第80話
ヘイマンスは混乱していた。
何故俺はこんな風に組み敷かれているのだろうか、と。
確か、誰かに突き飛ばされ地面に倒れた。
そこまではいい・・・・よくはないが。
その後が理解できない。
俺は何故かスリと間違われ、そのまま見知らぬ男女に拘束された。
だがその後も俺はスリと認識され、何処かに突き出される・・・・衛兵だっけ?
いやいや、何故誰も俺が被害者だと分からないんだ?
スリ?俺は何も取っていないし、馬車から降りたばかりでスる暇がなかった・・・・スらないが。
「俺は何もしていない!そもそも何をスったっていうんだ?」
俺は何とか周囲に向けて叫ぶよう訴えた。
「何言ってやがるんだ!ポケットかどこかに隠しているんだろう・・・・おい、誰か探れ!」
俺は無理やり起こされ、別の誰かが近づくのを見ているしかなかったが、そこにメイドさんが割って入ってきた。
「これ以上の狼藉は許しません!今なら見なかった事にしてあげますから、誰が黒幕か素直に教えればこの場から去る事を許可します。さ、何処の誰が指図したのですか?」
・・・・優しい雰囲気のメイドさんだったのに、今のメイドさんはぱっと見おっとりしているように見えるが、あれは絶対近づいてはいけない人種と分かる雰囲気だ。
そんなメイドさんが一言放った途端、全員が狼狽えた様子だ。
「い、いやだってこいつが・・・・」
「まだ言いますか!それにほら、スリの実行犯はすぐそこで引きずられていますよ?」
メイドさんが差す方向を、この場に居た全員が見た。
俺も見た。何せ俺が起こされて見えたのが、オリビアさんが誰かを引きずっている姿だったからだ。
なんだか俺の姿に似ているぞ?着ている服もそうだが、何だか背格好まで・・・・もしかして人違いか?
「さ、ヘリット様を解放なさい。」
メイドさんは俺に一歩近づいてきた。
何だか周囲がそわそわしている気もするが、多分精霊さん達が俺の近くで待ち構えているのだろう。
そしてオリビアさんが合流した。
「スリを捕まえました。」
俺の前に差し出されるスリ。
全然似てないわこれ。
似ているのは背格好だ。
服もよく見れば色は同じだが、そもそも全く違う種類だ。
これを人違いとか・・・・無理がある。
「あ・・・ああああ・・・・何でいるんだよ・・・・YARE!」
俺に暴言を浴びせていたうちの一人が、オリビアさんが連れてきたスリを切りつけ・・・・る事が出来なかった。
『勝手に死なれては困るのじゃ。さ、どうやら周囲に居るのは皆スリの仲間らしいぞい。』
なんてこった!俺は偶然ではなく狙われてこの様な事に巻き込まれたのか!
そしてじちゃんナイス!
この間に俺はメイドさんに助けられた。
というか俺を抱きかかえて運ぶのやめてもらえません?
『逃げる事はできませんわ。』
水の精霊アクアさんが・・・・さっきも俺の周囲にいたよな?見えなかったけれど。
でもなんか姿が違う。
で、アクアさん、俺を襲った連中と仲間と思われる全員の周囲へ水の壁を展開、たちまち壁を凍らせ完全に囲ってしまった。
『ヘリット様、もう安心ですわ・・・・それと私、ウィンディーネとなりましたわ!』
ああ、なるほど、だから姿が違うんだ。
母性溢れるアクアさんだったけれど・・・・もう溢れていますよ、色々と。
『あらいやだ、私ったらまだこの身体に慣れていないものですから・・・・』
何はともあれ、俺は解放された・・・・今回も俺空気だったなあ。
そしてアクアさん改めウィンディーネさん、格が上がってよかった!
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