R18しか許されない世界で生き残る方法

バリ茶

第1話

 



 俺の名前は主陣しゅじん コウ

 どこにでもいるような十七歳の男子高校生だ。


 昨日までは何の変哲もないただの学生だったのだが、とある事件を経て俺の環境は一変してしまった。

 の初日を終えた今だからこそ、改めて事細かに状況を整理していこうと思う。


 俺は昨日、友人の男子生徒である火路ひろ インと共に、いつも通り雑談をしながら歩いて下校していた。

 そしてバス停で次の便を待っていたその時。

 俺たち二人が立っている場所へ、暴走したバスが突っ込んできたのだ。

 当然のごとく俺とインは暴走車両にぶっ飛ばされて粉砕玉砕大喝采。

 なんてこった、死んじまった!

 ふざけやがって運転手め、未来ある高校生の命をよくも──なんて感情を抱きながら、走馬灯をみつつ意識が薄れてから少し経って。


 俺は不思議な空間に立っていた。

 周囲が全て真っ白な、マジで意味不明な空間に、1人でポツンと。

 訳が分からず狼狽していると、突然目の前にクマのぬいぐるみが。

 なにやつ。

 警戒しながら質問をすると、クマは自身を悪魔だと名乗った。


『わたしは悪魔だ。……クマだけに。ププッ』


 殺意が湧いたのは久しぶりだった。

 まぁ、確かに思い返せば牙とか黒い羽根とか、如何にも悪魔っぽい何かが付いてた気がする。

 別にそこはどうでもいいけど。

 ともかく死んだはずの俺を不思議な空間に召喚したクマは、こんな事を言ってきた。


『君を生き返らせることができるよ』


 曰く、クマを含めた悪魔たちは、とあるゲームを開催しているらしい。

 死んだ人間にもう一度チャンスを与え、ゲームをクリアすれば報酬としてその人間に蘇生を行うのだそうだ。

 ゲームと言っても享楽のためではなく、数年に一度行う神聖な儀式だとか。

 死んでもまた生き返れるだけの強い意志を持った人間を、予め見抜いて選んだ悪魔こそが、悪魔界(?)の中で上位の存在になれるらしい。

 逆にゲームに失敗するような人間を選んだ悪魔は降格し、社会的地位が奪われる。

 つまり、クマは俺を強い人間だと信じてこの話を持ち込んだのだ。


『ゲームをクリアすればわたしは地位を得て、君は生き返れる。

 Win-Winというやつだ。悪い話ではないだろう?』


 確かに思ってもない魅力的な提案だった。

 生き返れるんなら何でも利用するし、努力は惜しまないつもりだ。

 あの死を無かったことにできるのなら、それに越したことはない。


 だが、それだけでは駄目だ。

 自分にとって一番大切な友達で、しかし死に巻き込んでしまった男がいる。

 イン。火路ひろ イン

 中学に進学する際、親の都合で引っ越して知り合いのいない土地でオロオロしてた俺に、初めて出来た友達。

 ちょっと暗くて卑屈気味な性格してるけど、新しい土地で勝手が分からない転校生の俺をみかねて声をかけてくれるような、そんなお人好しで根が良いやつ。

 放課後は家に入り浸って一緒にゲームをしたり、昼休みはいつも一緒に飯食ったり──何でもないようで、でも隣にいるのが当たり前で、俺にとってなくてはならない大切な存在。 


 そう、親友だ。

 俺はそんな大事な親友を差し置いて、一人だけ生き返るチャンスを得ることなんてできない。

 もしアイツが普通に死んじまったのなら、俺だってこのまま死を受け入れる。

 ──と、そういった意志をクマに伝えたところ。


『あぁ、君の言ってるその友達くんね。既に他の悪魔に選ばれてるみたいだよ』


 マジか。


『ついてるねぇ二人とも。

 まぁ、生き返れるかどうかは君たち次第だけどさ』


 そういう事ならがんばるぜ。


『ん、頑張って。──で、ゲームの内容だけど』



 親友のインにも生き返るチャンスが与えられていることを知った俺は奮起し、やる気に満ち溢れながらゲームの概要を頭に叩き込んだ。

 要約すると、参加者であるプレイヤーはゲームの舞台となる別の世界に転移され、そこでゲームの運営側からランダムに選ばれた特定の条件を達成すれば、晴れてゲームクリアとなるらしい。


『一応ヘルプとして三回までならわたしを呼び出せるよ。

 その時に応じた助言をするから、困ったらスマホから電話かけるといい。はいこれ番号ね』


 悪魔とかなんとか言ってるわりには現代的な物出してきやがったな──なんてくだらない事を考えている間に準備は完了して。



 俺は転移した。

 このイカれた世界に。



『エッチ……しよっ♡』



 ──それがこの世界で初めて耳にした言葉だ。







 簡単に言うと、俺が転移した世界は抜きゲーだった。


 ……いや、それだとちょっと語弊があるな。

 常識とか倫理観が抜きゲーみたいな世界、と言った方が正しいか。

 抜きゲーとは抜く(自慰)ことを主目的として作られた、直接的な性描写がとても多いエロゲーのことだ。


 つまりに入るまでの過程が極端に短く、また行為に及ぶことになる機会イベントもアホみたいに多いということ。

 催眠術やエロアプリ、痴女だの痴漢だのいろんなスケベの種が跋扈しているこの世界では、気を抜いた瞬間即座にヤられる。


 ……どうしてそれが困るのか。

 何故都合よくエロいことが出来るのに、それを厄介だと感じているのか。

 それは運営から俺に課せられた、ゲームクリアの内容とゲームオーバーの条件に起因している。


 クリアの条件は、基本的に学園には必ず出席し、最終日であるバレンタインデーまで生き残る、というもの。

 ゲームオーバーの条件はなんともゲームらしく、残機がゼロになること。


 そして【セックスをする】と残機が減る仕様となっている。

 具体的に言うと行為に及んだ瞬間、肉体が爆発して木端微塵になって死ぬ。

 死に方が惨すぎる。こわい。

 俺に用意された残機は三つ。

 つまり三回爆発して死んだセックスしたらゲームオーバーだ。



「……がんばるぞっ」


 洗面台の鏡の前で、両手を握ってやる気を出す。ふんすっ。

 鏡に映っているのは紛れもなく俺だが、少しだけ前髪が長い。

 目が前髪で隠れて見えないのは、恋愛ADVや抜きゲー主人公の特徴とされている。

 どうやら俺は抜きゲーの主人公的ポジションにされてしまったようだ。


「いってきまーす」


 お決まりのように海外出張で都合よく両親がいない自宅を出た。

 一日目である昨日は、発情したいろんなヒロインたちに迫られたものの、終われる時間が短かったおかげで事なきを得た。

 しかし何度もそう都合よくはいかないだろう。

 早いとこ何か良さげな回避手段を思いつかないと──



『きゃああああぁぁ!!』


 親方! 空から女の子がっ!!


「へぶっ!」


 俺を巻き込んで地面に衝突した、天使のような恰好をした謎の女の子。

 一体どういう原理が働いたのかは分からないが、俺もその少女もほぼ無傷だった。

 しかもあろうことか俺がその少女を押し倒す形になっており、手は当然の如く彼女の大きな乳房に添えられている。

 どうやらこの世界では、物理法則よりもエロが優先されるらしい。

 

「なっ、なにをするんですか貴方は!? いきなり人のおっぱいを揉みしだいてッ!」


 ひどい言いがかりである。

 空から落下してきたそっちにも非があると思う。

 当たり所が悪かったら俺死んでたぞ。


「うぅ……本当にこの人がお告げにあった運命の人なの……?」


 なにやら聞き捨てならない単語が聞こえたような気がする。

 でも俺は聞いてない。

 早いとこ学園へ向かわねばならないのだ。

 路上で天使っ娘とラブコメしている時間などない。

 ので、即座に彼女の上から退いて駆け出した。


「さらばっ!」

「あっ、ま、待って!」

 

 追いかけてこないでください!

 ラッキースケベしたのは謝りますから!


「止めるな天使っ娘! お前の運命の相手とやらは俺じゃない! あと胸触ってゴメン!」

「待ってくださいってば! 運命の相手を見極めるためには、あなたの精液を摂取しないといけないんです!

 そうでないと確信が持てないんです! だから精液をください!」


 抜きゲーでもそんな展開ある!?

 もはや四コマ漫画レベルの超速展開じゃねぇか!

 ふざけやがって俺は帰らせてもらう──


「えいっ! 身体が動かなくなる魔法!」

「なにっ!? ──ぐぁっ!」


 突然肉体が硬直してしまい、走っていた勢いが余って転倒してしまった。

 そしてあっという間に俺を組み伏し馬乗りになる天使。

 こいつっ、そんな華奢な体のどこにこんな力が……!?


「こんな強引な手段に出やがるとはこの強姦魔めッ! 離れろ!」

「そういうわけにはいきません!

 私は神様適正のある運命の人を見つけなければ、天界へ帰れないのです!

 ……人助けだと思って、お願いします……!」


 そう言いながらズボンに手をかけやがってお前それが人にお願いする態度か!

 ……あっ、やめて! そこ触らないで!

 ちょっと本当に!

 死んじゃう! 爆発して死んじゃうからぁ!!


「……私、ちゃんと気持ちよくして差し上げますから……委ねてください、ねっ?」

「いーやーっ! 変態鬼畜痴女天使ぃぃぃぃ!!」


 ぎゃあ!変な魔法で勃起させられた!?

 ちょ、なにパンツ脱いでんだ……!

 やめて、やめぇっ、やめろぉぉぉぉ!!




 ──チュドーン──







「はっ!?」


 自室のベッドで目が覚めた。スマホを確認する。



【残機×2】



「クッソあぁ゛ッ゛!!」



 ゲーム開始二日目にして、俺は早くも敗北してしまったのだった。



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