鈴とともに

細崎帳

第一鈴 長い夜に終止符を 

《2023年8月》


「………今日も眠れない」


 隣人の部屋から睡眠用bgmが薄い壁を隔てて聞こえてくる。

 妙に聞き心地が良いがやはり眠に就くことはできない。今日もこうして日記を書いて時間を潰している。私はふと時計を見た。


「まだ25時か」


 日々長い夜とともに過ごしているため、絶望はしなかった。

 読書、安眠グッズ、呼吸法の改善など色々試したが効果はない。このままではいつもと変わらない夜が待っていると考えつつ、私は日記を書き終えた。

 するとどこからか音が聞こえた。


「チリリン」


 それは鈴の音であまりにも弱弱しく、私の身体に響き渡るほどはっきりと聞こえた。

 私は外へ出て、音の鳴るほうへ向かった。冬の冷たい風など気にもならないほど私は無我夢中で走った。


 音の所在を探してから小一時間ほど経ったが、結局見つからなかった。

 呼吸を整えながら私は来た道を引き返した。引き返している途中、あるものが街灯の明かりで反射している翡翠色の物体が見えた。気になった私は反射している物体に近づいた。

「これは、風鈴か?。それにしても作りが歪だ」

 私は落ちていた歪な風鈴を手に取ったとき、

「やはり貴様にはそれが見えるのか」

 照らしている街灯の上から中性な顔立ちの人が私を見下ろしていた。


「それが見えるということはこの音も聞こえるということか」

 そう言って聞こえてきたのは一時間前に聞こえた鈴の音だった。

「この鈴を聞いた者は一時的に身体能力が向上し、身体のあらゆる不調が治る」

 確かに言われてみればあんなに軽やかに走れたのは久しぶりだ。しかも走ったからか、鈴の効果からか分からないが、なんだか眠くなってきた。気づけば私は道路で気絶するように寝てしまった。






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鈴とともに 細崎帳 @tobazaki

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