小説のようなもの

理科 実

雨の日の休日

台風が接近しているらしい。


深夜までゲームに興じていた私は時計を見る。


午前9時6分


今日も1日が始まる。




朝の時間は緩やかだ。


仕事をしている時のそれと違い、全ての時間を私が支配できる。


その感覚は休日特有で、一人暮らしを始めてからはさらに顕著になった。


私はスマホを眺めながら時間を潰す。


時間を支配できるようになっても、残念ながらこの一枚の板からは逃れることはできない。


結局、私はどこにいても何かに支配される生き物なのだろう。




そうしている間に時刻は10時を指す。


6月に行われるセミナーの申し込みメールを送信。


無事に返信が来たのを確認すると私は安堵した。


今日の仕事はこれで終わりのようなものだからだ。




それから風呂を沸かした。


朝から風呂に入れるというのは休日の特権だろう。


平日はシャワーで軽く流すだけだった疲れを湯水に溶かしていく。


しばらくボーっとしていると壁の汚れに気がつく。


私はそれをぬぐい、風呂から上がった。




時刻は12時


昼ごはんを作ろうと思った。


冷蔵庫を覗き、食材と睨めっこする。


昼はさっぱりしたものがいい…そこで私は


キャベツと鯖缶を取り出した。


初めフライパンに水を入れ、加熱する。


それから1/4にカットされたキャベツをさらに刻む。


刻んで、刻んで、刻んでいく。


細かくなったそれらをボウルに入れる。


大さじ一杯の酒を加えて電子レンジで温める。


炊飯器には前日から保温された米があった。


けれど、それではつまらない。


私は先日買ったひやむぎを手につかむ。


季節外れのひやむぎ、税込78円。


スーパーで安売りされたそれをフライパンに広げる。


ひやむぎが熱湯の中で踊り狂う。


そうこうしていると電子レンジが私を呼んだ。


キャベツは良い感じに加熱されたようだ。


私は鯖缶の蓋を開け、ボウルに注ぎ込んだ。


鯖の身をほぐし、かき混ぜる。


鯖缶は便利だ。究極、これ一品あれば白米は進む。


安くて、栄養価も高い。


それからひやむぎをざるに入れて冷水で引き締める。


そのままざるに入ったひやむぎをボウルに移す。


そこに白だしを少々加えて軽くかき混ぜる。


昼ごはんの完成だ。


やや量は多かったが、さっぱりしているのもあって余裕で完食できた。




スイッチを入れる。


足元のゲーム機が起動し、けたたましい排気音が部屋に響く。


旅立ちの日、地元の友人からもらった黒い箱は今日もうるさい。


それから私はしばらくの間、画面の中の主人公を操る神となる。




ひと段落ついた。


さて、何をしようか?


→勉強をする。


→記事を書く。


→本を読む。


→ゲームを続ける。


選択肢は山ほどあった。


少し横になって考えよう、と考えたのがいけなかったのかもしれない。


私は眠りに落ちた。




目を覚ますとそこは暗黒であった。


時刻は18時


スマホから出る不健康な光が私の顔を照らす。


まずは布団から出ることにした。




そういえば


と、私は洗面台に向かう。


そこには沈黙する洗濯機があった。


蓋を開けると先日から入れっぱなしだった洗濯物が。


洗濯物が昨日という過去から送られてきたと考えたら、洗濯機とはもしかしたらタイムマシンなのかもしれないな……などとバカなことを考える。


私はまだ完全に目覚めていないのかも知れないと苦笑しつつ、それらを取り出した。




私は家事が好きだ。


だって家事を失敗しても他人に迷惑はかからない。


料理の味付けを間違えたって生き物は死なない。


掃除が甘い箇所があっても誰かに咎められることはない。


洗濯物を忘れたって困るのは明日の自分だ。


そんなことを考えながら、私はハンガーにシャツをかける。




寝起きの私は小腹が空いていた。


冷蔵庫を除いて長ネギと卵、魚肉ソーセージを取り出す。


フライパンに油を引く。そこへニンニクスライスを入れ、しばらく加熱。


その間に食材を刻み、卵をかき混ぜる。


刻んだ長ネギ、魚肉ソーセージをフライパンで加熱。


その後、炊飯器の中の古いご飯をフライパンに入れ、その上に卵液を投入。


強火にし、ひたすら炒める。


今日は少し薄味で行こうと思ったので、醤油は入れず、塩と胡椒のみで味付けした。


そんな感じでチャーハンが完成。


寝起きの私の頭に炭水化物と油のエネルギーが行き渡る。




スマホのメールを見ていると




本の返却期限が過ぎます。




の一文があったので、本棚を漁ることにした。


該当する本を見つける。


今日は違う本を読もうと思っていたのだが、返せと言われているのならば仕方あるまい。


私は目的の本を開き、しばし文章の海へ飛び込んだ。




読書は2時間ほどで済んだ。


後日感想を書こうと思う。




さて、明日の弁当を作らねば


会社における私の昼食は今のところ全て弁当だった。


入社して半年経った今でも毎日作り続けている。


私は朝に弱いので、基本的に全て前日に用意することにしていた。


そして朝にそれらをレンチンするのだ。


炊飯器の内釜を洗い、米を炊く。


それから再び冷蔵庫を覗く。


食材の購入日と消費期限から判断し、目的のものを取り出した。


使うのはナス、ニンジン、鶏胸肉。


フライパンに油をひき、弱火で加熱。


ニンジンを短冊切りで刻んでフライパンに放り込む。


ナスもざっくりと刻んでニンジンと合流させる。


それらをしばらく加熱。


その間に鶏胸肉を切り分ける。


その後、タレを作ることにした。


小皿に


醤油大さじ1


砂糖小さじ4杯


豆板醤小さじ1


みりん大さじ1


みそ


を加え、よくかき混ぜる。


そうこうしていると、野菜が良い感じに焼けていた。


一旦野菜を他の皿に避け、鶏胸肉を投入してよく加熱する。


胸肉が焼けたら先ほど作ったタレと野菜を入れ絡ませる。


しばらく加熱して、名もなき料理は完成した。


それらを弁当箱に詰め、明日の準備は完了した。




休日も終わりが近い。


冷蔵庫から取り出したミルクをマグカップに注ぎ、電子レンジで加熱する。


そういえばあれがあったなと思い出し、キッチンの棚を漁る。


電子レンジからミルクを取り出し、棚から出した抹茶パウダーを入れる。


そこにはちみつを入れて、よくかき混ぜる。


抹茶ホットミルクが完成した。




ミルクを飲みながら今日のことを振り返る。


良い休日だったなと思う。


そして明日のことを考える。


さてさて明日はどうなるのやらと。


私は多分良い休日を過ごせている。


心の底から安らぎ、自分だけの時間を構築できている。


それは多分普段心をすり減らしながら頑張ってくれている平日の私がいるからだ。


平日の私、いつもありがとう。


心の中でそう呟く。


休日はまだほんの少しだけ残っている。


まだ何かできることはないだろうか?


私は最後の足掻きとまるでしがみつくかのようにノートパソコンを開いた。

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