潜入
その日の夕方、店の裏手で準備をした。
朔矢という女性が能力で龍神さんを水兵の姿に変えた。
「どうよ?」
「なんかスースーするが…まあいいんじゃないかな?」
「すごい…水兵の制服と完全一致です!しかも声も高くなってるし…これなら怪しまれませんよ!」
「現役の水兵がこう言ってるんだし、大丈夫そうね。
じゃ、言ってら」
「おお。アレイ、行こう」
そして…
城に向かう。
私が聞いた作戦はこうだ。
まず、私が水兵に化けた龍神さんを連れてきた、という建前で二人一緒に城へ侵入する。
そして龍神さんが1日かけて城内を探索して構造を覚えたり、大まかなルートを考えたりする。
私はその間に他のみんなと話をつける。
そしてタイミングを見計らって、龍神さんが外で待つ朔矢さんに電話をかける。
朔矢さんが城に入ってきたら、龍神さんに続いて私も戦う。
「本当に上手くいくんでしょうか…」
「いくさ。
そのためにも頑張ってもらわないとな」
そんな話をしているうちに、リアースの城門についた。
入ろうとすると、門番に止められた。
「何者だ!…ん?お前は!」
「以前脱走した者です。
罪滅ぼしとして友人を連れ、戻ってきました」
「ふむ…取り敢えず入れ」
そして城内に通され、武器を持っていないかチェックされた(武器は入れるものを魔法で小さくしてしまえるショルダーに入れ、帽子の中に入れていたけど、幸い見つからなかった)後、別の兵士に地下に連れていかれる事になった。
私はちょっと焦った。地下には牢獄がある。
そして牢獄には、他の水兵はいないし、入らないはず。
つまり、他の水兵と話をつける事が出来ない。
(ヤバいかも…どうしよう、これ…)
そんな事を思っていると、
「お前が、その女の友人か?初めて見る顔だが…」
「そりゃあ…ね?」
龍神さんが兵士に絡まれていた。
兵士は彼を完全に水兵だと思っているらしい。
「まあ何でもいいがな。
取り敢えず、お前らの部屋はこっちだ」
龍神さんは奥の部屋ー私たちの生活区となっている狭い部屋のある方に通されていった。
◆
兵士に連れてこられたのは城の奥の一室だった。
ドアはかなり古く、開ける時にガタガタと音がした。
そして部屋に乱雑に入れられた。
兵士は「やることはお仲間から聞け」とだけ言って去ってしまった。
仕事内容すら教えてくれないのか。
取り敢えず奥に進み、部屋全体を見てみた。
照明こそあったが、テレビやテーブルなどのような生活用品は何もない。
窓やトイレ、風呂もなければ、寝具もない。
しかも部屋全体が薄汚れていて、時折噎せるほど埃が充満している。掃除すら出来てないのか。
さらに奥にいくと、4人の娘がいた。
みな部屋の隅に寄せ集まるようにしていて、その体は酷く痩せ細り、腕や胸は骨が浮き出て、ミイラに服を着せたような姿になっている。恐らく制服を着てなければ人間と間違えただろう。
最初に見つけた時のアレイと同じだ。
目も大きく飛び出たようになってギョロギョロしているが、その視線は弱々しい。
何年か前に見た水兵は、こんなではなかった。
セーラー服を元にした制服を着て、レストランなどでの接客から料理、海でのライフセイバー、しまいには造船までやってのける17、18くらいの娘の集まりで、みな体型のばらつきはほぼなく、爽やかな笑顔と明るい性格で、多くの男達から人気があった。
それと同じ種族の娘たちが、なんでこんな姿になるほどまで酷い環境で暮らさねばならないんだ?
「ねえ…」
一人が話しかけてきた。
「あなたも…捕まったの?」
「いや。友達に連れてこられた」
まだ正体を明かすタイミングではないと判断し、取り敢えず中性的な話し方でいくことにする。
「え…?」
すると、他の三人が反応した。
「その人は、なんてひどいことを…」
「事情を知らないんでしょうね…」
この反応から察するに、やはりここで相当酷使されているらしい。
一応聞いてみた。
「ここで、何をさせられてるの?」
「私たちは、城の清掃と庭園の手入れをさせられてるの」
以前のアレイ同様、一応話はできるらしい。
「この部屋…ずいぶん汚れてるけど、掃除しないの?」
「したいけど、許されないのよ。
こっそりしたこともあったんだけど、見回りの兵士に見つかって、みんな50回の鞭うちを食らった。
あいつは私たちみたいな人を使い潰しては、新しい人を仕入れてるの。それも、みんな女」
「普段の生活は?」
「朝は4時起き。
それから2時間、城内の掃除と庭の手入れをして、6時に朝食。
6時半までに貴族の食事の支度を整えて、貴族を全員起こす。食事が終わり次第片付けをして、8時には終わらせる。
そして12時まで掃除とか雑用して昼食が10分。
6時に貴族の夕食の準備を終わらせて、7時に片付け。12時に就寝。
私たちの夕食は寝る前」
「ふーん…あれ?休憩時間は?」
「ない。今はたまたま、舞踏会が行われてるからここで待機してるけど…
普段は、寝る時間が休憩になってるまであるわね」
「舞踏会って…?」
「詳しくは知らないけど、他の国の貴族とか王族を招待してやってるらしいわ…」
「…こんなことされて、嫌だと思わないの?なんで逆らわないの?抵抗しないの?」
「もちろんしたいけど、みんな武器を取り上げられ、能力も封印された。
しかも移動や入浴の時は、必ず男の兵士が見張ってる中でだから、私たちには本当に隙がない。あったとしても、何もできない」
「…」
「食事もすごく貧相なものよ。
今日の朝食なんか、リンゴ一個だけだった」
「それじゃ、いずれ栄養失調に…」
「ええ。私たちもすでになってるでしょうね。
もう何人も死んだ。栄養失調になったり、餓死したり、拷問されたりしてね…
兵士に強姦された子もいたし、自殺した子もいた。
でも、自殺したのは正解だったかもね…
こんな所で生きるくらいなら、死んだほうが…」
事態は思ったよりも深刻なようだ。
「…もし、ここから出られるとしたらどうする?」
「勿論嬉しいけど…見つかれば即死刑よ。
この前、他のグループ所属の子が脱走したって話を聞いたけど…今頃は捕まって殺されてるでしょうね…」
アレイの事か。
捕まってない、生きてると言いたいがこらえた。
かわりに、こう言った。
「武器の保管場所はわかる?」
「ここを出て、左にしばらく行けば、兵士達が使ってる武器庫があるはず。
まあ入り口に兵士がいるし、私たちが近づく事は禁止されてるけどね」
「そう、ありがとう」
「何でそんなこと聞くの?」
「まさかあなた…」
「そう。ここから脱走する」
すると、今まで黙って話を聞いていた他の水兵たちが反応した。
「…本気で言ってるの!?」
「勿論。捕まってるみんなで、この城から出る」
「無理よそんなの…それに私たちには、体力が…」
「ならこれを」
「え?」
隠し持っていたサプリを渡す。
「何これ?」
「栄養剤。飲めば多少のエネルギーは確保できる」
部屋にいる水兵は4人。サプリは全員に渡せるだけの数がある。
「ほんと?じゃ…」
みんな食いついてきて、サプリを飲んだ。
「これで、いけるの?」
「すぐには効果は現れない。10分ほど待とう」
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