ネームド特化の黒髪軍隊〜王家直属の特殊生物抹殺部隊〜
@maryunosuke
第1話 髪と神
『髪は神に通ずる』
その言葉の通りこの世界では髪の色によって生まれつき特化属性が決まっている。それは神が決めたことだ。
例えば紫髪ならアンデッド特化。ゴーストや死霊などの魔物にとって有利に戦える。生まれた時から霊気に強く、見たことがないアンデッドでも種類から弱点まで細かくわかってしまう。なので、誰に決められることもなく紫髪を持つ者は自然とアンデッドを倒す道を自ずと選ぶ。
この特化属性によって人は魔物と長い間戦えることができた。ドラゴンが王都を襲った時も、万を超えるゴブリンの群れが発生した時も。なので、これが神の導きだと誰も疑うものはいない。
しかし、あるとき1匹の大きな狼が現れた。全身は真っ白い毛に覆われ、纏っている風は小さな汚れさえも通さない。目は血のように赤黒く、目が合うと自然と体が固まってしまう。これは魔法や呪いではなく、ただ本能的に体が恐怖を抱いているのだ。
その白狼は人に見せつけるように幼児を一口で食べてしまう。その姿を見たその子の父親は1人で突っ込んで行く。その髪は茶色く獣特化だ。しかも、知らない人がいないほど有名な冒険者だったその父親が戦う姿を見て誰もが勝利を疑わなかった。
そう神が決めたから。
だが、皆が予想していたこととは正反対な結果に終わる。
一撃だ。その父親は一撃で白狼に殺められてしまった。戦えたと思っていたのはただ遊ばれていただけで、どの物理攻撃もどの魔法攻撃も真っ白な毛を傷つけることはできなかったのだ。そして、父親の死体で遊び終わった白狼の次の獲物は観戦していた冒険者。
しかし、誰も動けない。動かないのではなく動けないのだ。もう恐怖をこれでもかと植え付けられた冒険者の待つ先はただの死のみだった。
それから国の上層部は大騒ぎだった。
あの魔物は何なのか?なぜ特化属性を持っている茶髪の冒険者が倒すことができないのか?何人もの兵を出し、呆気なく負けて帰ってくるので人は皆あることを疑い出す。
それは神だ。
今まで信じていたものは何だったのか?皆神を疑い始める。
神を疑うことなど絶対に行ってはいけない。口には出さないが全員思ってしまう。本当は疑いたくなどないのに。しかし、これは自然なことなのだ。
だが、白狼が現れてから1ヶ月が経った頃。突然希望が現れた。
何十人もの兵士が食べられ、衰退し切った戦場にその軍団は現れたのだ。その軍団は皆見たことのない髪色をしており、揃いの青い上着を羽織っていた。見たことはないが東洋の服だろう。武器も全員一緒で少し反った片刃の剣だ。だが誰が見ても名剣だとわかるほど綺麗な剣だった。
その軍団の中から1人の少年が出てくる。どうやら15歳くらいでまだ若い。その少年は白狼に向かって歩いて行った。戦いを挑む気だ。
こんな少年が勝てるはずがないと思いながらも誰も止めようとしない。なぜなら何故か勝てそうだと見ている皆が思ったからだ。これは冒険者や兵士が誰でも体験したことがある感覚に似ている。自分の得意な属性の魔物と対面した時の感覚だ。それを少年と白狼の間に感じ取ったのだ。
少年だけではない。少年がいた軍団全員から感じる。どうやらあの
戦いはこれまで通り呆気なく終わった。何度も見た光景。しかし、今までと違う事は負けた相手が白狼の方だと言うことだ。
その光景を見た周りの冒険者や兵士は戦場が揺れるほどの歓声を上げる。喰われた者を思い泣く者、誰よりも戦いが終わり声を張り上げる者。その全ての者が自然と神の導きに感謝した。
長かったようで短かった戦いが今終わったのだ。
誰もが一撃も入れることができなかった魔物を一撃で倒すと言うことは、この黒髪が白狼にとっての特化属性持ちで間違いない。
1人の兵士がその軍団の先頭にいた大きな男に震える声で「あんた達の黒髪は何特化なんだ?」と聞いた。
すると、その大きな男は最初何を聞かれているのかわからなかったのか考える。しかし、答えの先を女神のような女性に教えてもらったことを思い出し、必要以上に大きな声で答えを返してくれた。
「ネームド特化だ!!!」
◆◇◆◇
「これが俺たちの先祖の話ですか?なんか嘘くさいな〜」
「嘘くさくなどない。誇らしいではないかハジメよ。私たちの2000年前の先祖のおかげでこうして我が祖国が今まで残ってきたのだ。それにお主のハジメという名や私のシンパチという名はその時のご先祖様からいただいているのだ。お主も隊長となってこの名を名乗っている以上国のため、民のために戦うのだぞ」
「ヘ〜、そうだったんですね。この名前ってそういう意味があったんだ。知らなかった」
この男2人組はお互い10人ほどの部下を引き連れ、草原を歩いていた。全員黒髪でそれぞれ様々な武器を持っている。
先祖の話をしている男2人はどちらも黒髪集団をまとめている軍隊の隊長に任命されており、黒髪の中でもトップクラスの実力を誇っている。
黒髪軍隊の名前は“八咫烏”神へと導く黒鳥を意味する。その中の隊長の1人であるハジメ・サイトウは3番隊隊長で最も若く、19歳で隊長に上り詰めている。だが、若さ故にまだ飛び抜けて強いというわけでわないところが悩みどころだ。しかし、ある特技のおかげでここまで来れた。見た目は同年代の男性と比べても普通と行ったほうが良いだろう。何かしら頑張らないと女にモテないタイプだ。
右肩には父親から貰った真っ赤な矛を担いでいる。別に父親の形見とかではない。
方やもう1人のシンパチ・ナガクラは2番隊隊長で、八咫烏最強の肩書きを持っている。戦闘センスがトップクラスなのに加えて、体格にも恵まれて隊長まで上り詰めた男だ。弱点と言えば部下の扱いが下手くそなことぐらいだろうだろう。それはシンパチが部下に一匹狼だと思われていることが下手くそな理由なのだろうだが、当の本人は気づいていない。
背中には1.5mほどの大剣を背負っている。ハジメでは持つことすらできないだろう。
この2人真逆の見た目をしているが何故か仲が良い。
「てか、先輩は俺とばかり話さずに自分の部下と話してくださいよ。こういうところが部下との信頼につながっていくと思いますよ」
「我輩だって部下と話したいのだ。だが、なぜか近づくと離れて行ってしまう。ハジメはどうしたら良いと思うか?」
「知りませんよ。俺は俺で部下に舐められている気がするんですから。全員年上ですし。そんなことより、今はネームドのことですよ。早く討伐しないと被害が増えます」
ハジメはハジメで勘違いをしており、別に部下に尊敬されていないわけではない。ただ、少し童顔なところと、人懐っこい性格をしているので子供や孫扱いをしてくる部下が多いのだ。それが舐めているのかどうかは実際にはわからないのだが。
そして、ハジメ達の仕事なのだが、八咫烏は王国直属の軍隊で正式名称を特殊生物抹殺部隊といい、その名の通り特殊生物(ネームド)を討伐するために活動をしている。今日も目撃されたネームドを討伐するためにやって来たのだ。
「ネームドを早く倒すことには賛成だ。しかし、被害においてはあまり考えなくても良い。不幸中の幸いなのか、ネームドは人口密集地にはまだやって来ていない。そこで目撃情報があった区域一帯を立ち入り禁止にしている。もし、我輩達以外にこの区域に入った者はただの愚か者だけだ」
「なるほど、それもそうですね。と言うか結構大切な情報じゃないですか。ここに来る前に教えといてくださいよ」
「そんなこと、見ればわかるだろう。お前の持ち味は観察力だと言うのに」
「えっ!これ俺が悪いんですか?まぁ、いつものことか...」
シンパチは自分の失敗をハジメに押し付ける。だが、そう言ったことに慣れているハジメは適当に流す。
人はそれぞれ戦う理由を持っており、その中でもハジメは民の為に戦っている。なので、被害が出ないと安堵した。
しかし、安堵したと思った瞬間後ろから馬車が近づいてくる音がすることに気が付く。まだ距離があるが、急いでいるのか砂埃が立っており、馬の足音がここまで聞こえてくる。あれではネームドだけでなく、魔物にとって格好の的だろう。
しかも、すでに数匹の狼に追いかけられている。魔物ではなく普通の狼にすら逃げていることから、戦闘力は全くないと言って良いだろうとハジメは予想した。
「おい、3番隊は後ろの狼を倒して来い。ただの狼だ黒髪の俺たちでも倒せる。先輩達はあの馬車の人たちを捕まえておいてください」
「良いだろう。隊長の格好が様になっているじゃないか。ここは我輩に任せろ」
「いや、俺もう隊長になって1年近く経つんですけど。まぁ、いいや。行くぞ!!!」
「「「「「おお!!!」」」」」
ハジメの指示に従い続々と狼に突っ込んでいく隊員は、さすが王家直属の軍隊の隊員だと思わせられる華麗な戦い方をする。一人一人が冒険者で言うとB級に到達するようなメンバーなのであっという間に終わった。
誰も怪我なく終わったのは凄いが、ベテランはもう解体作業に入っていたので、その手際の良さにハジメは逆に引いてしまう。この隊員にベテランが多いのは若手の隊長であるハジメの為だと言うことは教えてもらっていない。
そして、討伐した狼を確認していると、どの狼も肉つきが悪く食料に向いていないと言う。別に食料に困っていないのだが、ハジメは万が一の為に取っておいて損はないだろうと思ったのだが、その考えが破棄されてしまった。
もしかしたらネームドが原因しているのかもしれない。
「まぁ、しょうがないよね。解体が終わったらこっちに戻って来てくれ」
ハジメは狼が食べられないことがわかったら、もう1つの問題である方に向かった。そこには自分の大剣を車止めのように地面に刺して馬車を止めている光景があった。
結構凄い大剣だと聞いていたのだが、結構雑に扱うなとハジメは鼻で笑う。
「先輩、こっちは無事に終わりました。そっちはどうなりましたか」
「おお!早いな。だが、すまんな。こっちはめんどくさい事になった。見てくれ馬車の中にいたのは白髪だったぞ」
「ええ!俺会うの初めてですよ。白髪ってあの魔物呼びの」
「ああ、白髪は他の髪持ちと違って特化属性を持っていない。その代わり魔物を呼び寄せてしまう体質を持っている。だから、魔物とかに食べられて滅多に会うことができないな」
「ちょっと、魔物に食べられるとか聞こえてしまいますよ。気をつけてください」
「大丈夫じゃ。わし達は慣れておるのでな。そして貴殿が狼から助けてくれた少年か。助けてくれてありがとうな」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
馬車の中からは70歳くらいの老人とその妻だと思われる老婆、そして2人の孫と思われるハジメと同い年くらいの女性が降りてきた。女性は少し無愛想だが、肌は髪と同じくらい白く、お金があまり無いのか少し小さい服が平均より大きい胸をさらに強調していた。
そんな姿にハジメは年相応にドキドキしてしまうが、今は事情聴取をしなくてはいけないと、心を入れ替える。
「ここら辺は魔物の影響で立ち入り禁止らしいけど、どうしてここにいるのかな?もし、意味もなく入って来たのなら罰を受ける可能性もあるぞ」
八咫烏は警備隊ではないので、犯罪者を牢屋に入れる権限を持ってはいない。だが、ここで適当に見逃すより注意やちょっとだけ脅した方がいいとハジメは考える。
「実はこの子の姉の結婚式がこの道を行った先の街で行われるのじゃ。親とその姉はもうその街におるのじゃから、わしら3人で向かおうと思ってのう。それに、わしがいた村ではここが立ち入り禁止だとは教えて貰えなかったのじゃ」
「まぁ、小さな村全てに兵を送るほど余っているわけじゃないからな。それにしてもよくここまで無事に来られたな。白髪って魔物とかに襲われやすいんでしょ?」
「実は私の村はここから馬車で30分ほどのところにあるんじゃ。それにあの狼には村から追いかけられた。だから、ここまでずっと追いかけられたことになるのう」
「凄い冷静なのだな。でもこれなら話は早い。村ならここより安全だろうから帰ったほうがいいぞご老人」
「なら、お姉様の結婚式にはいけないのですか?」
ここで女性がハジメ、シンパチ、老人の会話に入ってくる。
「我が儘を言うではない。絶対にお主達だけでは死ぬであろう、死ぬよりは結婚式に出席できないほうが良い。だが、選択権はこっちにはない。そちらで決めるが良い」
「それなら街に向かいます。お姉様は今まで私の為に何もかも我慢して働いてきました。私達と同じ白髪であまり村から出られないというのに。その姉のためにも私は結婚式に出席して、これから自分のために生きてほしいと伝えなければならないのです」
「死ぬかもしれないと言うのにか?」
「はい」
女性は頑固たる意志でシンパチに返事を返す。相当姉に思い入れがあるのだろう。その姿を見てシンパチは何も言わなくなった。これ以上言っても無意味だと思ったのかもしれない。
「では、わし達はこれで。たいしたお礼もできないのじゃが、すまないのう」
老人達は馬車に乗って去ろうとする。だが、ハジメは本当にこのままで良いのか考えてしまう。
「なら俺が護衛をするよ。それなら多分無事に街に辿り着ける」
あの女性は自分のためではなく、姉を思っての行動なので我が儘ではないのだ。民を見捨てると言う選択肢はハジメにはない。
ここであの女性ともっと一緒にいたいと言う邪な気持ちは多分ないと言っておこう。
「それでいいとお主は本当に思っておるのか?我輩達には任務があるのだぞ」
「はい、今回のネームドは俺たち黒髪が探しても全く痕跡を見つけることができません。なので、こちらから動き出さない限り無駄に時間と食料を消費していきます。先程の狼を見たところここ周辺での食料調達は難しい。そこで、この人達なのです。私は必ずこの人達がネームドに襲われると思います。白髪の体質を使ってのネームドの誘き寄せる。これが俺たちにとってのメリットです」
「なるほどな、理にかなっている。ご老人達はそれで良いのか?」
「ワシ達からしたら願ってもないことじゃな。よろしく頼むのう」
「じゃあ、そう言うことで」
こうして八咫烏2番隊と3番隊の次の行動方針が決まった。これで確実にネームドを誘き寄せられるかは分からないが、試す価値はある。
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