控訴…?

「やりましたね…勝ちましたわ!」

カイナさんが喜びの声を上げる。

「ええ…これで、殺人者は追放されなくて済みますのね」


「私の出番、少なかったな。ま、勝てたしいいとするか!…あれ、アレイ?どうした?」

私は、原告の人達を見つめていた。

「…?」

彼らが、この程度で諦めるはずがない。

きっと、私達に文句や暴言を浴びせてくる。

少なくとも、控訴は宣言するはずだ。

その考えはラステも同じようで、彼もまた向こうをじっと見つめていた。


彼らは仲間内でひそひそと何か話し、やがて司祭の男が代表して言った。

「我々は、控訴します」

やっぱり、そうきたか。

人々はざわめいたけど、予想通りだ。

でも、そうはさせないわよ。


「そうですか。では、その理由をご説明願います」

私は立ち上がり、前に出て言った。


「なに…?」


「そんな嫌そうな顔をされる理由はないと思うのですが?あなた方のお気持ちは、私にはわかりません。なのでもちろん、控訴しないでとは言いません。ですが、控訴するということは、あなた方には今回の裁判に納得できない何かがあったのでしょう。それをお聞かせ願います」


「なぜだ?なぜそれを貴女に話す必要がある?」


「私は、裁判とはあくまで公平にかつ潔白に行われ、判決が降りるものだと思っています。なので、いつ如何なる裁判であっても、素直にかつ単純な陳述をしますし、相手方にもそれを求めます。今回も当然、その考えに基づいて証言をしましたが、私は裁判の経験は浅いですので、もしかしたら相手方並びに裁判官の方々に納得いただけない振る舞いをしていたのかもしれません。なので、今後のためにも、今回の私の言動に粗があり、それがもとで控訴すると言うのであれば、ぜひお話ください」


原告の男は黙った。

十中八九殺人者を無罪とする判決が気に入らないだけなんだろうけど、さすがにそれを堂々と言う勇気はないらしい。

私は、ここでさらにたたみかけた。

「私の言動に、特に気になる点がないというのであれば、控訴される必要はありませんよね。あっ、もしや判決が気に入らないのですか?それとも、裁判官や裁判長にケチをつけるおつもりですか?」


「…黙れ!お前のような小娘に負かされるなど、私のプライドが許さんのだ!この上は、何としてもお前たちを負かしてやる…!」

…案の定怒ったわ。

素性をあらわにしてるのに気づいてないのかしら…と言うのはさておき、ここまでくればあともう少しだ。

私も敬語を省き、心の内を吐き出す。

「プライドですって?…バカみたいね。裁判って、そんなもののためにするものじゃないでしょう?私はあくまで正当な方法で裁判に臨み、正当な陳述をしただけ。正々堂々争って敗れたのに、結果が気に入らないからってごねるなんてみっともない。いい年して、そんなつまらない考えを持ってるの?」


「き…きさま…!」

ここで、シルトさんが仲裁に入ってきた。

「ふたりとも、落ち着きなさい。彼女の言う通りよ。原告であるあなた達が控訴すると言うのなら、それでもいい。ただ、判決が不服である以外に何か理由があるのなら、彼女の求めに応じてあげてもいいんじゃないかしら?」


「…っ!」

男は歯を食いしばり、拳を握りしめた。


「その必要はないぜ」

聞き覚えのある声に、私は思わず振り向いた。




「…龍神さん!」

そこには、懐かしい私のパートナーの姿が。

その近くにはラステがいた…おそらく、彼が連れてきてくれたのだろう。


「なっ…!殺人者!?なんでここに!?」

たちまち人々はパニックになった。でも、彼はどうにかして人々を落ち着かせようと試みていた。

「あー、違うんだ…皆さん。勘違いしないでくれ。別に何かやらかそうって腹づもりじゃあないからな…うん。ま、とりあえず落ち着いてくれや」


そして、彼は原告たちの方を見た。

「さて。お前さんらはこの子の言ってることが気に入らないみたいだが、それだけじゃあないよな?」


「ぐぐ…」

男は歯ぎしりをして、がくがくと震えている。

よく見ると、ほかの原告たちも同様だった。


「まだ隠すつもりか?なら、仕方ないな。[リベレー]」

龍神さんは、唐突に光の魔導書を取り出して魔法を唱えた。

すると、原告たちの体が溶け始めた…。




「…!」

溶けた体の下から出てきたのは、なんとアンデッド。

青い髪に青い瞳を持ち、血色の悪い唇をした、血肉を持つリッチのような姿だった。


「やっぱりマーラヴ、マーラスか!着ぐるみ着たってバレバレだぜ!」

マーラヴにマーラス…ということは、流未歌に心を奪われて下僕となった元生者。

前者は女で、後者は男だ。


「見た目で気づいてたのか?…まったくさすがだね、世界一の吸血鬼狩りさんよ」


「お世辞は後だ。まずは、こいつら片付けるの手伝え!」


「へえ…やれやれ、アンデッドは好きじゃないんだがねえ。ま、オレも殺人者だしな」

そう言いながら、ラステは短剣を抜いた。


「あら、あいつらアンデッドだったの?なら裁判なんかする必要なかったじゃない。初めから力技で潰せばよかったんだわ」

メレーヌさんも、その水の刃をあらわにする。


「不死者が生者になりすまして町に入っていたとは。だが、正体がわかったのが運の尽きだ!」


「これでは、なおのこと控訴が通るはずありませんわね。控訴の前に、私達が判決を下してやらねば!」

ライマーとカイナさんも武器を出した。



「あ、ちょっと待った」

いきなり両手を挙げてそう言ったかと思うと、龍神さんはシルトさんの方を見た。

「裁判長さんよ。ここからは、その…なんだ。体の良い決闘裁判みたいな形にさせてもらっていいかな?」


「…ええ、もちろん。原告は、自分たちの正体がアンデッドだなんて一言も言ってない。素性を隠したまま出廷していたのなら、立派な罪になる。あなた達への判決を確定づけるためにも、決闘で決着をつけることを認めるわ」


「へっ、そいつぁどうも…ようし!」

龍神さんは魔導書をしまい、刀を抜いた。


「観衆の皆さん!ここからの裁判はかなり過激なものになります。グロいものがお嫌いな方、気のお弱い方は早めに離席なさった方がいいと思うぜ!」

傍観席に座っている人達への忠告?をして、彼はアンデッドたちを睨みつけた。

もちろん、私達もだ。


敵は9人、そのうち司祭のアンデッドは4人。

対して、こちらは5人。

唯一アンデッドを倒せないライマーも自前の聖水を被ったので、これで全員が奴らを倒せる。


まずは、司祭から行こう。

私がそう思う中、裁判が開廷した。

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