ひと段落して

「大丈夫だったかい!?トウゴくん!」


 駆け寄ってきたトーラさんが心配そうに聞く。


「えぇ、幸い何ともありません。クッタさんも大丈夫です。でも……クッタさんの売り物の盾に傷がついてしまいましたね……すいません」


「なぁに!トウゴくんは命の恩人なんだ!そんな安物の盾ひとつで命が助かったんなら安いもんだよ!どうせだからその盾はトウゴくんにプレゼントするとしよう!」


「え?いいんですか?」


 傷物にしちゃった上にプレゼントまでくれるなんて、クッタさんどこまでいい人なんだ。


「それとそこの君!君にも助けられたね!恩に着るよ!ええっと……」


「ああ、オレはゼニ、ゼニ・サッコーカって言うんだ。トウゴにクッタさん、それとあんたは?」


「ボクはトーラだ」


「そうか!トーラさんか!よろしく!」


 なんかオレだけ呼び捨てだった様な?


「その背中の籠と武器……もしかして王都でちょっとした噂になっている『武器狩り』って君の事かい?」


「あぁー、なんかそんな事酒場でも言われたなぁ。ま、王都の辺りで何回か襲ってきた山賊の武器はいただいといたからな。噂ってなぁすぐ広まるもんだなぁ」


 武器狩り?なんか物騒だなあ。


「とにかく何とか助かったみたいだな。他の人は大丈夫なんだろうか?」


 すると向こうから男性がひとり駆け寄って来るのが見えた。


「おぉーい!トーラ!クッタさん!大丈夫だったか!?」


「あぁメマさん、ボクたちは何ともありませんよ。他の人たちは?」


 メマさんと呼ばれたおじさんはオレたちの元に着くと両膝に手を置きハァハァ方で息をする。


「そうか……それは良かった。あっちのコドクグモも全部片付いた様なんだ。今回はそんなに多くはいなかったみたいで助かったよ。それでもまた怪我人と毒にかかってしまった人が出て……」


 オレはトーラさんを見て大きくうなずく。


「オレ、ヒールが使えるんです。それとキュアも。毒も早くにキュアをかければすぐ毒が消えるんじゃないですか?善は急げですよ」


「え……?君魔法が使えるのかい!?こんな奇跡みたいな偶然……」


「とにかく急ぎましょう。早いに越したことはない」


「じゃあメマさん、ボクとトウゴくんを怪我人の所に案内してください」


「じゃあ私は店の物を片付けて飯屋で何か腹ごしらえでもしているとするよ。ゼニくんも一緒にどうだい?命を救ってくれたお礼としちゃ安いかも知れんがご飯ぐらい奢るよ?」


「まじかぁ!そりゃあお言葉に甘えます!やったぁ!」


 チョロい奴だなあいつ。オレは再度トーラさんに目で合図してメマさんに向き直る。


「行きましょうメマさん」


「そ、そうだな!急ごう!」


 駆け出すメマさんの後についてオレたちも走り出した。




「とりあえずこれで大きな怪我をした人と、急ぎで解毒が必要な人は全部ですよね?」


「あぁ、たぶんこれで今すぐ治療が必要な人は全部だよ。本当にお疲れ様、トウゴくん。怪我人どころか壊れた家や道路なんかまで直してもらっちゃって……。君にはなんてお礼をしていいのやら……」


「いやぁ、全然いいですよ!そんな大した事じゃないですから」


 怪我人にヒールを、毒に犯された人にはキュアをかけまくって、ついでに壊された家や道路なんかも修復した。実はこのスキル、かなり有用なのでは?ただ家々を修復していて気がついた事がある。それはおそらく修復出来る条件には時間経過があると言うこと。何回か修復をしても全く反応が無かった物があって、それを見ていたトーラさんがそこは何ヶ月も前に壊れた建物だと教えてくれた。修復出来なくなる時間経過がいったいどれぐらいなのかは分からないけど、これは追々検証が必要かも。

 とにかくそんなこんなしているうちに日もどっぷりと落ち辺りは暗くなっていた。


「今日はこの辺にしようトウゴくん。さすがに疲れただろ?もちろん今日はボクの家に泊まって行ってくれ。お母さんもきっと君の分もご飯を用意しているはずだからさ」


「あー、そうですね」


 何となくあの元気いっぱいなお母さんが晩ご飯を作っている様子が目に浮かんだ。


「じゃあ今日はお言葉に甘えます。それに明日はまだ長い期間毒に犯されたままの人の治療もしなきゃならないですからね」


「本当に……ありがとう」


「いやいや!オレは大した事してませんって!今晩泊めてもらえるんだからそれぐらいなんでもないですよ!」


「そうは言うけど……」


「ささ!トーラさん行きましょう!早くしないと真っ暗になっちゃいますよ!」


 オレはもじもじするトーラさんの背中を押して強引に家路に着いた。


 途中、飲食店らしき前を通ると中から大声で声をかけられた。


「おおー!トウゴじゃん!どした!?怪我人の方は終わったんか!?」


 店から飛び出して来たのはゼニと名乗ったあいつだ。

 うわっ酒くっせぇ。さっきから今まで飲んでたのかよこいつ。


「ご苦労ご苦労!やるねぇお前!」


 いてて!バシバシすんな!


「痛てぇよ酔っ払い!てかお前酒が飲める歳なのかよ!」


「ああん?酒を飲むのに歳も牛もねぇだろうよ?何言ってんだお前?おもしれぇな!」


 ゼニが豪快に笑う。この世界ではそうなんか?じゃ今度チャレンジしてみよう。


「おおーい!そこの飲んだくれぇ!なぁに絡んでんだぁ?」


 後ろから赤ら顔のクッタさんも出てきた。


「ああ、これはトーラくんとトウゴくん。ご苦労だったね。無事終わったのかい?」


「えぇ、トウゴくんのお陰でみんなすっかり元気ですよ。ついでに壊れた家なんかも直してもらっちゃって。トウゴくんは命の恩人ってだけでは足りませんよ」


「あらぁー!トウゴくんはえらい!えらいぞぉ!」


 頭をわしわしするな!なんだこいつ!


「ああそうだ、良かったらクッタさんとゼニくんも一緒に家に来ないかい?トウゴくんに晩ご飯をご馳走するのもあるけど、今日の被害と今後について色々あると思うから、2人の話も聞けるとありがたい。特にゼニくんはここの人間じゃないだろう?この村に着くまでの様子なんかも教えてもらえると助かると思うからさ」


「お安い御用さぁ!ついて行きますぜぇ!へへ!」


「こいつめんどくせぇ。行きましょうクッタさん。黙ってたって着いてきますよこいつ。ささ、トーラさん行きましょ行きましょ」


「なぁんだよぅ!トウゴぉー!つれねぇなあー!照れんなよー!」


「照れてねぇ!うるせぇ!行くぞほら!」


 着いてきてるかどうか振り返りもしなかったけど、とにかく歩き出した。トーラさんもクッタさんも苦笑いだ。


「待てよぅ~歩くの早いよぅ~真っ直ぐ歩けないよぅ~」


 無視しよう。



「さぁさ!まだまだたくさんあるわよぉ~!ジャンジャン食べてねー!」


「あざす!お母さん!遠慮しないでいただきます!」


 なんでお前が1番乗り気で食ってんだよゼニ。飲んだり食ったり忙しいやつだ。


「あらぁ?トウゴくんは結構少食なのね?もうお腹いっぱい?」


「いやいやいや、あっちが大食いなだけなんじゃ……?とりあえずお腹はいっぱいですよ」


 苦笑いしか出来ん。


「まぁまぁ、食べ盛りの上に昼間あんな戦いをした後だ、お腹も空くだろう。幸い今日はトウゴくんからもらったホーンボアの肉もあるしな。たくさん食べなさい。ところでだ、ゼニくん、君は旅の人なんだね?という事は王都から来たのかい?あ、食べながらでいいよ」


「ほぅっすね、ほうとの方から来ました」


「飲み込んでからしゃべれ。お行儀悪いぞ」


 オレはお行儀悪いのは良くないと思う。ゼニはもぐもぐごくんしてから続ける。


「そりゃあこの村に来るには王都から来る以外は険しい山道ばかりですからね。特別この村に用があったって訳じゃ無いんだけど、この辺りにはホーンボアやらニードルラットなんて言う武器の素材にいい魔獣もいるって聞いたもんで、そう遠くもないからちょっと行ってみようと思ったんスよ。んで村に着くやいなやコドクグモとか言う気持ち悪い魔獣の群れが村を襲っているところに出くわしたって訳。あ、このステーキおかわりあります?」


 いやお母さん、そこはニコニコしなくていいから。話の途中だぞゼニ。


「群れと言っても今回は7匹。君たちのお陰もあってほぼ被害は出ていないけれどこのままと言う訳にはいかんな……」


「お父さん、やっぱりあいつらの巣のある場所を調べるべきだよ。これ以上王都に期待したって何も変わらないよ」


 トーラさんは強い口調だ。お父さん、つまり村長は腕組みをして考え込む。


「その事についてですが、王都からの討伐隊はしばらく期待しない方がいいかも知れませんよ」


「それはどう言う事かね?クッタさん?」


「私は普段は王都を中心に商売をしています。ここの所王都では『誤ちの森』のエンシェントエルフとの揉め事が大きくなって来ているのですよ。とても近隣の問題に兵を割く程の余裕は無いかと」


「そうなんですか……」


「お父さん、このままでは被害は広がるばかりだよ。それに幸運な事にトウゴくんのお陰で毒に犯されて動けなかった人も治す事が出来る。そうなれば戦える人だって増えるんだよ。このままではいずれこの村を捨てなければならなくなってしまうよ」


「そうだな……、まずは明日にでもトウゴくんに治療をお願いしよう。まだこの村に着いて間もないのに巻き込んでしまって申し訳ない。その後元気になった人たちを交えてどうするか決めんといかんな」


「もしやるってんならオレも参加するぜ。もちろんオレが倒した魔獣の素材はもらって行くけどな!」


「ゼニくん、いいのかい?君はこの村とは関係の無い人なのに……?」


「いいーんだよぉ!オレもトウゴも働いた分魔獣の素材やら何やらで返してもらえればな!」


「まぁオレもそれでいいですよ。キュアの魔法をかけて回るのなんて朝飯前ですし。気にしないでください」


「そうか……ではお言葉に甘えるべきだな。後は村の人たちを説得するしか無いようだな。とは言え今日はお疲れ様だろう。ご飯を食べたらゆっくり休んでくれ。トウゴくんとゼニくんはうちに泊まるといい。2人分の寝るところぐらいなら何とでもなるからな」


 オレは大きく頷き、ゼニは白い歯を見せながら親指を立てた。この世界でも親指立てるポーズってあるんだな?


 食事も終わり明日からやるべき事も何となくだけど決まったところで今日はお開きとなった。時間にしたらまだ20時、早いと言えば早い。ていうかこの世界にも同じように時計があってびっくりした。まぁ当然と言えば当然なのかな。あまり変な事をきくとまためんどくさい事になりそうなので、遠回しにさらっと聞いてみたところ、この世界も1日は24時間、1週間は7日、1ヶ月は31日、1年は12ヶ月なんだそうだ。驚きだ。でもさらに驚いたのは1年は372日なんだそうだ。つまり全ての月が31日あるらしい。なるほどねぇ~。で、20時を過ぎて各々寝室へ向かい、オレとゼニはそれぞれの寝室へ案内された。オレの案内された部屋は割と小さく、普段はほぼ使われてないようでいくつかの木箱が積んであった。トーラさんはこんな部屋しか無くて申し訳ないって言ってたけどオレは全然気にならない。オレがお礼を言うとトーラさんは気さくに笑って部屋を出た。

 そしてオレはそのままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。


「疲れたなぁ……色々あり過ぎた……。今日は間違いなく人生で1番長い日だったな。あ、オレ今日生まれ変わって新しい人生1日目だから当たり前か。じゃ暫定人生で1番長い日だな」


 なんて独り言を言ったところまでは覚えている。でもその後は全く記憶が無い。オレは気絶したように眠りに落ちていたみたいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る