第7話 

 俺達が今いるのは草原だ。

 平原とも言うが、基本草と低木しか生えていない。

 そしてどういう理由か、この周囲には余程の事が無い限り魔物は近づきさえしない。

 過去の出現例を見ても、冒険者との戦闘で偶然こちらに来てしまった事があるだけ。


 だから俺は・・・・彼女はエレンと呼び捨てにしてほしいというので、今後はエレン嬢とか彼女ではなく、エレンと呼ぶ事にした。だが俺の事は相変わらずヘイマンス殿と呼ぶ。何故?

 自分の事を名前で呼んでほしいというのに、何故俺を殿って呼ぶんだ?

 まあ何か事情があったり、育ちに関係するのかもしれないが、それはそのうち何とかしよう。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 エレンが変化後に身体の動きや感覚に関し、今までとどう違うのか確認すべく、草原を抜け森の中へ入った。

 森の中はかなり危険で、当然ながら俺は1人で入った事はない。


 何せ森で手に入る素材は、頼めば精霊が全て採取してくれるからだ。

 だから俺はなるべく人がいない・・・・俺にとって一番危険なのは魔物ではなく人間だったりする・・・・場所までやってきてから地面に突っ伏すんだ。


 地面に突っ伏してしまえば地脈と繋がり、繋がった地脈から得られる魔力欲しさに?精霊達がやってくる。そうした精霊達は俺が無防備な状態の時に、しっかりと守ってくれている。


 で、エレンはかなりデカい魔物と戦っている。

 3メートルぐらいはあるんじゃなかろうか。

「ちょうどよさそうな相手だ・・・・いざ参る!」


 何故か魔物に礼をしてから戦いに向かっていったよ。ひょっとしてエレンは貴族出身?若しくは騎士の家系なのか。

 俺はそんな事を思いながらつい見てしまっていたが、

「えい!」

 え?いきなり投擲したよ?しかもだよ?豪快に外している。

「思ったよりズレるな。」

 ズレるな、じゃない!この後どうすんだよ?

 そう思ったが投擲した剣、そのまま明後日の方向へ飛んでいくのかと思いきや、何と回転しながら魔物の背後に飛んでいき、

「ぐぎゃ――――――!!!!!!」

 何と魔物の腰に突き刺さり、腹から剣が出てきたではないか!

 そのままエレンの所に剣が飛んでいき・・・・エレンは剣を掴んだ!

 何だよあの剣は!

「では次。」


 その後軌道修正?を行いながら、10体程の魔物を仕留めていた。

「今度は直接やりあってみよう。」

 剣の威力は散々見せつけられた。今度はエレンの身体能力だ。


 だが戦闘に関し全くの素人である俺には、エレンの動きがまるで見えなかった。

 それ程に素早く、かつ正確に急所を攻撃していたようだ。

 うわ、マジかよ。

 エレンは俺がパーティーの2つや3つとか言っていたが、エレンみたいのが1人いるだけで対処できないぞ。

 で、満足したのかエレンが戻ってきた。

「ある程度把握した。多少違和感は残っているが、問題はない。」

「そ、そうか。それならいい。しかし、手にしているのは魔剣か?」

「これか?」

 そう言って剣を渡そうとするが、俺は拒否した。


「俺には無理だ。」

「何事もやってみなければわからんだろう?大丈夫だ。投擲さえすれば【出戻りちゃん】が何とかしてくれる。」

 うん?一寸待て。今訳の分からない単語が出てきたぞ?

「な、なあ、今変な単語が聞こえた気がするんだが・・・・【出戻りちゃん】ってなんだ?」

「ああ、この剣の銘だ。」

 普通剣にそんな名前はつけんだろう?

「一体誰がその銘を?」

「私だ。」

 どうやらエレンのセンスは・・・・いや待て、たまたまこの剣だけかもしれん。

「ち、因みに鎧にも銘が?」

「ああ、あるぞ。【どんな体にも合うんです君】だ。」

「・・・・それもエレンが?」

「そうだが何か問題でも?」


 人間誰しも完璧ではないんだな、と俺はこの時感じた。

「何だ?この銘に不満があるのか?」

「エレンが気に入っているならいいさ。」

「よくわからんが、気に入ってはいないがこういうものだろう?」

 後で考えてみるか。


 その後もエレンは剣から衝撃波みたいのを出して魔物を仕留めたりしていた。

 それも魔物の身体にバッテンをつけ、

「バツ1」

「バツ2」

 とか言っていた。

 なんか違う。





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