真冬の朝、この町から全ての人が消えました

秋桜空白

第1話

 朝起きたら、両親も兄も姉もいなくなっていた。外を出てみても人一人見つからず、町は不気味なくらい静かだった。テレビは放送を受信できなくなっているし、スマホもネットがつながらなくなっていた。俺は自分が置かれた状況に焦りを感じながらも、内心少し喜んでもいた。


 時刻は午前十時。俺はとりあえず学校に行ってみることにした。学校ならだれか人がいるかもしれない。顔を洗って着替えて手ぶらで玄関を出た。真冬の風に体が震える。


 俺が学校に着いたところでちょうどチャイムが鳴った。その音を聞いて俺は少し日常が戻ってきたような心地がして安心した。けれど、校舎の中は誰も人がいなかった。職員室も教室も体育館も校庭も誰もいない。


 しょうがないので俺は一人でブランコに乗った。ブランコの浮遊感を感じていると現状のやばさを少し忘れることができた。俺はこれからどうするかを考えた。とりあえず食料が大事だ。水も今は流れているけどいつかは止まるかもしれない。けれどその二つの問題さえ解決すれば案外悪くない生活ができる気がする。


 陽が暮れ始めて、雪が降ってきた。そろそろ家に帰ろうと俺は思った。


 両親はよく俺に暴力を振る人たちだった。兄と姉は俺が暴力を振るわれていても見て見ぬふりをしていた。学校でもいじめを受けていて、いつも体育倉庫に連れられては暴力を振るわれていた。俺はただ静かな場所で生きていたかった。けれどそれが叶わないことも知っていた。本当は今日、俺は自殺するつもりでいたのだ。


「それがこんな形で夢が叶うなんて」

坂を下っていると、遠く向こうの地平線に夕日が沈んでいくところが見えた。その茜色の光が目に染みる。


「ああ、静かだ」

俺は涙を流した。

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真冬の朝、この町から全ての人が消えました 秋桜空白 @utyusaito

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