13話 嘘と真実
まさかまさかの偽りだらけの【五英雄の物語】を読んでから数分後。子供達にもみくちゃにされる時間も過ぎ、俺は休憩タイムに入っていた。隣にはお嬢がおり、なにか難しそうな書類を読んでいる。
「ねぇお嬢〜」
「なに?」
俺がお嬢のことを呼べば、面倒くさそうな表情を浮かべながらも書類から目を離してこちらを向いてくれた。
うんうん。孤児院に来る前に注意したおかげでお嬢にもペット優先の精神が身についてきてるみたいだね。その調子だよお嬢。
お嬢を呼んだ理由は、丁度いいから【五英雄の物語】について聞いてみようと思ったのだ。俺ではわからないこともお嬢なら分かるかもしれないからね。
「さっきのお話ってなんであんなに嘘だらけなの?」
俺の死んだ理由も違ければ元国王の死んだ理由も違う。一体誰が書いたらあんなデタラメな物語になるの?ってレベルだ。
「嘘だらけ?あれは国王様が作成に携わっているから真実のはずだけど?」
「え?勇者くんが見ててあれなの!?」
勇者くんもしかして馬鹿になってるのかな?言われてみれば魔王との戦いの中で頭をぶつけてたみたいだし、そのときに馬鹿に…おいたわしや。
「お嬢って勇者くんに会ったことあるんだっけ?」
「あんたね…しっかり国王様と呼びなさい」
俺の中で勇者くんは勇者くんなんだよ。国王様なんて呼ぶわけないじゃないか!いい加減にしてほしいね。
「そんなことはどうでもいいの。それで?会ったことあるの?」
「あるわよ。と言ってもパーティーの時に挨拶したくらいだけど」
「そっか。勇者くん馬鹿っぽかった?」
多分あのお話でOKサインを出すレベルってことは、外から見てもわかるような馬鹿になってると思うんだよね。お嬢も挨拶したって言うし、わかるかな。
「一応言っておくけど、私はあんたが不敬罪で捕まったとしても一切の擁護をしないわよ。国王様は聡明な方に決まっているでしょう?」
えー?馬鹿になってないの?じゃあなんで【五英雄の物語】があんな偽りだらけで外に出てるわけ?
「さっきからどうしたのよ。【五英雄の物語】で気になるところでもあったの?」
色々と質問してたせいかお嬢が俺に胡乱な目を向けてきた。なんでそんな目を向けるのさ!ペットに対して失礼だぞ!
まぁせっかく質問されたし答えようか。気になるところ…気になるところ…全部じゃん!
「気になるところしかないよ!まずシスの登場シーンが遅すぎる点!シスは賢者の幼馴染で勇者くんたちが学園に通ってた頃にも何度も会ってるんだよ?それなのにあの書き方じゃ別になんの関係もない人がいきなり現れて勝手に死んだみたいじゃん!」
「でも、勇者様のピンチに駆けつけるシスはかっこいいわよ」
「それは超嬉しい褒め言葉だけど違うんだよ!そもそもシスはあそこで死んでないからね。それどころかとっとと四天王含めて何百といた魔族を倒して魔王との戦い参加してるからね?聖紋がないから魔王の攻撃を相殺するだけの役割だったけどさ」
「そうなの?確かシスは四天王の一人の『紅蓮のアイウッタ』と相打ちになったって言われてるけど…」
「誰!?そんな弱そうな奴にやられたことになってるの!?戦ってるときはどいつが四天王なのかも分かんなかったから有象無象の一人でしかないよそいつ」
そもそもアイウッタって名前なに!?相打ったからアイウッタってか?やかましいわ!これが勇者くんのギャグセンスなのかガチでこの名前だったのか判断がつかないんだよ!
もしこれが勇者くんのギャグセンスだったら今度俺直々に王都まで行って説教してやるわ!
え?勇者くんは王様だから会えない?そんなの関係ないね。近衛騎士だろうがなんだろうが蹴散らして文句を言ってやる。
「それに先代の国王が病で死んだっていうのも嘘だよ。そいつのせいでシスは死んだと言っても過言じゃないんだよ!なんでか知らないけどそいつ邪神信仰してて不完全ながらも邪神復活させたんだから!!」
本当にあいつは最低な奴だった。
魔王討伐から帰った勇者くん達を城に呼び寄せて、食事に睡眠薬を盛って捕えたあとに邪神召喚の儀式を始めたんだから。俺は面倒だったし弟子の様子も気になってたから行かなかったんだけど、もし俺も一緒に城に行ってたら多分この世界終わってたんじゃない?
「それじゃない?多分」
俺が先代国王の悪行をお嬢に伝えたらお嬢は微妙そうな顔をしながらそう言った。それじゃない?ってどゆこと?
「ルナ。今の話はこれ以降は話さないようにしなさい。国家のあり方すら変わりかねないから」
「ん?まぁ言いふらしたりはしないけどなんで?」
「これはルナの話を事実とした上での推測だと言うことを念頭に置いて聞きなさい」
「ん。分かった〜」
事実とした上でっていうか紛れもない事実なんだけど、ここは特になにも言わずにお嬢の言葉に頷いておこう。
「そうね。まず、ルナは今の王妃様が誰か知ってるかしら?」
王妃?それはあの子でしょ?勇者くん大好きっ娘の王女ちゃん。そういえば結婚できて良かったね。勇者くん朴念仁だから自分からもっとアピールしなさいっていう助言が役にたったのかな?
「今の王妃は王女ちゃんでしょ?当時から勇者くんラブだったし恋が実ってよかったよね」
「国王様と王妃様を変なあだ名で呼ぶのやめてくれないかしら。心臓に悪いわ」
「そんな事言われても私の中での勇者くんは勇者くんだし王女ちゃんは王女ちゃんだから!」
「…まぁいいわ。今の王妃様はルナの言う通り前国王の娘であらせられるマリアンヌ・アルメルダ様ね」
「あ、王女ちゃんそんな名前だったんだね」
「………はぁ」
王女ちゃんとしか呼んでなかったから知らなかったや。お嬢から大きな溜息をもらったけど仕方ないじゃん。あだ名で呼ぶと名前を忘れちゃうあれだよ。実はお嬢の名前すらたまに危ないときあるんだから。
「もうここまでの説明で大体理解できたと思うけどどう?」
俺が王女ちゃんの名前にほえ~と思っていると、お嬢がそんなことを言ってきた。全くお嬢は俺を誰だと思っているのさ。
当然、全然わからないけど?
「その顔は分かってないわね。それじゃあ例えばルナが一般の庶民や貴族だったとして、邪神信仰をしててかつ英雄の一人を殺した王がいたらどう思う?」
どうやらお嬢はもっと詳しく説明してくれるみたいだ。
「最低!王の座を降りて処刑されろって思う」
「結構過激だけど概ねその通りね。じゃあその家族のことはどう思う?」
家族?家族は悪いことをしてないなら特に気にならないけど、王様になるとかだとちょっと…ああ、なるほどそういうことか。
「どうやらわかったみたいね」
「つまりは王女ちゃんを守るためってこと?」
うん。言われてみれば確かに英雄を一人殺した王の娘って危なそうだもんね。俺は王女ちゃんの性格とか知ってるから大丈夫だけど、知らない人は怖いかも。だからあのクズ王は病で死んだことになってるのか。
「それと国民を不安にさせないためとかの意図もあると思うわ」
なるほど。確かにあの当時は魔族達にちょっかい出されてみんな辟易としてたからね。そこに更に国王が人類の敵でした~なんてことになったら絶望しちゃうかも。
「それであんなに嘘だらけだったんだ」
「あくまで推測よ」
「そっかぁ。なら許してあげようかな。もうちょっとかっこよくしてほしかったけどね!!」
やっぱりお嬢は頭がいいな。俺じゃ分からなかった理由もお嬢に聞いたらすぐに解決しちゃったよ。これが本当に正解なのかはわからないけど、勇者くんが意味もなく嘘をつくとも思えないし当たらずとも遠からずくらいの解答なんじゃないかな。
まぁそれでも勇者くんにあったら文句を言うことは確定してるけどね!
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なし
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