18作品目「合コンスナイパー」
連坂唯音
合コンスナイパー
「たかひろくんってー、どんな女性が好みとかあるー?」
「俺そんな好みとかないよー。でも賢い人が好きかなー」
「えー、あたしって天然なだからダメかー。たかひろくんにフラれちゃったー、アハハ!」
角田あかりの誘い笑いで、周りの人間も笑う。声高らかに笑う彼女をみて、私はほくそ笑む。とうぜん表情にはださないが、心のなかで笑ってやるのだ。『おまえは天然と言いつつも自分のことを賢い女と自負しているのだから、これからその雰囲気イケメン男にさらにアピールするんだろ』という言葉は胸のうちにしまっておく。
私が嫌いな時間がやってきた。合コンの時間だ。
会社員となった私は、少し前まで安定した賃貸暮らしを過ごせていたのに。角田あかりという同僚に合コンへ誘われて参加して以降、なぜか毎回この女に誘われている。私は圧倒的コミュニケーション下手で、恋愛に関心もなく、恋愛に興味がないアピールまで周囲にしているのに、職場の男にモテモテの角田あかりは合コンへ私を誘う。私は断る理由もないし、男ウケのいい彼女がなぜ合コンをつづけるのか気になるので、誘いを拒んだことはない。
しかし合コンという場は、生物としての欲望を直線的にぶつけあう愚かな男女の戦場だ。男と女の戦いではなく、女同士の戦いという意味。男も同様だ。一般的な話かもしれないが、合コンの幹事になった女は自分よりも可愛くない女を呼んで頭数を揃える。私は当然、彼女の引き立て役に強制で決定される。私としては女の闘い、男の闘いに興味はない。しかし、彼女たちの虚栄心から生じる行動は耐え難いものだ。醜い。ストレスが積もるだけの嫌な時間。
例えば今日。今日はすこし高めのフレンチレストランにて、男女四対四で席を囲っての闘いだ。
前菜が運ばれてくるやいなや、角田あかりは誰よりも早くトングを手に取り、皆の皿にサラダをよそった。
会話が進むにつれて、それぞれが品定めをおこないはじめる。全く喋らない私はとうぜん全員の眼中にない。
いや、角田あかりがわたしを横目にみている。わたしだけじゃない、他の女にも鋭い視線を気づかれないように向けている。彼女が狙う獲物をほかの女が狙っていないか警戒しているのだろう。私はサラダを口にいれて、必要以上に噛む。もし食べ終わってしまったら、やることがなくなるから。
「あかりちゃん、ごはんつぶここに」たかひろくんが自分の顎をさした。角田あかりの口もとに米があざとくついている。
「きゃーっ、はずかしい! もう、たかひろくんはやくいってよ~」
私は口にふくんだサラダを吹き出しそうになった。角田あかりのあざとさには慣れているが、そんな古臭い手法を現代においてもやる女がいるとは思わなかった。
「このあと二次会いく人~」宴もたけなわになり、二次会の話になった。どうせカラオケだろう。
「あたし、カラオケがいい~!」隣の女が言った。次に他の奴らが便乗するんでしょ。
「私も~」
「俺も」
「俺も!」
「わたしも~」
「ごめん、私はこれで」
私はできるだけやわらかな物言いで、みんなに手を合わせて悔しそうな顔を見せた。理由をきく人はいなかった。
「わたしもパス~」
「え」
「え」
「え」
え、と私も声にでた。角田あかりが二次会をパスするといったのか。今日の合コンの目玉も角田あかりであるはずなのに。男をお持ち帰りする様子もない。いつもなら二次会へ行っている。角田あかりのこの言葉は全くの予想外だったけど、私はすぐに勘定の計算を頭の中ではじめた。自己紹介タイムがあったときに経理部で仕事してるって言ったんだし、とりあえず私の合コンでの威厳だ。
女1「角田あかりちゃん気を付けてね~。さびしい~」
男1「暗いし、おれがおくっていこうか?」
男2「ほんとに二次会いかないの?」
「けっこうでえす。みんな楽しんでね~」
角田あかりの言葉を背に、私はすでに帰りの駅へむかった。携帯電話をとりだす。待ち受け画面に私の推しがいる。帰ったら推しが出演しているドラマをみるのだ。
「その子って、俳優の津島こうすけくんだよね?」背後から声がした。
「うわ!」
振り向くと、角田あかりがいた。なぜ。
「なぜ」
「なぜ、男アピールを常に欠かさないあたしがあなたに用があるかって?」角田あかりが首をあざとく傾げた。
「何か用?」
「みきちゃん、あなたに伝えたいことがあってね」
角田あかりがこちらの目を真っ直ぐみつめる。彼女にこんなにみつめらたのは入社して以来なかった。
「何」
「好きです」
私は開いた口が塞がらなかった。
「へ?」
「だから好き。付き合って」
「からかっているの?」
「私ね、合コンで狙ってたのって男じゃないよ。あなたよ、みきちゃん。私、あなたとおなじ職場になって、あなたを見て一目惚れしちゃった。お顔が美しいし、かわいいもの」
「………ありがとう」
「でね、合コンになんども誘ってあなたにアピールしたの。私はできる女だってことに。みきちゃんに好きになってもらえるように」
「うん」
「で、どう私の告白は? 受けいられる?」
そのとき、私の顔面は真っ赤になっていたことだろう。あまりにも意外な事実に驚いたし、彼女の今までの行動が愛おしくも感じたのだ。わざわざあんなくどく。
「ねえ、きいているの? 付き合ってくれる?」
「無理」
「なんで!?」
「まあ、私の好みじゃないから」
「そんな」
角田あかりは肩を落とした。
「だからデートしましょ」
角田あかりは顔をあげる。
「性格もお互い知っているわけじゃないんだし、付き合う前にまずはデートしましょ」
角田あかりの目が輝いた。
18作品目「合コンスナイパー」 連坂唯音 @renzaka2023yuine
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