知り合いの魔導士

そうしてちょっと南東に行くと、すぐに目的の場所が見えてくる。

そこは、外見は周りにある家となんら変わりない普通の一軒家だ。


私がドアを叩くと、すぐに顔を見せてくれた。

「おお、アレイ…久しぶりだね」


「そうね。ざっと17年ぶり…ってところかしら」

私が来ると知って急いで整えたのだろう、彼の青い髪はところどころ乱れていたし、顔もまだ洗ったばかりのようで濡れていた。


「さっそくだけど、上がらせてもらっていい?」


「ああもちろん。ん、友達か?」


「それは中で説明する」


「そうか…わかった、上がってくれ」


「ありがとう」



そうして私達は彼の家に上がった。

玄関から上がった先の、広く長い廊下の白い壁には、1枚だけ絵がかけられている。

ラステはそれが気になったのかちらちらと見ていたけど、彼なら描かれている場所がどこかはわかると思う。

それは、他ならぬレークの町だからだ。


彼はメレーヌさんの時だけでなく幾度かレークに来たことがあるようで、「仕事」で来ていたこともあれば観光で来ていたこともある…みたいだけど、たとえ観光でも実際は仲間と共に夜の水兵の動きや人通りの多い道を調べて誘拐、もとい密猟のための下調べをしていたり、適当なものに目をつけて盗んだりしていた。

結局、犯罪をやるために来ているようなものだ。


ちなみに、彼は行き掛けの駄賃として町のものを盗んでいったこともあるらしい。…そう言えば、私の勤めている店や友達のところで、製品や備品が盗まれることが何度かあった。

あまり考えたくないけど、もしかしたら彼かその仲間の仕業だったのかも知れない。

まあ…もしそうだったとしても、私は彼を責める気にはなれないけど。




「さて、話を聞かせてもらおうか。…あ、お二方もどうぞ」

彼に案内され、私達は椅子に腰掛けた。


「それじゃ、まずはお互いに紹介しなきゃ。彼はライマー・フック。私とは20年来の付き合いの魔導士。それでこっちはラステ。殺人者だけど、悪い人じゃないから安心して」

彼は古くからここナアトに住んでいた魔導士で、レークにはたびたび旅行で来ていた。

ある時、偶然図書館で料理の本を読んでいた私に声をかけてきたのがきっかけで知り合い、それ以降ちょくちょく店にも来てもらうようになっていた。

でもやがて町に来なくなり、私の店に来ることもなくなった。一応連絡先は知っていたから、連絡はしてたけど…こうして直接会うのは長らくしていなかった。


「そして、この人はカイナさん。…知ってるかもしれないけど、ミジーの国の皇魔女よ」


「そうか。…え、皇魔女!?あなたが!?」


「ええ、確かに私は…」

カイナさんが答え終わる前に、彼…ライマーは驚き慌てていた。


「うわ…マジか!うちに外国の皇魔女様がいらっしゃるなんて…!てか、よく見たら…ああ、本当だ、あなたは間違いなくカイナ様!ああ、あああ…なんだ、なんでこんなことに…!」


その様子を見て、ラステが苦笑いした。

「おいおい、そんな慌てるようなことか?」


「ああそうだよ!私は魔導士だ、魔女や魔王は一つの終着点なんだ!」


「なるほど、それであがってるってわけかい。まあ気持ちはわかんなくもないぜ」


そして、彼は急に腰を低くし始めた。

「カイナ様、よくぞいらっしゃいました。こんな不肖で申し訳ありませんが、何卒お話をさせてください」


「いえ、私ではなく彼女が…」


「え…?」

そこで、私はため息をついて言った。


「そうよ、ライマー。さっき電話したでしょ?」


「あー、確かに…で、何の用なんだアレイ?急ぎの用事だって言ってたけど…」


「ええ、実はね…」



そうしてライマーに事情を説明した。

彼もメレーヌさんと同様に、私の見た過去に映っていた人物であり、裁判の時に私の能力が本物であることを証明できる人物だ。だから、協力を頼んだ。


その結果、彼はあっさりOKしてくれた…と言いたいところだけど、疑問を浮かべてはいた。

「シルト様は、悪さをしてる殺人者を追い出すために動いてるんだろ?なら、無理に止める必要はないんじゃないか?」


「いや、確かにそうなんだけど…問題は、シルトさんの周りの司祭たちよ。彼女らは、殺人者そのものを煙たがってる。だからこの際、強引にでも殺人者を追い出そうとするに違いないわ」


「だから、その…前々から話題になってる通り魔とか、そういう奴らだけを追放しようとしてるんだろ?」


「この町には善良…というか、少なくとも今は悪さをしてない殺人者だってたくさんいる。彼らまで永久追放するなんて間違いよ。それに、そんなことしたら再生者…流未歌が…」

すると、彼の表情は一変した。


「流未歌!?あいつが何かしたのか!?」


「いえ、まだ被害は出てないんだけど…流未歌はいずれ、この国を滅ぼそうとしてる。ここだけの話だけど、この前私達はシルトさんと一緒にネフィラーの山に行ってきたの。彼女の姿はなかったけど、数え切れないくらいのアンデッドが国を襲う準備をしてたわ。みんなで協力して全滅させたけど、もう少し遅れてたら…」

いつもなら、ライマーは途中で会話に割り込んで来るのだけど、今度は私が話を終えるまで無言を貫いた。


「アンデッドは普通の人には殺せない。これから先、大群をけしかけて来なくても、少数のアンデッドを仕向けてくる可能性はある。そうなった時に国を守ってくれるのは、他ならぬ殺人者よ。もし彼らがいなくなったら…最悪、この国は滅びるかもしれない。私達だって、ずっと国を守れるわけじゃないもの」


そうして、ライマーは重い口を開いた。

「…確かに君の言う通りだ。奴らを倒すことの難しさは、私もよく理解している。…そうだな、殺人者を一括して、まとめて追い出すというのは、いささか疑問符がつかざるを得ない。この国を守るためにも、その裁判で委員会を論破して殺人者を守ろう…必ず」


「え、てことは…!」


「協力するよ、喜んで。冗談抜きで国の存亡がかかっていることだ、たとえ城の連中やシルト様が相手でも、打ち勝って見せるさ」


「…!ありがとう!」


私が彼の手を握ると、ラステがほくそ笑んだ。


「お国の為に…ってか。愛国心旺盛で、実に結構なこったな」



 □


異人・魔導士

魔法系種族の一つ。

魔力を吸い、異人の術を扱うようになった人間は「術者」と呼ばれるが、それが昇華した種族の「術士」がそのまま昇格すると魔導士となる。

光、闇、理(水や風など、八属性のうち光と闇以外の全属性)の全てを扱えるが、いずれも中級止まりになると言われる。

昇格すると物理にも強い「魔導騎士」となり、さらにそこから「魔女」または「魔王」へと昇格できる。


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