やりたい事
帰り道は何だかあっという間に感じた。行きとは違い皆気持ちも足取りも軽い。しかしさすがに大荷物となったから途中で数回休憩をはさみ、村に着く頃には日も暮れようとしていた。
「あ!トーラさんだ!皆も帰って来たよ!」
村はずれで皆の帰りを待っていた子供たちが先頭を歩くトーラさんを見つけ飛び跳ねながら大声で叫んだ。すると数人の大人が駆けつけて来た。
「トーラ!無事だったかい!?皆も!で、どうだったんだい!?」
トーラさんはニコリと笑顔を見せると背中の大荷物を見せた。
「それは……!もしかして討伐出来たのかい!?」
「もちろんさ!しかも全員無事だよ!怪我人だってトウゴくんに治してもらったしさ!」
「まぁ!なんて事なの……本当に……。これは急いで皆に知らせなきゃだわね!ほら!子供たち!急いで村の皆に知らせておいで!」
おばさんに言われ子供たちは一斉に村の中へ走っていった。
「ささ、皆も疲れたでしょ!まずは村長の家まで行っといで!」
オレたちはそのまま真っ直ぐ村長の家まで歩いた。その途中では大喜びの村人たちが声をかけてくれた。中には泣いてる人までいた。うん、がんばって良かったよ。
「おお!トーラ!戻ったか!無事討伐出来たんだな!?」
村長が家から出てきて真っ先にトーラさんに声をかける。
「ええ父さん!無事巣も焼き払って来ましたよ!これでもう心配無いよ!それもこれもトウゴくんとゼニくんのおかげだよ!村の者だけだったらどれだけの被害が出ていた事か……。むしろ討伐出来ていたかも分からないよ」
「そうか、2人には感謝だな」
その後は今日のところは素材などは村長の家の倉庫にまとめて保管しておく事になった。何だかんだで日も暮れてすっかり夜になってしまっていたからだ。
「さあさ!皆お腹空いているでしょ!おばさん今日は張り切っちゃったからたくさん食べてねえ~!」
言葉の通りトーラさんのお母さんはかなり張り切って料理をしたらしくテーブルの上に乗り切らない程の料理が並べられていた。
「ドンドン食べてね!残してもしょうがないんだから!」
「じゃあー!遠慮なくいただきます!」
真っ先にゼニが飛びついた。おいおい行儀悪いな、と思ってはみたものの、オレの空腹も限界だったみたい。ゼニに続いて飛びついてしまった。
「いやぁ~!それにしても凄かったよ!2人とも!女王グモが出てきた時には正直無理かと思ってしまったもの!」
「ははは!捨て身の特攻ですよ!特攻!わははははは!」
「本当に凄かったよ!さすが武器狩りの異名を持つだけの事はあるよ!」
「いやぁ~!わははははははは!」
上機嫌だなぁ。オレはと言うと、実はちょっと気分が晴れない。何か、ちょっとひっかかるものがある。それは討伐が終わってからずっとだ。
「で、2人は女王グモの素材はどうするんだい?何だったら明日の朝イチにでもクッタさんに相談してみたら?」
「そうッスねぇ~、クッタさんは王都での商売に詳しいんですよね?」
王都、王都か。
「っしゃー!腹いっぱいだな!おい!」
ゼニが腹をパンパンして満足げに言う。豪勢な晩ご飯が終わり、何となく気分が晴れなかったオレは夜風に当たりに来ていた。ぼーっと夜空を眺めていたらいつの間にかゼニが隣に来ていたって訳だ。
「なぁーんかノリ悪ぃな、お前?」
「いや、何となく、な」
「そか。んでよ、これからどうすんだ?お前」
「どうするって……?」
「あぁー、いろいろだよ、いろいろ。ほら、素材どうするかってのもあるし。そもそもお前、これらかどこで何する気なんだよ?このままこの村に住むのか?」
考えて無かった。転生してきて今の今まであっという間に時間が過ぎて、正直流された感じで今ここにいる。この村のピンチにたまたま立ち会って、それが終わって、気がついたらオレはまた振り出しに戻っている様な気がした。討伐が終わってからずっと、何となくモヤモヤしていたのはこれだ。
「なんだよ、お前せっかく転生して生き返ったんだろ?なんかやりたい事とか無いのかよ?」
「やりたい事……」
考えた事が無かった。転生してからじゃない、転生する前からずっと、考えた事が無かった。何となく自分はもう病院から出られないのも分かってたし、そう先が長く無いのも分かってた。もし元気になったら、自由になったら、なんてずいぶん前から考え無くなっていた。
「そうだよ、あんだろ?やりたい事とか行きたいとことかよ。あ、こっちの世界来たばっかだから行きたいとこってのは分かんねぇか?いろんな面白いとこがたくさんあるぜぇ~。オレも見た事も無い様なとこもたくさんあるしな」
「…………」
やりたい事。
行きたい所。
なりたいもの。
そうか、オレはどこにでも行けてなんにでもなれるんだ。
「……たくさんの物を見てみたい……。いろんな人に出会って、いろんな事をして……。今まで想像も出来なかった様な多くの世界を知りたい……」
「なぁんだよ、あんじゃねぇか、やりたい事。しゃーねぇな、オレの夢のついでにお前のやりたい事に付き合ってやるよ」
俯いていたオレはその言葉にハッとなりゼニを見る。こいつは相変わらずアホそうな顔でニヤついている。
「一緒に行こうぜ、相棒」
溢れそうな涙は必死に堪えた。
「おう」
そう発するのが限界だった。
父さん、母さん、兄ちゃん、オレ、仲間が出来たよ。
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