第40話
90層を超えた。
90層を目前にしてエレンは、ここで仕掛けるのではないか?と身構えていたようだが、違ったようだ。
何故90層で?と思わなくもないが、どうやらボプさん率いる件のパーティーは、80層ぐらいまでが過去の最深層だと聞いていたからだが、実際にはもっと行っていたのではなかろうか。
そうでなければ実力がないのに仕掛けるはずがない。
「まさか100層のボス部屋だろうか。私ですらそこまで到達していないというのに。」
おや?エレンならもっと進んでいてもおかしくないんだが?
「エレンほどの実力があればもっと奥まで行っていてもおかしくなさそうだけれど、ここまで来た事はないのか?」
「ああ、魔物は問題ないのだが、問題なのは物資だな。」
物資、それはつまり食べ物と回復手段と言う事なのだろうが、エレンはここまで手傷を負っていない。
ボプさん達は見るも無残なんだよな。いつも俺にポーションをよこせと言ってくるし、実際いつも酷い怪我だ。
実際ここまでは50層まで攻略していたからと、51層からのスタート。
但し50層まではさほど時間はかからず進められるから、あまり物資の心配はない。
だが51層以降には転移陣が存在していなかった。
「もしかして100層まで転移陣がないのか?」
「他のダンジョンは知らない。ここは50層毎らしい。」
らしいって・・・・深層へ向かえば向かう程あまり情報が出回らないか。
1層下る毎に10メートル拡張するダンジョン。
たった10メートルだが、1層は10メートル四方、10層で100メートル四方・・・・これぐらいであればあっという間なんだよなあ。
だが今いる90層は900メートル四方の区間だ。
広さで言えばそれなりに広いが、直線距離だと徒歩でも十分程度で到達できる距離だ。
だがここで問題になるのは魔物だ。
魔物が頻繁に出没すると遅々として歩みが遅くなる。
下へ下れば下る程魔物の質が上がり、強くなり、数が多くなる。
そのせいで一度にかかる戦闘時間が大幅に増え、周囲の魔物を全滅させようとすると1時間かかる事もざら・・・・らしい。
ボプさん達を見ているとそんな感じだ。
一方俺とエレンだが、エレンは武器を投擲、俺は地面に寝っ転がって地脈と繋がる事で精霊達が俺の魔力を得る対価として頑張ってくれるので、直接戦闘を行う事なく仕留められる。
基本魔法が使えない、しかも規格外の魔道具を持っているわけではないボプさん達は必然的に肉弾戦になる。
まあ魔道具に杖があって、魔法も放てられるので総じて肉弾戦ではないが、それで元飛び道具?には限りがある。
ボプさん達は前衛が一応男女1人ずつ、計2人で、後衛として?サポートしながら魔道具を使う女性がいて、最後の男性は周囲を警戒しつつ、多分斥候を兼ねていると思うけれど、一撃離脱の攻撃をしつつ、何やら小細工とは言わないけれど、魔物に何か仕掛けていたり、時折飛び道具を放ったりしている。
だからだと思うけれど、一応前衛が追加でほしい、というのは理解できるし、もう1人もぜいたくを言わなけれ前衛がいいのかもしれないけれど、強力なアタッカーがいればもう1人は後衛でもいい・・・・でもそれが戦闘中は常に地面へ寝っ転がっている俺って事になるんだよな・・・・精霊が視認できないと何やっているんだ!ってなる・・・・よな。
ボプさん達がかなり押されているようなので、俺は精霊達に頼んでこっそり援護してもらう事にした。
今回は火の精霊サラマンダーさんには戻ってもらって俺の護衛、風の精霊シルフさんに援護を頼んだんだ。
火の精霊が魔物相手に戦うと、どしても燃えちゃったりして周囲が精霊を視認できないと危なかったりするから。
風の精霊だと主に切り裂いてくれる。
それも一瞬なので誰かが想定外の動きをしても巻き込む可能性は低いそうだ。
『たっぷり魔力を貰うからね・・・・あー美味しい!し・あ・わ・せ♪』
あきらかに俺とエレン2人が相手だとボプさん達に分が悪い気がするけれど、何か秘策があるのかな?
あ、そうそう、水の精霊アクアさんはボプさん達が急に何か仕掛けてきた時に対処してもらうべく、俺とエレンの護衛を兼ねた監視をしてもらっているんだ。
『万が一があってヘイマンス様が悲しむのは私達の本意ではありませんし、そうなると魔力がまずくなりますわ。』
そう思っていると、土の精霊であるじいちゃんがやってきた。
『いいもの手に入れたぞい。』
そう言ってこっそり見せてくれたのは、一振りの剣だった。
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