推しがモテキャラなのに全然異性慣れしてなかったので、推しの動画を見て恋愛スキル高めた俺が推しを調教したいと思います(電話で)

月村 あかり

第1話 推しからの間違い電話

YouTubeを閉じて、電車から降りる。

今日も推しは可愛いな…。

1人でそんなことを思いながら登校したりしているから彼女ができないのだとしみじみと思う。


俺の推しは、恋愛スキルを伝授するYouTuberリン。

最初はただ恋愛スキルを学びたかったのだが、結局のところその先生を好きになってしまった。

だって可愛いし、声いいし。


恋愛スキルを学びながらも推しを見れる。

一石二鳥な幸せな時間に俺は毎日浸っている。

ただし、そのスキルを披露する相手がいないというのも寂しい話だ。


使えないんじゃない、相手がいないんだ。

モテないんじゃない、好みの女子がいないんだ。

彼女がいないんじゃない、作らないんだ…!


そう心に秘めながら高校への道を歩く。

すると、手に握っていたスマホがバイブ音を鳴らしていた。

画面を確認すると、知らない番号が表示されている。


今どき、電話…?

友達からの連絡は大概LINEだし、電話なんてフリーダイヤルの営業くらいしか…。

そう思って番号に目をこらすけれどそれはフリーダイヤルでは無いようだった。


大切な用事かもしれないし、出てみるか。

迷惑電話とかならすぐに切ればいいし。

そう思い、俺は受信ボタンを押した。


「もしもし」


『あ、おじいちゃん!もしもーし!!』


出ると、聞こえてきたのは明るい女子の声。

これは…間違い電話か…?

透き通るようなその声音に聞き覚えがある気がしたけれど、ピンと来なくて返事をする。


「俺に孫はいませんけど」


『あ、あれ!?間違っちゃったっ!?ごごご、ごめんなさいっ!!』


焦ったような謝罪の声。

そこまで聞いて、ハッとする。

なんで俺はさっき気づかなかったんだろうか。


「リン…?」


『え…?』


戸惑ったような声は確かにリンの声だった。

僕の推しであり、さっきまで聞いていた声。

僕がこがれてやまないYouTuberリン。


「ですよね?YouTuberの…」


『も、もしかして知ってくださってるんですか…?』


祖父じゃないとわかった途端の他人行儀さに少し笑いそうになりながらも僕は嬉しさを噛み締めていた。

今まで彼女ができなかったのはこのせいだ。

全ての女性運をこの日のために取っておいたんだ。


「もちろんです、大ファンです。俺の、1番の推しです!」


『え、えと…その…あ、ありがとうございまふっ


ん?

今のは噛んだのか?

いつものYouTubeでの余裕そうなお姉さん風のリンっぽくはないけれど動画とのギャップがまた良い。


「あの、ほんとにずっと…好きでした。いつも、編集作業とかお疲れ様です」


「い、いや…あの…」


ガシャンっ


電話口に衝撃音が聞こえて、電話は切れた。

え?

電話が切れてしまって、俺はしばらくの間スマホを眺めた。


何があったんだ?

今、俺は推しと電話をしてて…。

いきなり切れちゃったけど、少しでも推しと話せた…!


口が緩むのを抑えられない。

これは一生彼女出来なくても大丈夫かもしれない。

モテモテで普通に生きてたら接点なんてないであろう推しと会話出来た、俺しか知らない声が聞けた…。


俺は喜びに舞い上がりながら、学校へ向かった。

だがしかし、もっと気にするべきだった。

リンの普段のキャラと違いすぎるということを。


∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴


キーンコーンカーンコーン


昼休みを告げるチャイムがなって、教室がざわつき始める。

俺はスマホをポケットから取り出すと、画面を開く。

すると新たな着信履歴が1件。


急いで表示するとそこには朝と同じ番号が並んでいた。

リン…!?

朝のは間違い電話だったにしろ、なぜ2回目!?


慌てて折り返しの電話をかける。

こんな夢みたいなことが起こっていいんだろうか。

人が来ない階段下に入り込むと、スマホを耳につけた。


『もしもし…』


「あ、もしもし。あの、リン…?」


遠慮がちに名前を呼べば、電話の向こうで息を飲む音が聞こえた。


『は、はひっ』


また、噛んだ…。

朝から噛みすぎじゃないか…?


「なんで…電話…」


どう聞いたら分からずに質問を言いきれずにいると、向こうで息を吸い込む音がした。


『え、えっとですねっ!朝はこちらが間違いで電話をかけてしまったのに急に切れてしまったのでお詫びのっ』


上擦ったような声で、2度目の電話の理由を話してくれる。

男と話すなんて慣れているだろうに、すごく緊張してないか?

そのくらい、悪く思ってるってことだろうか。


「あ、あの、気にしないでください。それより、切れる時すごい落としましたけど、大丈夫でしたか?」


俺の問いに、リンは気まずそうに笑っている声がする。


『い、言われたことに動揺して…ですね?スマホ、落としてしまって…。壊しちゃいました…』


あはは、と乾いた笑い声が聞こえてくる。

言われたことって、俺の謎に告白みたいなやつか?

あれはテンション上がりすぎてて、授業中に思い返して俺が恥ずかしくなってたけど。


「ん?」


そこまで考えて、違和感を感じる。

リンは男を知り尽くした恋愛マスターのはずだよな?

俺みたいな彼女いない歴=年齢みたいな恋愛初心者の言葉でそこまで動揺するか?



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