第3話 本当は

10年前のことだった。

許嫁と言われていた人に再会をした。なぜ今わたしの前に現れたのか、ともかく目障りだった。


◇◇10年前◇◇


ブブーブーブー


「もしもし。あっお父様。」


「友美、よく聞け 母さんが倒れた。」


(お母様が…!?どうしていきなり)

「はい、わかりました。すぐに向かいます。では」


プー

「ごめん。急ぎの用事が」

(お母様が倒れるなんてこと…それは口実でなにか違う用事が?)


「いってらっしゃい、気をつけてね。」


「ありがとう。みなみもすぐに帰るんだよ。危ないから、」

(心配だ。あんなよくない噂がある北川と一緒にいさせられない…。でもお母様…)


「わたしのことはいいから!行って!」


(みなみ…。きっと察してくれたのね。)

「ごめんね。気をつけて帰るんだよ。」



ブブーブーブー

「はい。」


「友美か、今の話は聞かなかったことに。」


「どうしてですか。お母様が心配では無いのですか!?」

(どういうことなの…全く分からない

この前の世襲だってお父様は何もわたしに言ってくれなかった

お兄様に全て…)


「とにかく、もう友美はこの件については忘れろ。関わるな。」


(なんでいつもそう勝手に決めて勝手にやって勝手にやめるのよ…。)

「はい。わかりました。」


プー


いつだってわたしはお父様の言う通りの操り人形でしかない。みんなはわたしを特別な人間のように扱っているけどそんなことなんてない。わたしはただの操り人形。

特別な人間というのはみなみのような、どんな人にも立ち向かっちゃうところとか1人で背負おうと頑張る人のこと。わたしでは無い。わたしは何者でもない。

いつかみなみみたいに……


「なあ」


(あれは…北川?)


「何ですか?」


(それにみなみまで…心配だわ)


「少し話さないか?近くに俺の知り合いが経営してる店がある」


「はあ。」

2人は歩き始めた。

その後ろに友美はこっそりついて行った。



◇◇


(ここは…バー?)

友美はこっそり近くの席へ座った。


「よう、清水!元気だったか?」


「裕樹か!久しぶりだな!」


(なんだか北川は嬉しそうね…。)


「所でそちらの方は?」

清水が聞いた。


「えっと、わたしは折笠みなみと言います。」


「お前と同じ学校だよ清水」


「うっそ同い年??!」

清水は驚いた顔をした。


「高校生なんですか?清水さん」


「そうだよ。このバイトは秘密ね。」

そう爽やかな顔で清水は言った。


「そういえば裕樹、あいつに会ったか?」


「あいつって?」

北川は不思議そうな顔をした。


「あいつだよ。大河内。もう1人の転校生」


「あ〜影薄くて気づかなかったわ。」


「えっ!あの人が影薄い?!」

みなみはびっくりして、声を荒らげた。

「だってあの人IQ400ですよ??!」


「それがどうした?」

北川は平然としている

「俺は500だが?」

ドヤ顔で北川は言った。


「えー!!!ほんとですか!」


「おいおいあんまり可愛い子をからかうな」

「嘘をつくなよ」


「可愛いってどこがだよ!」

「ばらすなよ、清水!」

焦って北川は言った

(くそ、なんなんだよ。可愛いとか

普通に言えちゃうとか)


「2人とも仲がいいんですね。」


「そんなことない!」

「そんなことない!」


「ほらやっぱり〜」

ニヤニヤしながらみなみは言った。


それから3人は笑った。時間を忘れるほどに。



◇◇


「もうかえりぇりゃ〜きちゃぎゃわ〜」


「はいはい、清水お前は飲みすぎだ。」

呆れた顔で北川は言った。

「ああ、頭痛いな。少し飲みすぎてしまった。

あれ?折笠みなみ?おい!」


「スゥー スゥー」


「こっちもか」

(しょうがない清水は置いていくか)


「さあ、行くぞー!俺の3つ目の家へー!」



ハッ

「やばい!北川達はどこ!」

(すっかり寝てしまっていた

清水というやつは…そこで寝ているわね

2人は…?探しに行かないと!)



一色友美、わたしは分かっていた。

この思いが届かないということ。伝えては行けない、知られては行けないということ。

ただそばにいれさえいれば…

そう思っていた。


ウィーン


「どうしてこうなってしまったの…」

その声の先にはみなみがいた。

はだけた服を直しながらマンションから出てきたみなみが。


急いで友美は陰に隠れた。

マンションから出てきたみなみを見て苛立ちと悲しみが心の奥から溢れ出てきた。


わたしはわかっていた。いつかこんな日が来るのではないかと。

幸せになって欲しいと心から思う。その隣がわたしじゃなかったとしても

それでも願ってしまうの。わたしだけのものになればいいのに

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