討伐開始
「止まって」
急にトーラさんが身をかがめて後ろの人たちを手で制した。そして右手の人差し指を立て口に当てる。あれはしー、って合図でいいんだよな?
そしてトーラさんの視線の先を見る。すると数十メートル先から少しなだらかな坂になっていて、その先が一段くぼんだ平地になっている。すり鉢状、と言うほど急な斜面になっていないが、おそらく自然に出来た傾斜ではなさそうだ。そしてそのくぼんだ平地にコドクグモがウロウロしているのが見えた。その数7匹。そして村を襲った個体より明らかに大きい。1.5倍ぐらいはありそうだ。これだけ開けた場所だから数は7で間違い無いだろう。そしてその平地の真ん中に何やら白い糸の塊の様な物が見える。それは半径2メートル程で、何となくだけど地面の穴を塞いでいる様に見える。
「もしかして……あの真ん中の糸の辺りが巣の入口、なんですかね?」
「あのオオコドクグモの動きからしてあそこを守っているのは間違い無さそうだね」
トーラさんもオレと同意見みたいだ。何だかクモって言うよりアリジゴクみたいだな。
「てかオオコドクグモなんだな?オオドクグモじゃねぇんだ?コドクグモのコはちっちゃいって意味のコじゃねーんだ」
いやそこどうでもいいだろ。ゼニを無視してトーラさんと斜面ギリギリの草むらまで進んで小声で相談する。
「どうしますか?こう開けた場所で、さらに斜面となるとどうしても真っ向から戦うことになりそうですけど……身を隠す所も無さそうですし」
「そうだね……とは言えせっかく気づかれていないんだ。弓を持ってる人は上から援護射撃してもらおうか?」
「いやぁそりゃあ危ないよ。ここからだと下まではそれなりの距離がある。まして弓を射るのが慣れている弓使いならまだしも、ほとんど素人だぜ?ここから混戦になっている中コドクグモだけを狙って射るのはほぼ無理だろうよ」
「確かに……」
ゼニのくせに正論だな。
「弓が後ろから援護射撃ってのは悪くない。けどこの上からって訳には行かないな。結局全員斜面の下までは降りなきゃならねーぜ。つまり一度戦闘をおっぱじめちまったら倒すか、倒されるかするまで逃げる事すらできねぇって事だな」
つまり覚悟を決めないとならないって事だな。トーラさんはオレとゼニに向かって大きく頷いた後、静かに後ろに下がり討伐隊の皆に説明した様だ。トーラさんの話を聞くにつれて徐々に表情が険しくなって行ったが、皆最後には大きく頷いていた。覚悟は決まった様だ。その後トーラさんと他の皆は静かにオレたちの居る場所まで進んできた。
「皆覚悟は決まったみたいだよ。行こう。まずはここから弓で奇襲をかけ、その後弓以外の人が斜面を駆け下り出来るだけ中心部に向かって進み戦闘開始、それに続いて弓を持つ人たちが斜面を降りて後ろから援護、それで行こうと思う」
「分かりました。オレのファイアボールのスクロールはそんなに射程が長くないので弓以外の人と一緒に先に斜面を降りますね」
「オレはぁ一気に突っ込むぜ!」
そりゃお前は先頭切って行かないと。
「よし、じゃあ皆、ボクの合図で一斉に攻撃開始、でいいね?」
皆黙って頷きそれぞれの武器を構える。オレも左腕に盾をはめて強く握る。さすがに緊張するな。もしかしたら死ぬかも知れないなんて緊張感、今まで味わった事すらない。まぁ1回死んでるとは言え、死んだ実感無いからなあ。数日前まで、ベッドの上にいる自分がまさかこんな所でこんな事をしているなんて想像すら出来なかった。何とも言えない気分だったけど、今はそんな事考えてる場合じゃない。
トーラさんが右手を上げる。それに合わせて1番前に並んでいた人が弓を引く。
トーラさんが静かに、素早く右手を降ろすのと同時に何本もの矢が放たれた。放たれた矢は風を切る微かな音だけを残しオオコドクグモに向かって飛んで行く。数秒後、放たれた矢の約半数近くが手前に居たオオコドクグモに命中し突き刺さる。しかし傷が浅いのかコドクグモの不快な体液は吹き出して来ない。何が起こったかも分からないオオコドクグモは激しく走り回り、それを見た他のオオコドクグモも異変に気が付き身をかがめた。
「行くよ!!!」
「オオオーーー!!!!!」
トーラさんの掛け声に合わせ全員が雄叫びを上げ斜面を駆け降りた。
「おらぁあ!!!」
やはりと言うか予想通りと言うか、先陣切ってオオコドクグモに斬りかかったのはゼニだった。まだ状況を把握出来ていないオオコドクグモは体制も整っている訳もなく、ゼニの大振りな初撃はいとも簡単にオオコドクグモの頭を叩き割った。それと同時にゼニの持つロングソードがけたたましい音とともに折れた。
「こいつを頼むぜ!トウゴ!」
ゼニがこちらを振り返ることも無くひょいっと折れたロングソードの柄を後ろに放り投げる。オレが拾うのかよ。
見るとゼニは最初に矢が刺さった個体とは別の個体を撃破した様だ。他の人に少しでも手負いの個体と戦わせようって事なんだろう。割とちゃんと考えてんだな。
オレが折れたロングソードを拾って修復している間に少し遅れて坂を下ってきた村人たちが戦闘を開始していた。ゼニが数匹のオオコドクグモ相手に派手に大立ち回りをしているおかげで手前にいる個体を大勢の村人で各個撃破する形になっている。
「こりゃあオレはゼニのサポートに行った方がいいよな」
オレは村人たちの横をすり抜ける様に走りゼニの元へたどり着いた。
「おぉ!こっちに来たのか!怪我すんなよ!」
「怪我しない様にカバーしてくれよ!」
「そりゃー自己責任だな!」
オレが手渡ししたロングソードを腰の鞘に収めながら豪快に笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます