集会
「そろそろ行くかぁ?」
汗をタオルで拭きながらゼニがオレの所へ来る。言われて空を見上げると確かに太陽が真上にまで到着しようとしている。
「正午っつったろ?もうそろだぜ」
「そうだなぁ、そろそろか。ああー、時計があれば便利なのになぁ」
腕時計や懐中時計なんかがあれば正確な時間が分かる。やっぱり無いとかなり不便だ。
「時計?オレ持ってるぜ?」
ゼニがズボンのポケットから懐中時計を取り出してパカッと開いて見せた。
「持ってんのかい!てかこの世界にも懐中時計なんてあんのな!早く出せよ!」
「何怒ってんだよ?栄養足りてねぇんじゃねぇか?」
この世界でもイライラはカルシウム不足って認識はあるのね!
「ほれ、早く行くぞ。後30分で12時だ。遅れちまうよ」
「よし、じゃあ行くか」
気分を入れ替えよう。なんかゼニに知識の面で負けた気がするとめちゃくちゃ腹立つな。草木を眺めて気分を落ち着ける事にしよう。
ゼニは籠を、オレはリュックを背負って山道を降り始めた。さすがに登りよりは楽だな。まぁそれでもしんどいけど。広場に着いたら足にヒールをかけとこ。
帰りは行きよりも快調に進み20分程で村まで戻ってきた。その足で広場に向かうとかなりの人数が広場に集まっていた。さすがに全員と言う訳では無いだろうけど、子供と年寄り以外はほとんどの人がいるんじゃないかな?でもこの広場で収まるぐらいだからやっぱり人口の少ない村なんだろう。
「もうそろそろ時間だ。話を始めようじゃないか」
大きな声で広場の中心にいたトーラさんのお父さん、つまり村長が始まりを告げた。
「今日集まってもらった理由はもう分かっていると思う。コドクグモについてだ。決断の時が来たのだと思っている。もちろんこのままで良いはずが無い。だとすればどうするべきか?おそらくそれはふたつにひとつだ。コドクグモの巣に向かい奴らを退治するか、それともこの村を捨てて新しい場所で暮らすか。どちらかひとつだ。この村の人間はそう多くない。コドクグモには少数では勝てないだろうし、新しい土地へ行くにしても個人では金も無く荷物を運ぶ事すら出来ない。どちらにせよ、皆で力を合わせてやろうじゃないか」
広場に集まった人は皆大きく頷いている。これがこの村の結束であり、平和な証拠なんだろう。
「でもよ村長、そもそもコドクグモなんて退治出来んのかい?」
村人の中から男性が聞く。確かにそうだ。確実に勝てるなら誰だってコドクグモと戦うことを選ぶだろう。
「出来る、と思っている」
「ずいぶん曖昧だなぁ」
「言われる通りだと思う。しかしだ、今までと違う事がひとつある。昨日と一昨日、トウゴと言う少年がコドクグモの毒に苦しむ人の毒を消し去った、それは知っているな?」
あ、オレの話か。
「それで変わった事がふたつ。ひとつは戦える者が増えた事。元気になった者はまた剣を取ることが出来るようになった。そしてふたつめ、またコドクグモの毒に犯されたとしても治療する事が出来るという事だ。それだけでも今までよりは格段に勝てる要素は増えただろう」
「でもよ、元気になった奴が増えたんならそれは引越しする人手が増えたって事でもあるだろ?無理に命をかけてまでコドクグモを退治しに行くことは無いんじゃ無いのか?」
「確かにそうだ。でも良く考えて欲しい。新しい土地で我々が今と同じ様な暮らしが出来るのかどうか。今王都では誤ちの森のエンシェントエルフとのいざこざで情勢が不安定なのだそうだ。その証拠にいくら助けを求めても王都からは一度も助けが来たことは無かっただろう?」
「そう言えばそうだな……じゃあよそ者がいきなり王都に行ったって仕事にありつけるかどうか……」
「でもよ、コドクグモと戦うなら命かけなきゃならないんだぞ?例えうまく行かなかったとしても王都に行ったって死ぬわけじゃない」
「そうだな……何もこの村じゃないと生きていけないって訳でも……」
なんだかかなり揉めてるな。でも言いたいことは分かる。コドクグモと戦えば危険な事はもう十分すぎる程知っている。でも王都に行って生きていくって言うのはうまく想像出来ないんだろうな。でも……オレは良く分からないけど王都って言うぐらいだからかなり都会なんだろう。だとしたら都会で仕事も住む所も無い状態で上手く行くとは思えないな。
「でも……この村を離れるってのもなぁ……。コドクグモに襲われて死んだ家族の墓だってここにある。仇を取ってやりたい気持ちもあるよな」
「そんな事言ったって、死んで行ったやつらの二の舞って事もあるだろ?」
「そうだな……私たちだって……」
やはり気弱になってるな。でも無理もないか。それからしばらく小声で近くの人と話す程度で話し合い自体は行き詰まっている。
その時だった。
「父ちゃん!父ちゃん!コドクグモが!」
広場の向こうから男の子が叫びながら駆け寄ってきた。
「お前……!どうした!?家に居たんじゃないのか!?」
駆けて来た男の子はそのままお父さんに飛びついた。
「庭で……遊んでたら……村の外から……コドクグモが何匹も……母ちゃんがみんな呼んで来いって……母ちゃんが……」
そう言うと男の子は大声で泣き出してしまった。
「コドクグモ……?まさかまた……?」
不安な声が広がる。
「か、母ちゃんを助けに行かないと……!お前はここにいろ!」
男の子を残しお父さんは駆け出していた。するとその向かう先から3匹のコドクグモがこちらに向かって来ていた。
「コ、コドクグモ……!?」
「コドクグモだ!なんでこんな時に!」
「誰か……!武器は!持ってないか!?」
村長の声で皆周囲の人を見回した。しかし誰も武器など持っていない。話し合いに集まったんだ、当たり前と言えば当たり前だ。それでも数人は小さなナイフの様な物を腰に下げていて、それを抜いてみたものの、顔には戸惑いしか見えない。
「おい」
「あぁ、まともに戦えそうな物持ってんのはオレらぐらいだろ。お前さ、籠の中の武器お気に入りのふたつだけ持って残りはここの人に置いてけよ。どうせお前、すぐ壊しちゃうからたくさん武器持ってんだろ?」
「お、良く分かったな。そうなんだよー、力いっぱいぶった切ったらだいたいポキッと行っちまうんだよなぁあー。でもよ、そしたらオレの武器無くなっちまうぞ?」
「そんなもんオレに任しとけよ。ほれ、とにかく急がないとならないんだからお前は深く考えるな」
なんか釈然としないまま、んー、とかうなりながら籠を降ろして他の人に武器渡してるな。で、残したのは幅広の大剣とずいぶんと長いロングソードの2本だった。
「決まったか?用意出来たらもう行くぞ」
「よっしゃ!さすがに2本になったら体軽いな!いつもより速く走れるぜ!」
「ちょ!待てっておい!あぁー!トーラさん、とりあえずオレらは行きますね!後でまた!」
オレはトーラさんの返事も待たずにゼニの後を追った。
「いたぞ!あそこの家の前!2匹!子供とお母さんがやばそうだぞ!」
駆けながらゼニが指さす先に2匹のコドクグモにジリジリと距離を詰められる2人の子供とお母さんが居た。
「ちょっと横避けろ!危ねぇぞ!」
立ち止まりゼニに向かって叫んだ後、左手に持っていた盾を右手で掴み体を右回りに一回転。その勢いをそのまま盾に乗せ思いっきり水平に投げ飛ばした。放たれた盾は回転しながらフリスビーの様にコドクグモ目掛けて飛んでいく。綺麗に真っ直ぐな軌道を描き不意をつかれたコドクグモの胴体にヒットする。たまらずコドクグモはひっくり返り、それを見て驚いたもう1匹のコドクグモが盾が飛んできた方を確かめ、そしてオレたち2人を敵と認識する。もちろん優先されたのは敵であるオレたち。怯える親子からオレたちにターゲットを変えたコドクグモがこちらに向かって突進してくる。
「こりゃあー都合いいな!やりやすいだろ!」
叫ぶとゼニは突進してくるコドクグモに向かって駆け出した。コドクグモもまさか向かってくるとは思っていなかったのか無防備に突っ込んできた。ゼニはコドクグモと衝突する少し手前で右足を踏ん張り半身になって急停止し背負っていた長い方のロングソードを抜刀する。コドクグモの方は止まる気も無くさらにスピードを上げゼニに向かい突進する。ゼニは抜刀したロングソードで地面を抉りすくい上げる様に切り上げ振り抜く。全速力で突進して来たコドクグモは急停止する事も出来ずロングソードの間合いに入り込み、顎の下から強烈な一撃を受けロングソードが体半分を切り裂き背中へ抜けた。それと同時にロングソードはちょうど真ん中辺りに亀裂が入り甲高い音と共にふたつに折れた。
「ちっ!ほらやっぱり!」
「なるほどなぁー。ほれ、その折れた剣貸せ。今はもう一本の方使っとけよ」
ゼニはひょいっと折れたロングソードをオレに投げてもう一本の大剣を抜刀し、残り1匹のコドクグモに向かって行った。オレは見事キャッチしたロングソードを握る。
『修復』
スキルを発動すると手元のロングソードの柄目掛けて折れた破片が逆再生の様に飛んで来て見る見るうちに元の姿に戻った。
そうしてる間にゼニはもう1匹のコドクグモの頭を大剣で上から突き刺してとどめを刺していた。
「やーるねぇーゼニさん」
オレは逆手に持ったロングソードの柄をゼニに差し出す。
「よゆーだぜ、よゆー。んあ?あぁ、なるほどなぁ、だから武器は2本でいいって言ったのか」
「そそそ、壊れたら直しゃいい」
「なるほどねぇ、便利だなお前」
「便利なのはオレのスキルであってオレじゃない」
失礼な言い方するな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます