第3話



「──ハッ!?」


 気がついたときには保健室のベッドの上。

 俺は今まで、一体何を……。


「……ん。起きた」

「えっ?」


 声が聞こえた方に首を向ける。そうしてようやく気がつく。

 俺の傍らには、椅子に座ってジト目でこちらを見ているいる少女がいた。

 黒髪のポニーテールで、目も黒色。

 この抜きゲー染みた世界では霞んでしまいそうな程に、キャラクターとしての見た目の個性が薄い。

 そんな普通の少女が、ただ無表情で、俺を見ている。


「き、きみは……?」


 この世界の女の子は、総じて痴女か変態の属性が付与されている。

 本当なら間近に女子がいる時点で、即座に逃げる算段を考えなければならない。

 だが、目の前にいる無表情な少女からは、なぜか圧を感じない。

 俺をターゲットにした瞬間、獲物を見つけた野獣のような目つきになるこの世界のヒロインたちと違って、主人公っぽくなっている俺を前にしてもこの少女は一切動かない。


「……私はあなたの隣のクラス。

 空き教室で倒れていたから、保健室まで連れてきた」

「そっ、そっか……ありがとう。重かったでしょ、俺?」

「……ん」

「ぁ、うん……ごめん……」


 本当に重かったらしい。申し訳ない。

 ……それにしても、彼女はずっと無表情だ。

 眠そうな目つきで淡々と話すばかりで、いっさい感情が見えてこない。

 だというのに、心の底から感じる、この安心感はいったい何なのだろうか?

 まるで──


「じゃあ私、授業に戻るから」


 俺の無事を確認して用が無くなったのか、無表情な少女は席を立つ。

 礼を言う暇も、名前を聞く間もなく彼女は保健室を去ってしまった。

 彼女はいったい何者だったのだろうか。


「……そういえば」


 ふと、思い出した。

 俺は確か、合法ロリ先輩の手によって催眠されていたはず。

 空き教室で俺を見つけたということは、そこには先輩もいたのではないだろうか。


「もしかして……」


 カーテンで仕切られている隣のベッドを覗き込むと。


「すぅ……すぅ、んん……ぅ」


 あのロリ先輩が眠っていた。

 もしかしなくてもあの無表情の女の子が運んでくれたのだろう。

 俺と先輩の二人を運んでくれたあの少女には感謝しかない……が。


「二人とも気を失ってたってことは、そうなるくらいまで激しくヤッてたってことになる……けど」


 そこまで理解したうえで、スマホを取り出す。

 そして残機が表示される画面に目を通すと、そこには驚くべき情報が記されていた。



【残機×2】



「……残機が減ってない」


 ぼそりと呟いた声が、窓から吹き抜ける暖かな風にかき消される。

 俺と先輩は確かに催眠セックスをしたはずだ。

 だが、残機が減っていないということは、つまりセックスをしなかったという証拠でもある……。

 行為中の記憶が全くないため、判断が出来ない。


「先輩。先輩っ」

「んぅ……?」


 寝ている先輩の肩を揺らして、夢うつつの状態から覚醒させる。

 彼女には質問しなければならない。

 いま、もっとも俺が必要としている情報を知るために。


「あれ、後輩くん……?」

「先輩おきてください」

「うーん……」


 目を覚ましてくれた先輩が上体を起こす。

 寝ぼけ眼を擦っていて、どうやらまだおねむのようだ。

 しかしそんなことは関係ない。

 一刻も早く問いたださなければ。


「俺に催眠を掛けましたよね。

 先輩と俺って、あのままえっちしたんですか?」

「んぇ? ……ぅ、うん、そりゃもう、激しく。

 本当にボクの事オナホみたいに使ってたよ。

 四回くらい出したじゃないかな」


 なんてこった! 俺は本当にロリと……!


「ロリじゃないよぅ……」

「うるせえです変態」

「うぐっ……や、ヤバいと思ったけど性欲が抑えられなくて」

「聞いてません。

 今度また俺に催眠かけようとしたら、バリカンで髪の毛全部剃りますからね」


 デコピンしとこ。


「あだっ。……ご、ごめんね……」


 分かってくれたならそれでよい。

 それより、これで俺が本当にロリ先輩と『セックスをした』という確証が得られた。

 だというのに残機が減っていないということは──何かが起きている。


「バグか? それとも裏ワザ……?」


 いくら考えても答えは出てこなかったが、俺の頭の中にはあの無表情な女の子の顔が浮かんでいた。

 

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