武器を手に取る
「大丈夫ですか?怪我は?あればすぐに治しますよ」
オレは腰が抜けているお母さんに声を掛ける。
「え……あ、ああ、だ、大丈夫よ。子供たちも怪我は無いみたい。本当に助かったわ」
まだ震える声で無事を伝えてくれた。2人の子供たちも泣きながらお母さんに抱きついている。
「えと、広場の方にみなさん居るのでそちらに行かれるとここよりは安全だと思います。オレたちはこの先まで行ってみます」
「ありがとう、気をつけてね」
お母さんはよろよろと立ち上がり、子供たちの手を取り広場に向かって駆けて行った。
「よっしゃ、次行くか次!」
「そだな、急ぐか」
ゼニはまだまだやる気だ。コドクグモもまだまだこんなもんじゃない無いんだろ。オレは落ちていた盾を拾い右手にはめる。
「あっちから叫び声が聞こえるぜ!急がねぇと!」
ゼニが指さす方から大人の叫び声が聞こえる。あまり余裕があるような声には聞こえない。オレは頷くとゼニと一緒に声のする方へ駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれよぉーゼニさん……」
「急げってほら!あそこだぞ!」
いやこいつの体力どうなってんだよ……。こっちは息切れがとんでもない事になってんだからさ……。てかオレが体力無さすぎるのか?
先を走るゼニに何とかして着いて走ると叫び声はすぐに大きくなった。それと同時にさらにまだ向こうからも声や建物が壊れる音が聞こえる。つまりこちら側からコドクグモが襲ってきているのか。てことは1番最初に襲われた人はこの先に居るって事か。急いで助けに行かないと。
そうこうしている内にコドクグモと戦う人がいる所まで到着した。ここには3匹。村の人は4人だ。しかし数が多くても劣勢。そもそもの力の差もあるが何より村の人が手にしているのは鍬やナタなど本来は武器としては使われない物ばかりだ。
「ハァハァ……くそっ……!いけっ!」
オレは乱れる息を何とか整えながら左手に持ったスクロールを使いファイアーボールを放った。放たれたファイアーボールは横に並んでいたコドクグモの真ん中の奴に命中。その音と火の粉で左右のコドクグモの動きも止まった。
「よっし……!」
オレは左に、ゼニは右のコドクグモに向かって走る。左のコドクグモはまだ体を強ばらせたまま止まっている。その隙を逃すこと無くオレは右手にはめた盾で思いっきり殴り掛かる。やや右上から斜めに振り下ろす様にコドクグモの頭を殴ると少しだけ体が沈み込んだがすぐにバックステップで後ろに下がり体制を整えられてしまった。
「やっぱパワー不足かなぁ!」
オレは素早く左手に持っていたスクロールをコドクグモに向けファイアーボールを放つ。さすがにこの至近距離では避ける事も出来ずコドクグモの顔ど真ん中に命中した。
チラッとゼニの方を見ると2匹同時に相手をしていた。これはラッキー、とりあえず2匹とも相手しててくれ。
『修復』
スクロールを直しオレのお相手に向き直る。さすがに顔面にファイアーボールは堪えたみたいだな。やっぱり今のオレの最大火力はファイアーボールか。ならどうやって1番効く所に当てるかだな。
「よっしゃ!喰らえ!」
オレは盾を腕から外しながら時計回りに1回転。その回転の力をそのまま盾に乗せてフリスビーの様に投げ飛ばす。見事コドクグモの焦げた顔面に盾がヒットし体液を飛び散らしながら仰け反る。こりゃあファイアーボール並のダメージが入ってるんじゃないか?そしてそのまま距離を詰める。
近づいて改めて見るととんでもなくおっかねぇな。今までこんな怪物見たこともない。人間大のクモなんてさ。でも今は怯んでいる場合じゃない。まだクラクラしているコドクグモに左肩で渾身のショルダータックルをぶちかます。すると仰け反るように上体が浮いた。その隙を逃さず右手に握っていたスクロールを前へ突き出す。
「喰らえ!!!」
仰け反った体の頭の下辺り、つまり胴体ど真ん中目掛けてファイアーボールを放つ。この至近距離で炸裂したから威力は逃れることなく全てコドクグモの胴体に衝突した。
「うわっちちち!!!」
弾けた火の粉がめっちゃ飛んできた。
「ヒール!ヒール!」
オレはリュックからヒールのスクロールを取り出しすかさず火傷の治療をする。火傷のヒリヒリが落ち着いてからコドクグモを見るとびっくりがえって足を縮こませていた。これって死んでるんだよな?やっぱ当たりどころがいいと効果バッチリだな。
そしてスクロール2つを修復しながらゼニの様子を伺う。なんかあいつすげぇなぁ。見た時にはまさに1匹目にトドメを刺しているところだった。案の定ロングソードの方がその瞬間に折れた。
すかさずロングソードを放り投げ背中に背負った大剣に手を伸ばす。その一瞬にもう1匹のコドクグモが背後から襲いかかる。オレはそのコドクグモに背後からファイアーボールを放った。
「おわっ!と!」
背後でファイアーボールが炸裂した音で驚いたのかゼニが大きな声を出す。しかし振り返るとすぐに状況を理解し大剣を大きくなぎ払いコドクグモの首を刎ねた。
「お?トウゴの方も片付いたのか?なかなかやるねぇ」
「ありがとうございます。お褒めに頂き感激でございます」
「なんだそりゃ、ほれ、これ頼むぜ」
ゼニは地面に落ちていた折れたロングソードの柄を拾って差し出してきた。オレは柄を手に取り修復。
「あいよ」
元に戻ったロングソードをゼニに返す。
「ありがとよ。さて、先を急ぐか」
「あぁー、そうだな。急ごう」
「じゃあおっちゃん達、オレらは向こうの応援に行ってくるからよぉ。おっちゃん達は広場の方に行くといいぜ。みんなそっちに避難してるからな」
「わ、わかった!兄ちゃん達も気をつけろよ!」
オレとゼニは右手を上げて応え走り出した。
走り出してすぐに2匹のコドクグモに遭遇したがゼニがあっという間に1匹の首を刎ね、もう1匹はオレが盾で殴って怯んだ隙にゼニがロングソードで背中から串刺しにした。
「調子出てきたなあ!おい!」
意気揚々と更に先へと駆け出す。少し進むと数件の家が並ぶ場所に出た。そこには村人が6人、お互いに背中を合わせて密集している。その周りを見るとなるほど、家々の屋根や陰からたくさんのコドクグモが様子を伺っている。コドクグモ達はいつでも襲いかかる準備が出来ている様だが、村人の方は手に持っているのはその辺に落ちていた様な木の棒でしか無い。これでは勝ち目は完全に無い。
「ありゃあー相当やべえな」
走りながらゼニが言う。
「あれ、何匹いるんだ?数もそうだけどあんな木の棒なんかじゃ歯が立たないだろ。オレらだって武器を持ってるったってあの数じゃどうにか出来るのか?」
「んな事言ったって行かねぇ訳にはいかねぇだろ」
そりゃまぁそうだ。このまま見捨てるなんて選択肢は無い。にしたって勝算は低いな。
「どぉうりゃああああ!!!」
体力バカのゼニが大声張り上げて1番手前にいたコドクグモに飛び蹴りを食らわす。その大声の効果はバツグンでそこに居る全員の注目を集めた。
「かかってこいやぁ!この雑魚虫どもがぁ!」
いやいや挑発すんなよ。一緒に居るオレは一度に何匹も相手に出来ないからな?てかむしろ不意打ち食らわした方が確実に数減らせただろ。
「おおおおぉぉりゃあああああ!!!」
なんか知らんけど一気に駆け出して建物の影に隠れていたコドクグモに切りかかる。しかしいちいち叫ぶ奴だな。
オレはゼニより少し離れてスクロールを両手に構えた。左手のスクロールを建物の屋根の上に居たコドクグモに放つ。横っ腹にヒットしたコドクグモはそのまま建物から落下してひっくり返った。素早くスクロールを修復しつつ、次は右手のスクロールでゼニの背後から飛びかかろうとしているコドクグモを撃つ。着弾した音でゼニが振り返りよろめくコドクグモを確認。
「やるなぁ!おい!」
叫ぶと同時に振り向きざまにロングソードを左上から斜め下に振り下ろしコドクグモの頭を2つに割った。
「どういたしまして」
右手のスクロールを修復しながら状況を確認。ここから確認出来るだけで残りはざっと10匹。まともな武器を持っているのはオレとゼニの2人。どうするか?ゼニはとにかく突っ込んで暴れ回っている。じゃあオレは村人さん達の護衛に回るか。
オレは村人さん達の元へ走った。
「大丈夫ですか!?」
「あ……あぁ、ありがとう、助かったよ。でも……」
「うわぁあ!」
叫ぶ村人さんの後ろからコドクグモが飛びかかって来た。
「この……っ!」
オレは村人さんの前に回り込み飛びかかるコドクグモを盾で受け止めた。そのまま空いている右手をスクロールごとコドクグモの腹に押し当てた。
「また火傷するなっ!」
密着状態のままファイアーボールを放つ。右手の中で赤く光ったスクロールは炎に姿を変え、激しく火の粉を撒き散らしながらコドクグモをぶっ飛ばした。
1メートル程斜め上に吹っ飛んだコドクグモは地面を転がった後ひっくり返り足を縮めて動かなくなった。
「あちち……!」
オレは右手をパタパタして熱を逃がす。
「大丈夫かい!?君!」
「あぁー、今のとこ大丈夫です。ちょっと火傷したけど。これぐらいなら後で治しときます」
「そ、そうか。大丈夫なら良かった。でも……」
そう言って周りを見渡すとジリジリと距離を詰めてくるコドクグモが3匹。村人さんの顔には明らかに諦めの色が見える。
少しづつ距離を詰めてきたコドクグモが飛びかかろうと身を屈める。
「ひっ……!!!」
村人さん達はうずくまり両手で辛うじて身を守る姿勢を取る。
「くそっ!」
オレが前へ出ようとした瞬間、1本の矢が飛んできてコドクグモの腹に突き刺さった。
「お前達はそのまま戦わずにうずくまるつもりか?」
声のする方を見ると弓を構えたモト爺さんが居た。
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