第7話 雑談配信 前編
【あれがフェイクじゃ】チンピラお嬢様考察スレ 【ないんですの?】
678 通りすがりの名無しさん
おいお前ら! お嬢様の生配信告知きてるぞ!
【お優雅】山田カリンのおしとやか雑談生配信【お上品】
→URL 18:30開始
679 通りすがりの名無しさん
配信タイトルお嬢様要素ゴリ押しで草
670 通りすがりの名無しさん
お優雅(迫真)
671 通りすがりの名無しさん
お上品(圧)
672 通りすがりの名無しさん
チンピラお嬢様のトレンド入り気にしてるやろこれww
673 通りすがりの名無しさん
草
674 通りすがりの名無しさん
枠名だけで面白いのは反則だろwww
675 通りすがりの名無しさん
これは期待ですわ
676 通りすがりの名無しさん
課題なんてやってる場合じゃねえ!
○
「真冬には元気いっぱいに宣言したものの……いざとなるとハチャメチャに緊張しますわね……マジ震えてきやがったですわ……」
放課後。配信の準備を終えてパソコンの前に座ったカリンは何度も深呼吸を繰り返す。
しかしどれだけ自分を落ち着けようとしても心臓の鼓動は胸を突き破りそうで、じっとりした汗が止まらない。
間違いなくはじめてダンジョンに潜ったときよりも緊張していた。
パソコンの前に座ってるのに、表示された配信準備画面もろくに見られないほどだ。
「え、ええと、準備はこれで大丈夫ですわよね……喋る内容のメモに、ダンジョン攻略時と同じドレスと髪色、あと家具の配置も……あそこはもうちょっとずらしたほうがお優雅かもしれませんわ」
自室を振り返り、いつか大勢の前で自宅配信するときのためにと揃えていたお嬢様っぽい家具の位置を再度微調整する。とある理由からお値段ほぼ0の思い入れある手作り品。このまま一生真冬以外の目に触れることはないのでは、と思っていただけにその配置は余計に気になるのだ。位置直しはこれでもう10回目である。
とはいえそこまで神経質になるのも無理はなかった。
「な、なんだか朝よりも登録者数が伸びてますし、事前準備は念入りなくらいでちょうどいいですわよね……!」
授業を受けている最中も登録者は増え続け、その数は既に45万を突破している。
トレンドにはいまも「山田カリン」の名前が載っており、その注目度は配信界隈のなかでも随一。神経質にもなるというものだ。
「い、一体何人の方がいらっしゃるんでしょう……1000、いや3000くらいは来てしまうかもしれませんの……って、そんなこと言ってたらもういい時間ですわ!?」
さすがにバズったあと初の配信で遅刻などあり得ない。
いつまでも家具の配置や髪の毛の具合などを気にしているわけにもいかず、「だ、大丈夫ですわ……イメージしたとおりに喋れば……」と覚悟を決めて配信開始をクリックした。
「え、えいやっ、ですわ!」
画面にカリンの姿が映り配信が始まった。
「み、皆様ごきげんよう。お嬢様探索者、山田カリンのお優雅な雑談配信ですわ」
ずっと脳内でイメージしてきたセリフをお優雅に言い切る。
途端、
〝キタアアアアアアアアアアア!〝
〝告知からずっと待ってたぞおおおおお!〝
〝マジで例の動画そのままのお嬢様だああああああああ!〝
〝はじめまして!〝
〝例の動画からきました!〝
〝待ってた!〝
〝お嬢様!〝
〝勧善懲悪お嬢様!〟
〝チンピラチンピラお嬢様!〝
〝正義のチンピラお嬢様!〝
「うお゛え!?」
爆速で流れる無数のコメントにカリンの口から奇声が漏れた。
〝草〝
〝wwwww〝
〝いまお嬢様から出ちゃいけない声が出たぞwwww〝
〝お嬢様はしたないですわよ!〝
〝開幕早々化けの皮が剥がれてて草〝
〝これはもっとコメントしまくって慌てさせるべき〝
(な、なんなんですのこれ!? どうなってますの!? 連投ツールってやつですの!?)
あまりのことに頭が真っ白になる。
怒濤のごとく流れていくコメントは数が多すぎて追い切れないほどだ。
いや正確には動体視力向上と脳内処理速度上昇のスキルで表示されたぶんはすべて読めているのだが……。莫大な数のコメントになにをどう対応すればいいのかまったくわからないのだ。
(ちょっ!? ずっと配信を続けてきた1年の累計よりこの1秒で流れてるコメント数のほうが遥かに多いですわよ!?)
異常はそれだけではない。
(っ!? 同接1万!?!?!?)
配信開始直後にもかかわらず表示されたその数字にカリンは本気でなんらかの不具合を疑った。だがぎょっと目を見開くカリンの前で数字はさらに増えていき止まらない。止まっているのはあまりのことにフリーズするカリンだけである。
(っていけませんわ! これじゃ放送事故になりますの! と、とりあえず改めて挨拶して場を繋ぎませんと……!)
「あ、あ、改めて、初めての方がほとんどだと思いますので改めて自己紹介を。わ、わわ、わたくし、お優雅なダンジョン探索配信をメインにやらせていただいている山田カレンですわ」
〝声震えすぎで草〝
〝開幕時の威風堂々としたお嬢様はどこに……w〝
〝お嬢様ならさっきの「うお゛え!?」で死んだよ〝
〝自分の名前間違えてて草〝
〝緊張しすぎやろwww〝
〝落ち着いて!〝
〝てかいきなり同接1万超えとるやんけ!〝
〝おめ〝
〝1年過疎だったのが自宅配信でいきなり同接1万越えとかそりゃ誰でも緊張するわな〝
「す、すみませんわ、こんなにたくさんの人がいらっしゃったのははじめてで……え、ええと――」
つ、次はなにを喋れば!? てゆーかドレスに引っかかってメモがどっかいきましたの!?
なにか言うたびになぜか盛り上がるコメ欄にカリンはさらにあわあわと慌てる。
そうこうしているうちに同接は12000人、14000人とどんどん増えていき、コメントもさらに増加していった。
〝動画見たぞ! 若手最強の影狼ぶっ飛ばすとかどうなってんの!?〝
〝これで個人勢ってマジ?〝
〝なにをどうやったら影狼を無傷でぶっ倒すバケモノが1年も埋もれるんだ!?〝
〝あの影狼をぶっ飛ばしたのスッキリしました!〝
〝ありがとうお嬢様!〝
〝昨日は飯が美味かったぞ!〝
〝本当にあなたがあの影狼をぶっ殺したんですか!?〝
「いや殺してはいませんわよ!?」
カリンはそこではじめて、ひとつのコメントに大きく反応した。
いやさすがに「ぶっ殺した」はネット特有の大げさな表現とはわかっているが……今回の件では色々とあることないこと言われているらしいのだ。加えて影狼の所属クランとやらが混乱のせいか彼の容態について未だ公式発表していないことから、ネットユーザーの悪ふざけで妙な噂が立ちそうな土壌があった。
万が一にでも影狼を殺したなどという話にならないよう慌てて口を開く。
「爆炎石に着火しようとしてたから止めただけですの! 気絶させてしまったあとはちゃんと外まで送り届けたんですのよ!? 当時は迷子が錯乱したものだと思ってたのもあって、なけなしの応急薬もドバドバで……そのあとちゃんと生きて病院に運ばれましたの! なぜかわたくしと一緒に!」
〝wwwww〝
〝お嬢様のぶんまで救急車呼ばれたくだりほんま草〝
〝まあアレはしゃーない〝
〝俺が守衛さんでも絶対同じことするし……〝
〝マジでゲロのこと迷子扱いやんけwww〝
〝まあ実際そんな勘違いされても仕方ないことしてたからなあいつ〝
〝てかなにげにゲロを一方的にボコったの確定か……やべぇな〝
〝仮にも若手最強のトップランカーを文字通り子供扱いか……〝
「え、ええと、あ、そうですの。そんなわけで、実は今日の配信はまず昨日のことについて軽く触れておこうと思ってたんですのよ」
と、そこでカリンは今日の配信での最優先事項を思い出す。
いくら相手が100%悪いとはいえ、ぶっ飛ばした相手について触れずに配信を続けるのは個人的にモヤモヤするし不誠実だと思ったのだ。
過激なコメントをきっかけにやるべきことを思い出したカリンはそこでようやくまともに話出す。
「今日改めて病院のほうには連絡いたしまして。わたくしがぶっ飛ばしてしまった影狼様については命に別状ないとのことですわ。退院はまだ先らしいですが一応既に意識も取り戻しているらしくて一安心ですの」
〝そうなんだ〝
〝いやちょっと待て。下層ソロでいける探索者が一晩経ってまだ退院は先……?〝
〝「一応」意識は戻ってるってそれ……〝
〝なんかちょいちょい不穏なワードが……〝
「ただ、やはりわたくし少しやりすぎてしまったかもしれなくて……。気絶どころか入院までさせてしまったことを影狼様に改めて謝罪しようとしたのですが、病院に電話をかけたら影狼様は通話断固拒否でマネージャーさん? としかお話できず。また折を見てちゃんと和解したいのですが……慌てていたとはいえ力加減を間違えてしまって反省ですわ」
〝ゲロwwww〝
〝まああのプライドの塊が話すことなんてないわな〝
〝なさけねぇwwww〝
〝16の学生が通す必要もない義理を通そうとしてるのに24のゲロはさぁ……〝
〝ゲロ相手に「力加減を間違えた」とかさらっと言える隠しきれない強者のオーラ〝
〝てかお嬢様思ったよりしっかりしてるな〝
〝エセお嬢様だけど説教の内容で良い子なのはわかってたしな〝
〝お嬢様気にすることないぞ〝
〝ゲロが100%悪い〝
〝元から否定されてたけど、なんかもうこれで完全にやらせ疑惑消えたなwww〝
〝危険行為止めてもらったうえにダンジョンの外まで運んでもらって会話拒否はないわ〝
〝ゲロはさぁ……そんなだからボコられる動画が400万再生とかいくんだぞ〝
〝ゲロ君そのまま死んだほうがよかったのでは?〝
「あ、あれ?」
なんだかコメントの雰囲気がかなり怪しい。というか少しピリついている気がする。
もしかすると影狼の嫌われ具合を見誤って少し余計なことまで喋ってしまったのかもしれない。カリンは慌てて、
「み、皆様もう少しおしとやかにいきますわよ~? げ、ゲロとか汚い言葉はお優雅ではありませんことよ~」
〝了解ですわ!〝
〝皆様もう少しお言葉を選ぶべきですわね! カリンお嬢様が怯えてらしてよ!〝
〝カリン様の配信で影狼様の悪口は無粋でしたわね!〝
〝影狼様のことはこれからお吐瀉物様とお呼びしますわ!〝
〝突然のお嬢様大量発生で草〝
〝おハーブ〝
(ふ、ふぅ。視聴者の皆様がノリの良い方ばかりで助かりましたわ……)
とカリンがコメント欄の一体感にほっとしていれば、
「っ!? ど、同接3万ですの!?」
〝おめでとうございますわ!〝
〝配信開始から10分くらいですのに……凄い勢いですわね〝
〝なんならいまもまだトレンドに乗ってますもの、当然ですわ〝
〝お吐瀉物様を瞬殺したJKとか伸びない理由がないんだよなぁ〝
〝乾杯ですわ!〝
「い、一体どこまでいくんですのこれ……」
お嬢様たちの祝福がコメント欄を埋め尽くすなか、カリンはいまなお増えていく同接に愕然とした声を漏らすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます