第9話 運命

「な、な、なんておっしゃいましたか?」

大介は震えが止まらなかった。

どうする事も出来ない、これが運命なのか。

そんな日がいつ来るのかなんて誰にも分からない。



◇◇現在◇◇


「美味しかったわ。」

みなみは満面の笑みだった。

ディナーを食べて満足だった。


「そろそろ帰ろうか。」


「そうね。」


ガチャッ

「だだいま。」


「ただいま〜」


「みなみ、少し出かけてくるよ。」


「裕太…こんな時間にどこへ?」

みなみは不安な顔をしている。


「心配しないで、河野と仕事を済ませに。」


「そう、河野さんが入れば安心ね」


「行ってきます。」


「行ってらっしゃい、気をつけてね。」

みなみは笑顔で見送った。何か大切な用事なのだと察したからだった。



◇◇


「裕太様、いらしたのですね。」


「一応な、血は繋がっているからな。

もうあれから10年か、早いものだな。」

なんだがしんみりとした気持ちになった。


「そうですね。きっとあの方も裕太様の幸せを願っていますよ。」


嘘が得意になったな、河野。

そんなことあいつが思ってるわけないのに


「そう、だな。」


ガサッ


「誰だっ?」


「どうなさいましたか?」


「いや、なんでもない」

(誰かいたような気が、いや確実に誰かいた。

誰なんだ?ここを知っている人物は)

「そろそろ帰るか。みなみも待っている。」


「本当にみなみ様のことがお好きなのですね。似ていらっしゃる…」


「黙るんだ。もうこれ以上あの頃の話はしないと決めただろ。」


「そうでしたね。失礼をお詫び申し上げます。」



◇◇


「ただいま〜」



「ただいま〜!」



(おかしいな、いつもなら真っ先に突撃してくるのに…)


「みなみ?もう寝たのか?」


(ハッ)

そこには倒れているみなみがいた。


「みなみ!みなみ!

今すぐに救急車を…」


ガジャーン


手が震えて携帯を落としてしまった。代わりの電話は…

ああ、これが運命なのか、結局変えられないのか何も。みなみは幸せになれないのか。

そんなことを考えている暇はない。

みなみを抱きかかえ、病院へ向かった。

車を使おうにもディナーの時シャンパンを飲んでしまったため、運転ができない。

タクシーもバスも電車もこの時間はいない。動いていなかった。携帯も落として使えない。

なんて最悪な日なのだ。

やっぱりあの日だからか…?

どうしたらいいんだ、どうしたら、



◇◇10年前◇◇


「大介、上からの命令だ。

直ちに一色友美を殺せとのことだ。

いいか、わかったな。」



「大介?どうした?お前らしくもない。

いつもならすぐに返事をしてただろ。」


ハッ

「あっ、すみません。

少し理解が追いつかなくて」


「理解?かあははは

理解なんてものは殺しに必要はない。

ただ殺せばいいのだ。今までやってきたのと同じように。これが最後だからな」


「もしも…」


「どうした?」


「もしも、任務が完了できなかったらどうなるのですか?」

震えた声で大介は言った。


「できなかったことがないから分からないが、多分殺されるだろうな。だから大介、殺すんだ。わかったか?」


「承知致しました。全てはボスのために。」



これが運命だと言うのなら僕は受け入れよう。あなたを愛したことが間違いだった、いいや、生まれてきてしまったのが間違いだった。

さようなら、愛しい人よ。

さようなら、悲しき運命よ。

もう二度と生まれてきませんように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る