急襲

私達は家を出た。

「さて、どちらへ向かいましょうか」


「そうだな…奴らがこの森のどこにいるのかわからん以上、手当たり次第に探すしかないな」

確かにそれはそうだろうけど…それでは時間がかかりすぎる。

森に入ってから、すでに4日は経っている。

1週間後にはミジーの軍が来るので、それまでにケリをつけてミジーに行かなきゃならない。

でも、あと3日以内に終わらせられるだろうか。


「いや、それだと時間がかかる。何か、いい方法はないかしら。

…そうだ、アレイ。この森全体の過去って遡れる?」


「ええ…でも、なんで?」


「彼らはこの森のどこかにいる。なら、森全体の過去を見てみれば、ここ数日の間に彼らがどこでどんな動きをしたのか、わかるんじゃない?」


「あっ、なるほどね。…わかった」

私は目を閉じ、能力を使った。




「…どうだ?」


「ん…ごめんなさい、ちょっと時間がかかりそうです。何しろ、範囲が広いので…」

私の異能は「過去」を見るもの。

能力を使い、目を瞑れば、瞬時に対象の過去を数秒から数年単位で遡る事ができ、対象が生誕したその時まで遡る事もできる。

でも、過去を遡る対象や範囲が大きく、広くなると、どうしても遡る時間が長くなってしまう。

私の異能は、「過去を知る」という事には強いけど、そんな高性能なものじゃない。

それに私は元々人間で、今は水兵だ。

人間は言わずもがな、異人として位が高い訳でもないので、異能1つ取っても、そこまで強力ではないのだ。


「そうか…あと、どれくらいかかりそうなんだ?」


「えーと…あと数分くらい…でしょうか」


「わかった。じゃ、気長に待とうか、アメル」


「そうね。こればっかりは、仕方ないわ」


「ありがとうございます。…アメルも、ごめんね。悪いんだけど、もう少し待ってちょうだい」


私は目を瞑ったまま、この森全体の過去を遡ってゆく。

遡る時間自体は数日だけど、とにかく範囲が広い。

随時森全体をよく見なければならず、いつもより遥かに時間がかかる。

とは言え、今彼に言った通り、あと数分もあれば大丈夫だろうけど。



その時、私は気配を感じた。

「…龍神さん、アメル!何かがこっちに…!」


「何かって、何だ…!?」


「はっきりとはわかりませんが…恐らくは…!」


と、その気配は突然、強く近くなった。

恐らく、すぐそばに来たのだろう。


「ちっ…こんな時に!」

龍神さんが舌打ちをする。

私が感じていた気配は、アンデッドのものだった…恐らくは、霊体系の。

「何よこいつら…気持ち悪い…!」


そう言えば、アメルは霊体のアンデッドを見たことがないかもしれない。

レークに入ろうとしてくるアンデッドは、基本的に死んだ人間や下級の異人が蘇った「ゾンビ」や、死んだ動物や異形が蘇った「リビングクリーチャー」と呼ばれるものがほとんど。

それはどれも死体なので、基本的に肉体を持つ。

実体のない霊体系のアンデッドには、アメルは遭遇したことがない可能性は十分にある。


「アメル…聖水は持ってるか!?」


「ええ…一応…!」


「なら、そいつを槍にかけろ!そうすれば、奴らにもダメージが通る!」


「わ、わかった!」


アメルが私の前に陣取り、龍神さんが私の背後に回った。

姿は見えないけど、気配を感じる。

「アレイがことを終わらせるまで、耐えきるぞ!」


「待って下さい!私も…戦います!」

私は目を開けて言った。

「えっ…!?」


「能力を使いながらでも戦いはできるので…援護します!」


「アレイ、大丈夫なの…!?」


「ええ…でも、強力な技とかは出せないから、あくまでも援護よ。メインは…2人でお願い!」


「わかった!アメル…頼むぞ!」


「ええ!」

敵は数十体の霊体系のアンデッド。

その外見は、少し緑色を帯びた霧のようなものに、歯や鼻のない顔がついたような姿をしている。

恐らくは「ウィスプ」、中級の霊体アンデッドだろう。

もしかしたら、今までカナの犠牲となった者達のなれの果てなのかもしれない。

増して、ウィスプには異能や大規模な魔法を使っている者に引き寄せられるという習性がある。

私が異能を使った事で、寄ってきたか。


でも、怯えてはいられない。

ここで邪魔されては、先に進めない。

多少無理をしてでも、2人と一緒にこいつらを倒さないと。

私は、そう思った。






面白い、続きが読みたい、などと思って下さった方は、レビューやフォローをして頂けると作者のモチベーションも上がって更新頻度を維持しやすくなりますので、ぜひよろしくお願いします。


またコメントやいいねもお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る