揉め事

「ほれほれ、後少しだからがんばれよトウゴ」


「がんばってっからぁ!必死だからぁ!」


 いや本当、ほぼベッドの上での生活からまだそんなに日が経って無いからな?これでもめちゃくちゃがんばってるだろオレ。


「まぁまぁ、もうすぐ着くんだからそんなに……ん?」


 クッタさんが右手の方を見て立ち止まる。つられてオレとゼニもそちらを見ると、何やら土煙が舞い何かが走っている様に見える。


「ありゃあ馬……、いやグラネか。てことは王国騎士団か?」


「グラネ?」


「ああ、馬みてぇな魔獣って言えば分かりやすいか?てかほぼ馬なんだけどよ。グラネは風属性のマガタマ持ってっから、馬より速くて丈夫だ。で、そんなのに乗れるのはこの辺だと王国騎士団ぐらいなもんだろ」


「魔獣に乗るのか。なんかすげぇな。てかあれ、街に帰る途中って割には速く無いか?なんだか余裕無さそうな感じなんだけど?」


「あれは!魔獣の群れに追われているんじゃ無いか!?」


 クッタさんが指差す先にはもう1つの土煙。その中にはハッキリとは見えないが、素人のオレでも分かる魔獣の群れが居た。


「なんでまた魔獣なんかに追われてんだ?しかもこんな王都の近くで?」


 確かに、ゼニの言う通りだ。王国騎士団なんて言うぐらいだから魔獣の狩りになんて行かないだろう。もし魔獣の討伐みたいなものに行ったのなら、確実に勝てる準備をして行くんじゃないか?それが敗走みたいな事を、ましてや王都付近まで魔獣を引き連れて来るものなのか?


「あれ……?なんだかこちらへ向かってきていないかい……?」


「あ……そんな感じしますね……」


「本当だなぁ、ありゃー向きを変えてこっち来てるぜ」


「な、なんでだ!?えぇ!?」


「あ、もしかしてアレと合流するつもりなのでは?」


 オレはさっきまで街に入る人の列があった門が大きく開かれているのを指差した。そしてその門の向こうから装備に身を包んだ団体がゾロゾロと出てきているのが見えた。


「なるほどなぁ、援軍が来たって訳だ。あの感じだとギルドが出した依頼を受けた冒険者連中だなぁ。グラネどころか馬にも乗ってねぇ」


「援軍が来るとなんでこっちに向かって来るんだい!?」


「それは援軍が徒歩だからでしょう。出来るだけ王都から離れた場所で戦闘したいんじゃないですかね?一般の人も王都に入るのにあそこに居ますし。必ず勝てる兵力差でも、被害は最小限にしたいんじゃないですか?」


「ここにだって一般人はいるよぉ!」


 クッタさんの叫びも虚しく、右手からは方向転換して来た騎士団と魔獣、前方からは走って向かって来る援軍の冒険者達。そしてその合流地点にオレ達。


「こりゃー逃げようが無いなぁ。オレ達も混ざるか!」


「お前また……。とにかくクッタさんは出来るだけ戦場から離れましょう。このまま行けばドンピシャでここが戦場になりそうです。あっちの森の中に入れば大丈夫だと思いますよ、最悪な事が無ければ」


「最悪な事ってなんだい!?トウゴくん!?とにかく私は森に隠れるからね!君らも無理するんじゃないよ!」


「分かってます!終わったら迎えに行きますね!」


 クッタさんは振り返りもせず、一目散に森へと駆けて行った。


「さぁて、やるかぁ」


 ゼニが準備運動を始める。

 それに合わせてオレも腰のホルダーに刺していたヒールのスクロールを使う。疲れは取れないが筋肉の痛みは取れるからね。疲れは取れないけど、うん。荷物重すぎたんだよ。


 ヒールをかけスクロールを修復し終わり、盾を左手にはめる。どうやら騎士団の方が若干早くここに到達する様だ。


「おおーい!!!助太刀するぜぇ!!!」


 ゼニって声でけぇな。まぁ役にも立つけどなぁ。


「ギルドから派遣された冒険者か!助太刀感謝する!ダージ王子!これで奴らを追い返せますぞ!」


「ルグレ騎士団長、命拾いしたな。だが安心するのはまだ早い。援軍の冒険者達はまだ揃ってはいないのだろう?」


 先頭を走り一早くオレ達の所にたどり着いた数人の騎士達。おそらく乗っているグラネの力が強いんだろう。


「2人……か。勇敢だな。何にせよ恩に着る。残りの援軍もすぐに到着するだろう。ルグレ騎士団長、ここで迎え撃つぞ。相手は魔獣の群れとあの忌々しいウゥロだけだ。援軍と合流して兵力差で勝るなら平坦な場所で戦った方が逃がさずに済む」


「了解しました!全軍!ここにて敵を迎え撃つ!援軍が合流次第奴らを殲滅するぞ!」


 騎士団長の激で士気が上がり多くの騎士達が雄叫びを上げる。グラネに乗った騎士はダージ王子とルグレ騎士団長の手前まで来て振り返り、魔獣の群れに向き直る。視線の先には馬に乗った騎士達が遅れて駆けてくる。そのすぐ後ろには魔獣の群れが。


「放てぇ!」


 ルグレ騎士団長の掛け声と共に大量の矢が放たれる。その矢は大きく弧を描き、馬に乗った騎士の頭上を越えた辺りから重力に引き寄せられ、先頭を走る魔獣に突き刺さった。

 先頭を走る魔獣は倒れ、後ろを走る魔獣もそれに巻き込まれるかと思われたが、後続の魔獣はいとも容易く倒れた魔獣を踏み越え、ほぼスピードを落とすこと無く走って来る。そして先頭の魔獣は全て倒れた訳では無かった。5匹の魔獣が矢を掻い潜り突進してくる。


「撃ち漏らしたか……!迎え撃て!」


 馬に乗る騎士達は慌てて馬を方向転換するもバタついている。グラネの騎士達は弓から剣に持ち替えグラネを走らせるがこちらももたついている。


 オレは両手を前に出しファイアボールのスクロールを2つとも放つ。放たれた火球は狙った通り先頭を走る魔獣2匹の顔面に着弾、魔獣はもんどり打って派手に吹き飛び、横を走る魔獣も巻き込み地面に転がった。


「おぉ!魔法使いとは!助かったぞ!」


「あ、いや、魔法使いじゃなくて今のスクロールなんですよ」


「よぉし!心強い援軍も来ている!魔獣の群れなど蹴散らしてくれようぞ!」


「あーあ、あの人全然聞いてねぇなぁ」


「まぁ……後で説明すればいいだろ。それよりも次はお前の出番だろ。武器が壊れたら直してやるから好きなだけ暴れて来いよ」


「おおーーーよ!!!任しとけ!」


 ゼニは元気だなぁ。腰に差したロングソードを抜き走り出すゼニ。オレもスクロールを修復しつつ盾を左手に構える。でもこんな混戦、本当に大丈夫なの……?もうすでに生きた心地がしないんだけど……。


 オレは弓を構える騎士の近くで遠距離で援護する事にした。危ないしね。ファイアボールを放ちながら魔獣の群れを観察すると、群れは3、4種類の魔獣の群れの様だ。てかただの魔獣が別の種類の魔獣と協力して戦うもんなのか?そんなに頭いいの?


「おぉらああぁぁぁ!!!」


 こんだけ離れててもゼニの声は聞こえるんだな。あいつ元気だな。ゼニは馬に乗った騎士達に混じって暴れ回っている。魔獣の群れと言ってもどれも大きな牛みたいな奴らばかりでそれほど強くは無いのかな?しかし数が数だけに簡単には行かなそうだ。まぁ前線はあちらに任せてオレは抜けてきた魔獣を的確に撃ち抜くだけだ。油断しない様にしないと。


「ダージ王子!」


 ルグレ騎士団長が急に叫んだ。驚いて振り返ろうとすると、オレのすぐ横を一騎の騎馬が駆け抜けて行った。かなりのスピードで駆け抜けて行くその騎馬にはダージ王子が乗っていた。


「ウゥロ!逃げるなよ!今日こそ貴様を殺してやる!」


 先ほどまでの落ち着き、威厳のある雰囲気は消し飛び、怒りに身を震わせた怒声を上げながら魔獣の群れに向かって駆けて行く。それは王子と呼ばれる立場の人間の振る舞いとは到底思えない。王子、ましてやこの状況だと総大将だろ?最後の最後まで守られなきゃならない立場じゃないのか?


「おい!騎士団長殿!あの王子はどうしちまったんだよ!死なれたらオレらだって困っちまうだろ!」


 ルグレの側までたどり着いた援軍の冒険者が詰め寄る。


「申し訳ない……!ウゥロだ、ウゥロの姿が見えた途端ああなってしまったんだ……まったく……!」


 ウゥロ?なんかさっきもその名前を言ってたな?つまりウゥロが敵で、群れは魔獣だけでは無いって事か?

 ダージ王子の駆ける先を見ると、確かに一際大きなダチョウの様な魔獣に乗る人間が見えた。あれがウゥロなのか?


「ちっ!しょうがねぇ王子様だなぁ!ここで悠長にちまちま数を減らしてる場合じゃねぇだろ!王子に死なれちゃ報酬もゼロだ!やってらんねぇだろ!世話の焼ける王子だよぉ!」


「くそっ……!全騎士、援軍!王子に続け!一気に殲滅だ!」


 あれ?突っ込む事になった?まじかぁ。


 

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