善と悪

「どなただろうか?邪魔はしないでいただきたいが、どうやら王国側の人間の様だね?」


 エンシェントエルフが攻撃の手を収めずに老人、王国魔法調査団団長バンチ・ヤードに問い掛ける。


「いかにも、と言えばいかにもかのぅ。王国魔法調査団を名乗っている以上、王国側の人間という事になるのぅ。まぁ正直王国なんぞどうでも良いがの」


「何を言っているのだ?お前がどこの誰であろうと構わない。重要なのは我々の邪魔をするのかどうか、と言う事だけだ」


「その問いであれば邪魔はしない、と答えるのが妥当だろう。儂はこんなガラクタにも役にも立たん冒険者にも用は無い。むしろお前達が儂の邪魔をするかどうか、それが重要なんじゃ。分かるな?」


「おいじいさん、そりゃどう言う意味だ?」


 斧の戦士がバンチ・ヤードに詰め寄る。


「なんじゃ?分からんのか?聞いての通りじゃ、頭の悪い男だのぅ」


「あぁ?なんだと?」


「聞いての通りと言ったんじゃ。儂はお前さんにもこの小競り合いにも興味は無い。なので先を急がせてもらう、そういう事じゃ」


「つまりここを素通りさせろ、と?」


「おぉ、さすがは長生きのエルフじゃ、理解力が違うのぅ」


 バンチ・ヤードは大袈裟に手をぽん、と叩いてみせる。


「ささ、では失礼するかの、気になさらず続きをやっとってくれ」


 バンチ・ヤードは何事も無かったかの様にエルフの横を素通りする。


「通れるとでも?」


 エンシェントエルフは細身の剣の切っ先をバンチ・ヤードの首元へと滑らせる。


「通れるさのぅ」


 そう言った瞬間、するりとエルフの剣をバンチ・ヤードの首がすり抜けた。そして何事も無かったかの様に先へと歩く。


「な……?魔法か……?」


「さぁなぁ?長生きはしても世間知らずと見える。見聞を広めるといいさのぅ。くくくくく……」


 バンチ・ヤードは肩を震わせ笑いを堪えながら歩みを進める。


「おい!じじぃはどうでもいい!クソエルフども!オレ達ぁいいもん見つけたぜぇ!?」


 戦士の大声にエルフが驚き振り返る。


「おやまぁ……これはこれは、いいものを見つけたものだのぅ」


「貴様……!何をするつもりだ……!」


 斧の戦士を見るとその腕には幼いエルフの首が。そして短刀を首に押し付けている。


「坊やよぉ、こんな所ウロウロしてちゃあダメだぜぇ?痛い目見ちまうよぉ?なぁ?」


 斧の戦士はヘラヘラと笑う。


「ユーノ……お前なぜこんな所に……」


「ご、ごめんなさい……ボク薬草を摘みに来てたんだ……そしたら大きな音がしたから……」




「おいおい、なんだかやべぇ事してんなぁ、あいつら」


「そうね、子供を盾にするなんて……何をしてもいいって事は無いわね」


「同感だね。子供は関係無い。ってあれ?あのじいさんどこ行った?」


 バンチ・ヤードがいない。いつの間に……。


「あ、あれミズィさんじゃねぇか?」


 ゼニに言われて見ると、エルフの子供を盾にしている戦士に向かって天パが歩み寄っている。


「あぁたねぇ~、そりゃやっちゃいけないでしょ?ダメダメ、それはダメだわぁ~。そんなんさぁ、その子供に関係無いでしょ?ねぇ?それぐらい分かるでしょおよぉ~?ほら、離しなさい、離しなさいって」


「あんだぁ?お前。魔法調査団の奴らだろ?気がついたらじじいいなくなってんじゃねえか。お前もさっさとどっか行けよ」


「ま!口の悪い!これは育ちも悪いんだなぁ~!嫌だなぁ~!やだやだ!こういうの!失敬だな!」


「だから何なんだよお前。どけ、オレァそこのクソエルフに用があるんだよ」


「じゃああぁたとそこのエルフとでやんなさいよ。ほら、その子離してやんなさい」


「離すワケねぇだろ!見ての通り人質なんだよ!」


「人質、と言ったか人間?その子を傷つけようと考えているなら活かしてはおかんぞ?」


 明らかにエルフの声色が変わる。

 それは意図的に変えたのだろうが、凄みよりも焦りが出てしまっている。これでは逆効果だろう。


「そうそう!何かしたらタダじゃおかないからね!」


「いやお前……エルフの味方かよ」


「エルフの味方とかなんとか無いのよ!どんな理由であれ子供を人質に取る様な輩にはろくな奴いないでしょ!この人でなし!ペッ!」


 ミズィさんお行儀悪い……。でも言ってる事には賛成だな。あのエルフの子供は何も関係ない。


「オレァよぉ、ミズィさんの言ってることがもっとのだと思うぜぇ?なぁ?」


「同感ね、私もあの天パさんの言っている事が正しいと思うわ」


 どうやらオレ達パーティーは全員同意見の様だ。


「うるっせぇんだよ天パ!オレ達人間の邪魔しねぇってんならそこをどけ!エルフ側に着くなら容赦しねぇからな!」


「だぁーかぁーらぁーその子を離せば後はお好きにどうぞって言ってるじゃなぁいのよぉ!バカ!ほんとバカ!あぁた!」


「バカはオメェだぁ!そこのエルフに痛い目見せてやるための人質だろうがぁ!」


「それは関心しないね」


 ミズィさんとギャーギャーやりあっている間に子供を人質に取っている冒険者の背後に忍び寄ったオレは冒険者の右腕を掴む。


「子供を人質に取るなんてなっさけない男ねぇ、あなた」


 驚く冒険者の左腕をアサヒが掴む。


「あぁ、ホントになさけねぇ。お前キンタマ付いてんのかよぉ?」


 そう言って真正面に立ったゼニが子供の顔を躱す様にして強烈なボディブローを冒険者の革鎧の隙間へと叩き込む。


「ごっ……」


 短く嗚咽を漏らし膝を着きそうになった冒険者をオレとアサヒが横から支える。

 ゼニは素早く子供を冒険者から引き離し、革鎧の下から隙間へ手を突っ込み、剥がすように革鎧を上へと捲る。そして顕になった鳩尾へ容赦なくパンチをお見舞いする。その度冒険者は崩れ落ちそうにのるが、オレとアサヒがちゃんと支えてあげた。

 5発殴った所で冒険者は白目を剥いたので解放してあげた。


「あなた下品ね、キン……ゴホン。その、なによ、とにかく表現が下品よ、下品」


「うっせぇなぁ、キンタマぐらいいいだろうよぉ」


「下品!」


 うるさいなぁ。そんな2人はさておき、側で怯えているエルフの子供に声を掛ける。


「大丈夫だった?どこも痛くないかい?」


「……う、うん……ありがとう……」


「うん、どういたしまして」


「あらまあ!トウゴくんとゼニくんじゃなあい!いい仕事するねぇ~!関心だわぁ~!」


 オレ達に気が付いたミズィさんがぶんぶん手を振っている。


「ミズィさんこそ良かったんですか?バンチさん行っちゃいましたよ?」


「いいのいいの!あたし1人いなくたって大して変わらないんだから!」


 ミズィさんは高らかに笑う。


「そこの人間、その子を返してもらおうか」


 エンシェントエルフがオレ達に言う。しかしその手の武器は下げられている。


「ほら、君も仲間の所に行った方がいいよ」


 オレは子供の背中を軽く押す。すると子供は一目散にエンシェントエルフの元へと駆けて行った。


「さて粗暴な冒険者よ、お前達はどうする?人質も無く実力差も歴然だ。しかし今ならこの心優しい人間に免じてお前達も見逃してやろう。どうだ?」


「く、くっそ……!見逃すだって……?何様のつもりだぁ!」


「ちょ!ちょっとお前!それはさすがにやばいって!」


「うるせぇ!やるんだよ!」


 そう叫ぶとその男は背負っていたカバンからボウリングの玉ぐらいの大きさのジンツーグを取り出した。


「やめろって!みんな吹き飛んじまうぞ!」


「うっせえええええ!行くぞぁー!!!」


 男は叫ぶとそのジンツーグをこちらへ転がし、自分達は振り返り一目散に逃げて行った。


「あれ、やばそうじゃない?」


 アサヒの言う通り、オレからしたらあれは爆弾にしか見えない。


「爆発、しそうだよな?あれ?」


「いやああああ!やばぁーいじゃないの!ちょっとどいて!!!」


 ミズィさんが悲鳴を上げながら玉に向かって全速力で走って行く。走りながら持っていた杖を振りかぶる。その杖が魔力を放ち、振りかぶる先に集まり四角い塊を形成する。その塊はどんどんと大きくなり、ハンマーヘッドを形成した。


「どっか行きなさいよ!!!」


 ミズィさんはあの大きなハンマーになった杖を信じられないぐらいのヘッドスピードでゴルフクラブの様に振り抜く。いや見た目はゲートボールか?そして撃ち抜かれた玉は破片を撒き散らしながら逃げて行く冒険者の方へと飛んで行く。

 そして玉は10メートル程飛んだ辺りで激しく光を放った。


「みんな伏せちゃって!」


 ミズィさんの声でオレ達は地面に伏せる。

 その瞬間、玉が爆発、爆音と爆風で辺りを吹き飛ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

修復スキルでアイテム無限使い回し!!! @PDlion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ