは通常のダンジョン攻略の場合だ。


「っ! 群れが十時の方向を抜けていきます! 対応を!」

「ヒートリザード一斉砲撃の気配あり! 備えて!」

「フライキャタピラーだ! 針の発射に注意! 一発も後方に通すな! 最優先で潰すぞ!」


 次から次へと現れるモンスターを回避することなど許されず、一匹残らず刈り尽くす。

 様々な角度から講習参加者を狙うモンスターを全力で追いかけ切り伏せる。


 普通なら回避するだけで済むフライキャタピラーの針もすべて切り飛ばさなければならず、吐き出されるヒートリザードの火球ブレスも剣圧で強引に消し飛ばす必要があった。


 光姫たちの後方にいるのはレベルを獲得したばかりの子供たち。あるいはレベルさえ獲得していない怪我人たちだ。回復薬などという都合の良いものは存在せず、なかには重傷者もいる。


 たったひとつの取りこぼしが即致命傷となり、それを防ぐために常に全力で周囲に神経を張り巡らせる必要があった。


 ひとつのミスも許されない戦闘に、魔力はもちろん精神力の消耗が尋常ではない。


 レベル900が3人いてようやくギリギリの均衡。

 加えて戦い抜いた先に救援も望めないとなれば薄暗い地下で気力もすり減っていくばかりだ。

 ただ、

 

(……っ! また講習参加者たちの雰囲気が上向いた……!?)


 大手クランの救出隊結成でも発表されたのか、よほどの超戦力が投入されたのか。

 全身全霊を戦闘につぎ込んでいる光姫には引き続き理由を推察する余裕はない。

 けれど、


(これなら迎撃と防御に全神経を集中できます……! レベル900のスタミナもあわせれば、この均衡も根性で丸1日くらい保てるはず……!)


 たとえ丸1日耐えたところで助けがくる可能性は極めて低い。 

 1つのミスも許されない修羅場には違いない。


 だがそれでも確実に楽になった戦闘と、なんらかの希望を抱いている講習参加者たちに呼応して、最後の最後まで絶対に守り抜くと光姫たちは気合いを入れ直した――そのときだった。

 

 ダンジョンの――あるいは別の何者かの悪意が牙を剥いたのは。



 こつんっ。



 それは激しい戦闘のなかにあってあまりにも小さな異物。


 戦闘音やモンスターの叫声、その震動で、塞がった天井の隙間からパラパラと落ちてくる程度の小さな石。たった数個。


 だがその小さなが内包する異質な魔力に光姫たちがバッ! と視線を向けた瞬間。


 ヒートリザードの火球ブレスが狙い澄ましたようにその小石に放たれて――光姫たち引率3人の全身から血の気が引いた。


「ま――っ!」


 それはほとんど反射的な行動だった。

 本来なら即座に石から離れなければならないところを、光姫たちはなりふり構わず全力でスキルを発動させる。


 そして――ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 講習参加者たちを守るために盾となった引率たちも、火球を弾こうと駆けた光姫も、凄まじい衝撃がすべてを吹き飛ばした。


 爆炎石の爆発。


 少数かつ小さな欠片ゆえに、幸いその爆発でさらなる大規模崩落が起きることはなかった。

 だが爆炎石は下層ボスにも致命傷を与える莫大な威力を秘めているのだ。


 たとえ小さな欠片による爆発であろうと、耐久力が人並み外れるレベル900探索者に余波だけで大ダメージを与えるほどに。


「あ……ぐ……っ」


 吹き飛ばされた光姫が呻き声をあげる。

 引率2人も講習参加者たちの無事と引き換えにその場に崩れ落ち苦悶の声を漏らす。


 大火傷や欠損こそないものの、爆発の衝撃で立ち上がることすら難しいダメージが全身を蝕んでいた。


「光姫ちゃん!」

「新田さん! 荒川さん!」

「こんな、こんなのもう……っ」


 どうにか無事だった講習参加者たちのそんな悲鳴がなければ意識を手放していたかもしれない。それほどのダメージだ。


 そしてそんな状況にあって――手加減してくれるモンスターなど存在しない。

 

「「「「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」


 むしろ新たな爆炎石の臭いでさらに凶暴さを増し、広間で吹き飛んだモンスターたちの代わりとばかりに通路の向こうから狂ったように突っ込んでくる。


 絶望の行進。しかしそれでも、


「う、ああああああああああああ!」


 光姫は立った。

 剣を握り、培ってきた剣技をバケモノたちに炸裂させる。


(まだです……! 少なくとも自分が死ぬまで絶対に死人は出さない! 代々の四条家の人間はもちろん――カリンお嬢様だって絶対にそうするんですから!)


 刻む。刻む。血潮をまき散らして迫るモンスターを切り伏せる。


「~~! こうなったらもう余計なことしたら邪魔になるとか言ってられねえ! 防御に徹してないで戦うしかねえ! 光姫ちゃんが取りこぼした少数の上層モンスターから倒せばどうにか……!」

「数人でいい! レベルアップして少しでも戦力になれれば……!」

「あと少し、あと少し持ちこたえればきっと……!」


 もはやあとがない状況と光姫の奮戦に講習参加者たちも覚悟を決めて応戦を開始する。


 だが、


「あ……?」


 それよりも早く光姫の限界がきた。

 かくんっ。糸が切れたように崩れ落ち、体に力が入らずまともに剣も握れない。

 爆発のダメージは思いのほか深刻であり、使命感と根性で補える領域を、光姫はとっくに超えていたのだ。


「「「グオオオオオオオオオオオッ!」」」


 光姫が倒れた途端、その脇を抜けたモンスターたちが講習参加者たち目がけて殺到する。


「あ……ぐ……っ、ごめんなさい……私の力が、足りなくて……っ」


 守れなかった事実に光姫の口から謝罪が漏れる。

 そして当然、そんな光姫にもまたモンスターたちの鋭い爪が振り下ろされて、


(こんなことなら……あのときちゃんとカリンお嬢様に謝っておけば――)


 死の間際、そんな後悔とともに光姫が目を閉じようとした――そのときだった。


 

 ズパァンッ!


 

「え……?」


 光姫にトドメを刺そうとしたモンスターたちが、

 

 斬り殺されたのはその一群だけではない。


 講習参加者たちに襲いかかろうとしていたモンスターの群れもまた、寸前で1匹残らず縦に斬り殺され、しまいにはダンジョン壁で構成された地面が真四角に切りとられた。


 そして切り取られた地面が音もなく落下していったかと思えば――、



「っぶねえええ! マジ危機どころか危機三発くらいありましたわー!」



 空いた穴からドレス姿のお嬢様が飛び出してきた。


「……………………………え?」


 光姫は最初、それが今際の際に見た都合の良い幻だと思った。


 だってそんな、あり得ない。

 死に際のピンチに推しがダンジョン壁を切り裂いて現れるなんて。

 

 けどそれは幻覚などでは絶対にあり得ない存在感を放っていて――、


「よし、全員どうにか無事ですわね!? それでは早速モンスター様はぶち殺し――もといお片付けのお時間ですわー!」


「「「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」


 呆然とする光姫の前で、カリンが大暴れをはじめた。

 手に持つ獲物はダンジョン壁を切り裂いた刀ではなく、血を吸えば吸うほど切れ味を増す名刀ちゅぱかぶら。


 木っ端微塵パンチはモンスターの破片が講習参加者にぶつかる可能性があるため自重し、斬撃によって極めて静かにモンスターを切り刻む。ドレスを翻し、踊るように戦場を駆け抜けあっという間に群れを殲滅。


「「「グルオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」


 凶暴化したモンスターたちが通路の奥から新たに突っ込んでくるが、


「無限湧きうっっっぜえですわああああああ!」


 スパァン! 


 カリンはちゅぱかぶらとは違うもう一本の大刀でダンジョン壁を切断。地上へ続くルートを作り上げると同時、切り出した壁を当然のように持ち上げ爆速運搬。モンスターたちの迫り来る通路をあっという間に塞いでしまった。


「ふぅ! 油断は禁物ですが、ひとまずこれでイカレポンチになったモンスター様たちに邪魔されず地上へ戻れますわね! 皆様、本当によく持ちこたえてくれましたわ! この場にいる全員、ドチャクソお優雅でしたの!」


「……っ!?」


 あまりの力業に「いやこれやっぱり幻覚なのでは?」と光姫は本気で疑う。

 荒唐無稽すぎる展開にこれはもう死に際の妄想に違いないだろうと。


 だが――爆発する歓声が光姫にそれが現実だと教えてくれた。



「う、うわあああああああああ! カリンお嬢様あああああああ!」

「本当に、本当に来てくれた……!」

「助かった……助かったの……!? 本当に……!?」

「あ、あはは……本当に、ダンジョン壁を切り裂いてる……」



〝うわああああああ! マジで間に合ったあああああああああ!〝

〝追加の爆炎石が爆発したときはマジでもうダメだと思ったのに……〝

〝うっそだろおい……!?〝

〝うわああああああああああああああ! カリンお嬢様カリンお嬢様カリンお嬢様あああああああああああ!〝

〝マジで頭おかしい以外は最高のお嬢様だよあんた!〝

〝てかダンジョン壁越しにモンスターぶった切ってるのなんなんですの!?〝

〝まあ分厚いダンジョン壁を明らかに刀身以上の長さぶった切ってるんだからそのくらいは……〝

〝飛ぶ斬撃を見たことあるか?〟

〝ネットで見た〟

〝いや意味わかんねーですわ!? けどなんか全員助かったらから細かいことはまあいいかですわ!〝

〝なるほど! 地上への通路を開通させながら凶暴化モンスターを食い止めるには切り取ったダンジョン壁をモンスターの迫ってくる通路を塞ぐのに使えばいいんですのね????〝

〝完璧な対処法っすねー! カリンお嬢様以外に実現不可能ってことに目をつむればよー!〝

〝なんかもう凄すぎてカリンお嬢様が危機一髪の漢字間違って覚えてそうとかチンピラがはみ出しまくりとか誰もツッコんでねえ!〝

 

 

 モンスターが消えたことでようやく聞こえるようになった講習参加者たちの声。

 それはカリンお嬢様が来てくれることを事前に知っていたことが明らかなもので。

 つまり講習参加者たちが希望を見いだしていたのは、ずっと彼らを励ましてくれていたのは――。


「あ、光姫様! よかったですわ!」


 と、ようやくこれが現実だと認識しはじめた光姫にカリンが駆け寄ってきた。

 さらには満面の笑みで光姫の手を取り、


「光姫様の奮闘、断片的にですが見てましたわよ! わたくしが間に合ったのは皆様の奮闘はもちろん、光姫様がギリギリまで頑張ってくれたからですの!」


「え、あ……」


「本当に、よく最後の最後まで諦めずに戦ってくださいましたわ! 最高にお優雅でしたわよ!」


 その言葉に、色々と張り詰めていた光姫の感情がついに決壊した。


「う、あ、うあああああぁ……カリンお嬢様あああああぁ!」


 ドレスを汚さないよう、抱きつくのは最後の理性で我慢して、カリンの手にすがりつくように泣きじゃくる。


「あ、あらあら……また年上の方に泣かれてしまいましたわ……本当によく頑張ってくれましたのね」



〝あら^~〝

〝いいですわぞ^~〝

〝光姫様、カリンお嬢様に良い感情もってなかったぽいですけどこれは反転百合の気配……!〝

〝脳が回復する音^~!〝

〝いいですわ! そういう王道もっとちょうだいですわー!〝

〝いけませんわ! 今度こそ親友ちゃんの嫉妬で梅雨みたいな湿度になっちゃいますわよ!〝

〝それにいまは穂乃花様もいるんですのよ!〝

〝百合の三角関係、四角関係なんてなんぼあってもいいですからね〝

〝親友ちゃん「いいわけねえだろ(# ゚Д゚)」〝



 泣きつかれたカリンが照れ、何人犠牲になるかわからない状況に先ほどまでハラハラしていたコメント欄が反動もあって盛り上がる。


 が、次の瞬間だった。


 最早感極まりすぎてわけがわからなくなった光姫はカリンにすがりついたまま、


「うわあああああああ! 本当に、本当にこんな……助けにきてくれて……カリンお嬢様がフィストファックお嬢様になってしまったのは私のせいなのにいいいいいいいい!」


「ふぇ!?」



〝!?〝

〝!?〝

〝!?〝

〝ファ!?〝


 

「ごめんなさいいいいいいい! フィストファックなんて書き込んでごめんなさいいいいい!」


「ちょっ、光姫様!? なにを仰ってますの!? いまカメラ回ってますのよ!?」


「ずっと謝りたかったんですううううう! でも、でも大好きなカリンお嬢様に恨まれたらもう生きていけないと思ってずっと先延ばしにして変な態度とって……! カリンお嬢様はそんな私を助けに来てくれて……! それなのに私はこんなに最高の配信者カリンお嬢様をフィストファックお嬢様なんかにしてええええええ!」


「光姫様あああああ! 聞いてくださいましいいい! いま同接200万ですのよおおおお!?」

 


〝え、ちょっ、は!?〝

〝ちょっ、なんだこれ!? なんだこれ!?〝

〝光姫様なに言ってんの!?〝

〝さっきまでの尊い空間、どこへ!?〝

〝光姫様の錯乱具合が斜め下すぎておハーブ〝

〝いやこれ錯乱か!?〝

〝なんならキャラ崩壊してる光姫ちゃんに古参ファンの俺が錯乱しそうなんだが??????〝

〝あら^~?????????????〝

〝光姫様ファンと百合クラスタ大混乱でおハーブ〝

〝百合クラスタと光姫様ファンどころか全員もれなく

 パニクっとるわ!〝

〝つ、つまりどういうことだってばよ!?〝

〝え、ええと、光姫様の発言から推察するに、光姫様は元々カリンお嬢様のファンだったのに実はフィストファックコメント書き込みニキネキでもあったからどう接すればいいのかわからなかった……ってこと????〝

〝つまりどういうことだってばよ!?!?!?〝

〝わたくしいま宇宙猫みたいな顔になってますわ????〝

〝これもう無量空処だろ……〝

〝み、光姫ちゃんがフィストファックなんて書き込むわけないだろいい加減にしろ!〝

〝こ、これはカリンお嬢様が言わせてますね。ま、間違いない〝

〝お、おのれ山田カリン……!〝

〝あまりに力強い自白に光姫様ファンが現実逃避しきれてなくておハーブ〝

〝2人は幸せなキスをして終了、って書き込もうとしてたらとんでもない超展開になって数秒フリーズしてたのが俺なんだよね〝



「うわあああああ! 本当のフィストファックお嬢様は私なんですううううう! なので今後その汚名は私に……! そしてカリンお嬢様が言うなら腹を切ってでもお詫びしますうううううう!」


「ちょっ、光姫様ああああああ!? いったん落ち着いて! それ以上は蒸し返さないでくださいましいいいいいいい!」

 



 ――と、最後に盛大な一悶着はあったものの、その後もカリンの手厚い護衛によって全員が無事にダンジョンを脱出。


 あまりにも劇的な救出劇に加え、脱出後に光姫が改めて「フィストファックは自分の書き込みである」と裏アカIDまで公開した証明謝罪配信を行ったことでネットは色々な意味で大盛り上がり。


 お互いのチャンネルに視聴者が流入しあったこともあり、光姫のチャンネル登録者数は600万、カリンのチャンネル登録者数は800万まで激増。


 衝撃の告白でカリンの汚名(の一部)を完全に引き受け「シン・フィストファックお嬢様」となった光姫をカリンが糾弾することなど当然なく、誰1人犠牲を出さなかったダンジョン崩落事件は八方すべて丸く収まるのだった。



 ――だがその一方で、



〝いやー。カリンお嬢様マジですごいわ。今回も犠牲者ゼロとかヤバすぎ〝

〝確かにすごいよね、あの山田カリンって人。けどさぁ……なんか出来すぎじゃない?〝

〝思った。ダンジョン崩壊だけならまだしもブラッククランの置き去り事件にダンジョン崩落ってさ……普通そんなに色々遭遇する? しかもこの短期間に〝

〝2回ならまだしも3回までいくとちょっとね……〝

〝さすがにちょっと怪しすぎますね〝

〝もしかしてだけど……これってまさか山田カリンの自作自演とかない?〝

〝あり得る。できるかできないかで言ったらダンジョン崩落は確実にできるし、下手したら俺たちの想像もつかない〈神匠〉製アイテムでダンジョン崩壊だって起こせるかも……〝

〝いちおう理由あるとはいえ、いつ犠牲者が出るかわからない場面で配信切らずに講習参加者を励ましてたのも露骨っていうか……〝

〝登録者数伸ばすために自分で大事件起こしてヒーローになりすましてた可能性があるの?〝

〝普通ならあり得ない与太話だけどあの常識外れっぷりなら……ねぇ?〝

〝やばい疑惑出てきたな〝



 ほとんどの人々がカリンの偉業とシン・フィストファックお嬢様爆誕に沸き立つなか――そんな書き込みがネットの至るところで、不自然なほど一斉に芽吹きはじめていた。


 闇に身を潜める虎の悪辣な笑みとともに。




―――――――――――――――――――――――――――――――――

文字数や構成の関係で言及できなかった新武器、大刀の名前については明日おまけSS投下しますわー!


※あとストレス展開で話数またぐのが個人的にあまり好きじゃないので、申し訳ありませんが次回の本編62話は13000字の大ボリューム更新になりますわ……! 


※また、このたび☆15000と400万PV達成です! 皆様本当にありがとうございますですの! 応援評価やフォローは新規読者様の獲得にも繋がりますしどちゃくそ励みになりますわ!

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