第2話 礼拝堂での再会


 クロガネ様から助けられた後、私を乗せた馬車は、予定時刻より少し遅れましたが、王宮に着いてしまいました。


 大きな王宮の建物、広い庭園、立派な礼拝堂が見えます。

 そして敷地の周囲には、城壁とお堀があり、敵の侵入を防いでいます。


 私とクロガネ様は、別々の部屋に案内されました。


 私の部屋は、3階で、窓にはカギがかけられており、扉の外には護衛兵が常駐しています。

 美人の侍女と、地味な侍女の2人が、部屋の中で、交代で私を監視するようです。




 窓の外を眺めます。美しい庭園が見えます。

「幽閉状態ですね、馬車から逃げたのだから、仕方ありませんね」


 両手を組んだ祈りのポーズで、クロガネ様がご無事でありますように祈り、そして、再会できた喜びを神に感謝します。


 あの方のぬくもりが、まだ、腕に残っている気がします。



 ◇



 この王国は、とても小さな独立国です。

 しかし、王族は、流行り病で次々に倒れてしまいました。


 今、王族の血筋を持っているのは、亡き国王の甥っ子、現在の王太子だけです。


 その王太子が、戴冠式を目前にして、どうしても聖女と結婚すると言い出しました。


「私は、聖女の血筋を持ち、たった一つの「聖女の石」を受け継いでいる、、、」


 神殿は圧力に屈し、私を政略結婚に差し出しました。




 幽閉されて1時間、考えました。


 王太子が聖女を欲しがる理由、、、私には、心当たりが二つあります。


「ひとつは、国民の誰もが知っている「王子は聖女と結ばれる」という2年前の神託」


 国民から「王太子は国王に相応しくない」という声が多く出ていますが、神託のとおりに進めば、誰も反対は出来ません。


 貴族の強固な反対派は、私の両親を含め、流行り病で倒れています。



「もう一つは、聖女の後継者だけに語り継がれる、、、あの伝承ですね」


「災いが降りかかる時、王子と聖女が結ばれ、隠された王国の力が目覚める」

 王太子が、この伝承を知り、力を目覚めさせるつもりならば、話がつながります。


「王太子に、話があると伝えなさい」

 侍女に指示します。



 ◇



 日が傾いてきました。


「貴女から話があるとは、予想外です」

 王太子とは、話をしたくありませんが、今は仕方ありません。


「貴方の申し入れに従い結婚するのと交換に、私を助けた戦士を無事に帰宅させなさい」


「ん? あの戦士を気に入ったか? いいだろ、条件を受け入れよう」

 余裕があるのか、意外と早く受け入れました。


「今後、侍女は部屋の外で待機させる」


 美人の侍女が、王太子に何やら伝えます。

「あのロケットペンダント、聖女の石がありません、どこかで落としたようです」


「なにっ!」

 王太子の顔が強張り、侍女と部屋を出ていきます。



「まさか、聖女の石が、伝承の「起動のカギ」なの?」

 ロケットペンダントの中には、コインの形をした真っ赤な宝石、聖女の石が隠されていたはずです。



 ◇



 朝になりました。今日も、窓の外は青空です。

 礼拝の時だけは、部屋の外に出て、礼拝堂に行くことが許されています。


 礼拝堂まで付いてきた地味な侍女は、外に待たせます。

 入口を閉め、中を見渡します。演奏ホールを兼ねた広い礼拝堂です。


 入口の上には見事なステンドグラス、奥にはパイプオルガン、女神像、聖書台、そして中央にまっすぐ赤い絨毯が敷かれています。


 聖書台の前で、祈りを捧げます。


「アップル」


「え? その声は」


 女神像の前、聖書台のカゲ、クロガネ様が現れました。


「ご無事でなによりです」

 クロガネ様の胸に飛び込みます。


「2年も待たせて、すまなかった」


「帝国で、シリウスの力によって、俺の封印されていた記憶が解除された」

「新しい俺の足場を固めるため、少し時間がかかってしまった」


「遅くなって、ごめん」


「これは、アップルのだろ? シリウスが拾っていた」

 聖女の石を手渡してくれました。


「はい、これは聖女が代々受け継いできた、宝です」


「知っている」

 クロガネ様が、抱きしめてくれました。

 あたたかな体温が感じられます。




あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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