第92話

 俺は焦っていた。

 エレンが武具を持ち出した2人を追ってダンジョンへ向かって、既に10日が経過していた。


 エレンがダンジョンへ向かってから10日、というだけで、追われる事になった2人は一体いつダンジョンへ向かったのか。

 まあそっちはどうでもいい。

 今はエレンだ!


 足は何とかなったが、落ちた体力はまだ回復しておらず、急ごうとしても実際には体が思うように動かない。


「こういう時こそ落ち着くと良いでしょう。焦って怪我をしたり、かえって時間がかかったりと、いい事は何もありません。」

 オリビアさんの言う通り、確かにそうなのだが、だからと言って俺は落ち着けられる程できた人じゃない。

「だけど!エレンは2人を追って1人で行ってしまったんだ!」

 オリビアさんにこんな事を言っても仕方ないんだが、つい言ってしまった。


「エレン様は元々おひとりで活動なさっておられました。あれほど名を馳せた方です。恐らくあと数日で武具を回収し、帰還されるでしょう。」

 確かにエレンは俺と知り合う前から1人で活動していた。

 というかエレンの勇ましさ、そして成果を上げていた事による名声・・・・

 誰でも名前は聞いた事がある!という人だった。

 まさか俺の所にやってきて、ダンジョンへ一緒に向かってほしいと頼まれる事になるとは思っていなかったが。

「今のヘイマンス様には何を言っても心に届かないようです。では約束をして下さい。無理をしない、明らかに体力がなくなったと感じたらすぐに休む、と。結局こまめな休憩を取った方が、より早く進めます。」


 そう言えば俺、ダンジョンについて学んだ事なかったな。

 エレンと一緒に行った時も、あまり調べていなかった・・・・エレンがいるからと、きっと俺はエレンに依存していたんだ。

 で、何をやっても完璧にこなせそうなオリビアさんは何故ダンジョンについても詳しいのだろう。


「所でオリビアさん、ダンジョンで活動した経験があったりするの?」

「いえ、今回が初めてです。」


「オリビアさんがダンジョン初めてって、何か物凄く落ち着いているように見えるんだけど。」

 この時オリビアさんは信じられない行動に出た!

「そんな事はありません。この通り、心臓ははちきれんばかりにドクドクしているのが証拠です。」


 オリビアさんは俺の手を取り、胸に押し付けたんだ!いやマジクールビューティーさんらしからぬ行動に、俺の心臓が破裂しそうだよ!そして意外?な事にオリビアさんは少し震えていた。


 オリビアさんは完璧な人、という思い込みがあったから余計に驚いたし、その・・・・何だか分からないけれど、オリビアさんは一人の女性なんだなあと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る