寄り道

「ほ、本当に大丈夫なのかい……トウゴくん?」


「だ、大丈夫ですよ……これぐらい……」


「そうッスよ!限界になったらオレが代わりに背負ってやるんで大丈夫です!ちゃんと鍛えないとこの先こいつ生きて行けないんで!」


 くそ……ゼニめ……。オレは持てる限りの荷物を持って山道を歩いている。もちろん筋力アップと体力をつけるためだけど、これはさすがにキツすぎないか……?


「ちょ……もう限界……」


 オレは前のめりに地面にぶっ倒れた。


「なぁんだよお!本当にひ弱だなあ!お前!ほれ!荷物持ってやるからさっさとヒールかけろ!」


「あああー」


 オレの背中からズルズルとパンパンになったリュックやら荷物やらが剥ぎ取られていく。


「ヒ、ヒール……」


 全身の筋肉が癒されて行くのが分かる。


「お、おぉ……」


 癒されると同時に体力がごっそり持っていかれるのも感じる。し、死んでしまう……。


「大丈夫かい?トウゴくん……。ちょうどもう少し行ったら今日泊まる予定の山小屋に着くよ。まずはそこで少し休憩しよう」


「そ、そうしましょう!」


「なぁんだ?だらしねぇなあー。しゃーない、少し休憩だな」


 いやだから厳しすぎなんだってお前。



 

「くっはー!水がうまい!!!」


 山小屋に着いてイスに座り、水筒の水を一気に飲み干した。生き返るぜ!


「だいぶお疲れだね。山小屋と言っても最低限の物しか無いし、ベッドだって1つしか無い。さすがにベッドはトウゴくんが使った方が良さそうだね」


「申し訳無いです、こいつがひ弱なばっかりに。でも明日から足を引っ張る訳にも行かないのでお言葉に甘えます!」


「お言葉に甘えまふ……」


「ハハハ!まぁ若いんだからゆっくり寝たら元気になるよ!」


 そ、そうかなぁ?


「じゃあ少し遅くなったけどお昼ご飯にしよう。ここなら簡単な火を使った調理も出来るし。すぐに用意するから待っててくれ。で、食べ終わったら少し寄り道に付き合ってもらってもいいかな?」


「寄り道?」


「そう、ここから少し道を外れた先の丘に石像が立っているんだ。いつもそこにお参りに行ってからここを通るんだ。なぁに、ただの習慣だよ」


 簡単なお昼ご飯を済ませたオレたちは山小屋を出た。小屋の中なので火が使えるとは言え本当に簡単な料理だった。贅沢は言ってられないけど、トーラさんちのご飯が恋しいなぁ。

 王都へと続く道を外れ山道を登って行く。山道とは言え良く見ると確かに所々に石畳や石柱の様な、整備された道の名残がある。


「見えた、あそこだよ」


 山道を登ること30分ぐらい、登った先には少し開けた原っぱがあり、そこにほ木々も生えていない。背の低い草が広がる小さな草原、その先は断崖になっている様だ。そしてその断崖の少し手前に、こちらに背を向ける様に置かれた7体の石像があった。


「あそこにお参りに行こう」


 クッタさんにうながされ石像へと歩み寄る。石像の前へと回り込むとそこには簡単な石の台が置かれており、おそらくこれが簡易な祭壇になっているのだろう。

 クッタさんは静かに目を閉じ軽く頭を下げた。それにならってオレとゼニも頭を下げる。


「これはね、『名も無き英雄』なんだそうだ。今よりも遙か昔、もはや誰も覚えていない程の遠くの昔にこの土地を救った英雄なんだそうだ。世界には同じ様な物がたくさんあって、それが本物かどうかなんてどれも怪しいんだけどね」


 言って笑いながらクッタさんは荷物の中から雑巾と小さなバケツを取り出す。


「それでもこの像はこの辺の人には忘れられていない。きっと、誰かがこの像を覚えているって事は、この英雄達が成した偉業は何百年経ったとしても無駄じゃ無かったんだって事なんだと思うよ。まぁだからご利益があるかどうかって言われたら分からないけど、たまには綺麗にしてあげれば旅の運も向いてくるってものなんだよ」


 言ってクッタさんはバケツをオレに手渡す。


「トウゴくん、申し訳無いが少し行った先に小川が流れているんだ。水を汲んで来てくれないか?その間にゼニくんは私と周りの草むしりをしよう」


 オレが水を汲んで来る間に2人が草むしりをし、オレが戻ってから3人で英雄達を綺麗にした。石像は綺麗にしても劣化が激しく、もはやハッキリとは顔も分からない。ある英雄が背中に背負う剣の鞘も朽ち、ある英雄が持つ盾も大半が欠け元の形も分からない程だ。


「よし、こんなもんかな。後は挨拶をして帰ろうか」


 オレたちは3人で英雄達に頭を下げ、荷物をまとめる。


 ふと英雄達が何を見ているのか気になった。英雄達の視線の先、つまりオレの後方。振り返るとそこには断崖から見下ろす広大な森が広がっていた。


「ここはどれぐらい昔から変わっていないのかは分からない。ただ、どれだけ景色が変わろうとも、この英雄達が守りたかった物はここに広がっているんじゃないかな?なんて分かった様な事を言ってしまったね」


 クッタさんは照れ笑いした。でも確かにそうなんだろう。もし本当にこの7人が存在したとして、この7人が守ろうとしたもの、その延長が今眼前にある全てなんだろう。それがどんな意味を持つのか、そのほとんどを忘れ去られた名も無き英雄達、その真実を知る事なんて出来るんだろうか?まぁこの先の旅の目的のひとつに、こういう物を訪ね歩くってのも加えてもいいかもな。そう思ってゼニを見ると、相変わらずのアホ面で荷物をまとめている。こいつには響かないか?


「なんて言うかさぁー、こう、温故知新って言うの?感じない?」


「あぁ?おん……なんだって?」


「いやなんでも無いです、すいません」


「ハハハ、まぁいいじゃないか、こういう物に思いを馳せる、それだけで十分なんだよ」


 オレたちは笑いながら先を行くクッタさんについて山道を降りた。


 山小屋に戻ると日はほぼ落ち、辺りは暗くなり始めていた。


「もうそろそろ暗くなるから今日は早めに寝ることにしよう。こんな山小屋じゃあ特にする事も無いしね」


「そうしましょう……ボクはもうクタクタです……」


「なっさけねぇなぁーおまえー」


「まぁまぁそう言わないで、ゼニくん。この辺はそこまで魔物が多くないとは言ってもまったくいない訳じゃないんだ。めんどうな事にならない様に、山小屋の中とは言え明るくない方がいいんだよ。だから早めに晩ご飯にするとしようか」


 お昼ご飯を食べてからそんなに時間も経っていないので、晩ご飯は保存食をかじる程度になった。それでも十分だ。なんなら食欲もそんなに無いし……。


「王都はここからあと2日って所だよ。だからもう一泊するんだけど、それ用の山小屋もあるから心配しないで。比較的安全だし、しっかり休む事も出来るから」


「良かったなぁトウゴ!ゆっくり休めるってよ!また明日も荷物持って鍛えないとな!」


 いてて!バシバシすんな!


「わぁーてるよ!やるよやるよ!」


 また明日もあれか……今日は早く寝よ……。


「まぁほどほどにね。でもゆっくり行っても明後日の昼過ぎには着けるはずだよ」


「すいません……お話の途中ですが限界です……お先に寝させていただきます……」


 限界……眠いのだ……。

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