ランチの後に
めちゃくちゃ元気になったトーラさんのお母さんは小一時間ほど料理をしていた。元気になったのが余程の嬉しかったのかな?リビングの大きめなテーブルに次々と運ばれてくる料理はどれもボリュームがすごくて、そして何よりめちゃくちゃうまそうだ。思えばこんなに大勢でわいわい食事する事なんでいつぶりだろう?そもそもこんなに食べ切れないほどたくさんの料理を目の前にした事自体久しぶりすぎていつぶりだったか思い出せない。
料理が全て揃うまでの間はトーラさんと、妹のリリとイスに座り雑談していた。この辺りの森や川の事。そこで子供の頃どんな遊びをしたのか。村にあるお店や酒場、これからホーンボアの角や肉を買い取ってもらう行商人の事など、話すことはたくさんあって時間が過ぎるのがあっという間だった。
「さあぁ~!食べましょう!」
エプロンを外しながらお母さんがキッチンから戻って来た。その後ろにはニコニコしたお父さんが。なんだか本当に嬉しそうだ。
「いただきまーす」
トーラさんが真っ先に料理に手をつける。てかこの世界でもいただきますって言うんだな。
「じゃあオレも遠慮なくいただきます!」
負けてられるか!食べるぞー!
この世界の初めての料理はめちゃくちゃうまかった。ホーンボアの肉を単純に焼いて、おそらく塩や胡椒っぽい物で味付けした物や、シチューみたいなトロトロのスープ。後は野菜と肉をちょっと辛めの味付けで炒めた料理。それからサラダに豆の煮物みたいな物。そしてちょっと硬めのパンだった。やっぱりイメージ通りこの世界は米よりもパン派なのかな?
「うまいです!」
「あらぁ~トウゴくん、おばさん嬉しいわぁ。本当にありがとうね」
いやお世辞抜きで本当にうまい。これはうまいぞ。
あまりのうまさとなかなかの空腹もあり、あれだけあったたくさんの料理もみんなで一気に平らげた。
「ご馳走さまです!本当にうまかったぁ~!」
「トウゴさんすごい食べっぷり」
リリさんに笑われた。
「だってお腹空いてたし、こんなに美味しい料理は久しぶりに食べたんだよ!」
「まぁ!」
ウフフフフ、とお母さんは照れたように笑う。
「じゃあトウゴくん、他の人の治療をお願いする前に君の用事を済ませちゃおうか。まずはホーンボアの角と肉を買い取ってもらいに行こう」
「治療は急がなくて大丈夫なんですか?」
「そうだね、急に容態が悪くなる人が居たりしたらお願いするかもだけど、おそらくそんなに悪い人は居ないんじゃないかな?たぶんお母さんが1番容態が悪い方だったからね」
「大丈夫ならオレは売りに行くのが先でもいいですよ」
「よし、じゃあそうしよう。たぶん行商人のクッタさんはいつもの広場にいると思うよ。ここから歩いてすぐだし、さっそく行こうか」
そう言ってトーラさんはキッチンからオレのリュックを持ってくる。
トーラさんとオレは家を出て少し歩いた先にある広場へ向かった。そこは歩いて5分足らずの距離で広場と言うより公園の様な場所だった。でもここの様に森の中にある村ならわざわざ公園を作る必要も無いんだろう。周りは自然だらけだ。だからここは広場であり、使用用途も公園とは違うんだろう。
広場にはいくつかの木製のベンチがあり、広場を囲うように円形の石畳の道があった。そしてその石畳の内側の芝生の上にシートを敷き何やら道具なんかを並べている人がいた。
「やぁクッタさん、良かったまだ村に居たんだね」
「おおートーラ、こんにちは。今回はまだこの村に居る予定だよ。それよりお袋さんの具合はどうだい?」
「それがさ!色々あって完全に毒が消えたんだよ!もうすっかり元気さ!」
「本当なのか!そりゃあーすごい!まるで魔法みたいな話だな!」
クッタさんは少々大袈裟な身振り手振りだか、本当に良かったと思ってくれてる様だ。何となく良い人な印象だな。
「あ、ところでさ、クッタさん。買い取って欲しい物があるんだ」
「買い取って欲しいもの?なんだ、珍しいな」
「まぁ買い取ってもらいたいのはボクじゃなくてこっちのトウゴくんなんだけどね」
トーラさんがオレの背中を軽く押す。
「あ、どうも、トウゴって言います。実はこれを買い取ってもらえたらって思いまして」
オレはリュックを地面に降ろし中からホーンボアの角と肉を取り出す。
「ほほぉー!ホーンボアの角かぁ!しかもこれまた立派な角だなぁ!こっちの肉もずいぶんと立派じゃないか!こんな物どこで手に入れたんだい?
」
「それが恥ずかしい話なんだけど、ボクがホーンボアに襲われているところをトウゴくんが助けてくれたんだ。その時に狩ったホーンボアの角と肉だよ。なかなかの代物だと思うから良い値で買い取ってよ」
「いやぁ~、これは言われなくても良い値で買い取らせてもらうよ。特に角は欲しがる人が多いからなぁ。武器に加工してもいいし、防具の装飾としても人気が高い。しかもこれだけ立派な角だ。こっちとしても願ったり叶ったりだよ」
ホーンボアの素材ってそんなに高価な物なのかな?
「しかしこんな立派な角が生えたホーンボアを良く倒せたね?見たところ君はそんなに強そうには見えないけど.......」
「えっと、たまたま火の玉が出るスクロールを持ってたから.......ですかね」
修復のスキルの事は内緒にしないと。
「スクロール?珍しい物持ってるね。火の玉って事はファイアボールのスクロールだったのかな?」
「あ、これと同じ物ですよ」
オレはリュックから火の玉のスクロールを取り出してクッタさんに渡す。
「へえぇ~ファイアボールのスクロールじゃないか。そこそこ値の張る買い物だったでしょ?この辺では持ってる人も売ってる人も見た事無いなぁ。君は王都の人なのかい?」
「いえいえ、これはたまたま拾った物で、オレの出身は超ど田舎ですよ」
という事になってる。本当は別の世界から来たんだけどね。
「拾ったって.......。あれ?そのリュックもなかなかの代物じゃないか?グィトル工房って」
「これもスクロールと一緒に拾ったんです」
「ありゃあー、そりゃ落とした人は大損だ。そのリュックだって王都で買ったら100万エル以下では買えないよ」
「え!そんなにするのこれ!?」
トーラさんめっちゃ驚いてるな。エル?もしかしてこの世界の通貨の事か?100万エルがどれぐらいの価値か分かんないな。
「じゃあちなみにこっちのスクロールはいくらなんですか?」
「んー、そこそこ高いけど、スクロールってあんまり需要無いからなぁ。そもそもあんまり数が流通してないんだよ。前に王都で売ってる所を見た時は下級魔法のスクロールで30万エルぐらいだったかな?まぁ30万エルも払って使い捨てじゃ買う人は少ないよね」
なるほど.......分かったような分からないような.......。
少し談笑した後、持ち込んだ角と肉の査定に入ってもらった。その間オレとトーラさんはクッタさんの商品を見てみる。トーラさん曰くクッタさんの持ってくる品物はどれも良品で値段も良心的なんだそうだ。こんな辺ぴな村にわざわざ来てくれる上にぼったくらない、だから村の人も安心して買い物が出来るみたいだ。
クッタさんの品揃えは様々だ。食器や包丁なんかの調理器具、ナタみたいな物やノコギリ、それからノートっぽい白紙の本なんかの日用品まである。後は剣や盾なんかの武器までも取り揃えている。これは村の人もクッタさんのお陰で遠くに買い物に行かずに済むわけだ。
「さて、査定も終わったよ。角と肉、合わせて20万エルってとこでどうだろ?」
「ずいぶんおまけしてくれましたね!クッタさん!これはもうこの値段でお願いしようよトウゴくん!」
「トーラさんがそう言うならそれでいいと思いますよ。じゃあその値段で買い取りお願いします」
「よっし、じゃあ商談成立って事で。今お金を渡すからね」
クッタさんは後ろに停めてあった馬車の荷台からお金の入った袋を持ってきた。なんとまぁ不用心な感じだな。
「じゃあはい、1万エル札が20枚だね。ちゃんと数えてみてよ」
手渡されたお札を見て驚いた。こういう世界って金貨とかなんじゃないの?まさかお札が出てくるとは思わなかった。触った感じは日本のお札よりも少し厚くてゴワゴワした感じだけど、すぐに破れたりはしなさそうな、すごくしっかりとした質感だった。お札の両面にはドラゴンの絵と10000の文字が入っている。なんか想像と違ったなぁ。
「確かに20枚ありました。ありがとうございます」
「良かったねトウゴくん!まさか20万エルになるとは思わなかったよ」
「じゃあトーラさんには半分の10万エルお渡ししますね。トーラさんの取り分です」
「いやいやいや!いらないよお金なんて!命を助けてもらった上にお母さんの治療までしてもらったんだから!それに肉と肝臓をもらってるんだから、それで十分だよ」
「もらっときなさいよトウゴくん。その方がお互いスッキリするってもんだよ」
「そんなもんですか.......?じゃあ遠慮なく頂いておきますね」
「それでいい」
クッタさんはニッコリと笑う。
その時後ろから何やら大きな物音が聞こえた。
「なんだ?」
クッタさんがオレらの背後に視線を向ける。そしてオレらも振り返ると、遠くに何やら土煙が見えた。
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