12話 【五英雄の物語】

 孤児院にやってきてから一時間と少し。おやつの時間となり、みんなで机を囲んでおやつを食べていたところ、アーシャが【五英雄の物語】という本を持ってきて俺に渡してきた。そして続け様に『これ読み聞かせ用の本ね』などと言ってくる。


「え?私これ読むの?」

「さっき読み聞かせするって言ってたでしょルーちゃん」


 え?なんの話?


「そんなこと言ってないよ!いつの話さ!!」


 俺にそんなことを言った記憶なんて一切ないぞ。伯爵家のペットを騙そうったってそうはいかないんだからね!そもそもなんで俺が自分のことを書かれた本を読み聞かせなきゃならないのさ!恥ずかしいじゃないか!


「言ってたよ。シスターアリスに頼まれて『いいよ』って言ってたでしょ!」


 うん?シスターに言われた?そんな記憶は……あるね。

 え?じゃあもしかしてあれって…


「シスターからの愛の告白じゃなかったの!?」

「誰がどう聞いても読み聞かせをルーちゃんに頼んでただけだよ…」

「なんで〜!!」

 

 じゃああれか!?俺がさっきまで考えてたお嬢たちがいない日に、伯爵家の屋敷を使ってシスターとの結婚式を挙げる計画も全部無駄だったってこと!?


 そんなのってないよ。こんなに俺はシスターを愛しているっていうのに…。


「ルーちゃん。傷心中のところ悪いけど、ちゃんと読み聞かせはやってあげてね。みんな楽しみにしてるから」

「アーシャの鬼!なんで傷心中ってわかってて仕事を押し付けてくるのさ!」

「押し付けてるんじゃなくてルーちゃんが了承しただけだからね?自分で言ったことなんだからしっかりやってよ」

「うう…アーシャの頑固者〜」

 

 くそぅ。勘違いとは言え俺が了承してしまった以上断りにくい。それにもし断ったらシスターからの印象が悪くなっちゃうかもしれない。それは駄目だ。


 でもなにもなしってのもな〜。

 よし、アーシャにご褒美を強請ろう。


「アーシャ。ご褒美頂戴」

「ご褒美?なにが欲しいの?」

「今日の夜のアーシャ独占権」

「え?私がご褒美にさせられるの!?」

「だってアーシャが頼んで来てるんだし、アーシャも対価を支払わないと」

「頼んでるのは私じゃなくてシスターアリスだよ!」

「そんなことはどうでもいいの!それで?アーシャはご褒美くれるの?くれないの?くれないなら私はやらないからね」


 そっぽを向いて俺には関係ありませ〜んという態度を取る。

 さあさあ早く答えたまえ。道は二つに一つ!今日の夜はもふもふパーティーを開催するんだ!


「もう、分かったよ。でもソフィア様から許可がおりたらだからね」

「やった~。それならやってあげる〜」


 ふっふっふ。今日は寝かせないからねアーシャ。


◇ ◇ ◇


 おやつを食べ終え、小休止を挟んだあとに俺の読み聞かせは始まった。観客はここの子供達+シスターや伯爵家関連の大人たちだ。

 俺がこれから読むのは【五英雄の物語】。つまりは俺の前世と勇者、聖女、剣聖、賢者の五人のお話だ。実は今まで俺はこのお話を読んだことがない。実際に体験したことだし読む必要もないかなって思ってたんだよね。ま、いい機会だと思って読んでいこうか!


「あるところに正義感の強い一人の少年がいました」


 どうやら物語は勇者くんを主人公として進んでいくみたいだ。正義感が強いと紹介されるような男は勇者くんしかいないからね。

 というか俺含め他の面々は、主人公としてはちょっと癖が強いから仕方ない人選とも言える。


「その少年はある日、自分の手の甲に見たこともないような紋章が刻まれていることに気が付きました。それが勇者の聖紋です。この瞬間、少年は魔王を倒す宿命を背負った勇者となったのです」


 ふと思ったんだけど、これって勇者くんが自分で言って書いてもらったのかな?だとしたらちょー面白いんだけど!

 いつか勇者くんに会ったら煽ってやろ。


「勇者となった少年は彼を迎えに来た教会の司祭に連れられて、王都を目指しました。そこで彼は信頼できる仲間達に出会います。それが手の甲に聖女の紋章を持った狐人族の少女。剣聖の紋章を持った異界人の少女。そして賢者の紋章を持った平民の少年の三人の男女でした」


 これ学園に入ったとかの話は端折られてるんだね。確かあの四人が会ったのは学園だって聞いたんだけど、これじゃあ運命的に集合したみたいじゃん。

 …まぁいいか、進めよう。


「勇者達は数年間の修行をしたあと、魔王討伐のための旅に出ることになりました」


 これ数年間の修行って言うよりただ学園に通って地力を鍛えていただけだったような…。彼らは別に滝行なんかしていないからね。


 あと、魔銃師のシスが出てないじゃん!と思ったそこの君。もう少し待ってほしい。 

 本当ならここらへんでは既に俺は勇者くん達と面識がある。それで色々イタズラしたりなんやりしてるんだけど、俺の存在も割りと端折られちゃってるんだよね。

 そもそも俺と賢者は幼馴染で相棒と呼び合っていたくらいの関係性だからね。友達の友達は友達理論で俺達の仲は良かった。まぁ俺は学園に通わずに各地を転々と旅してたからまだ登場していないんだろうね。

 この物語がの主人公が賢者なら多分俺もこの中にいたと思うけど、勇者くんが主人公だから仕方がない。


「そして運命の日、ついに勇者一行は魔王城にたどり着くことができました。しかしその魔王城には魔王の他にゆうに百を超えるほどの数の魔族がいたのです。その中には各地で恐れられている四天王と呼ばれる魔族の中でも更に優れた四人の魔族までいました。多勢に無勢、引くべきか戦うべきか。判断を迫られていたその瞬間、勇者の横を通り魔族を一人で屠っていく男が現れました」


 お、ついに俺が現れるみたいだ。

 みんなおまたせ。世界一かっこいい魔銃師シスの登場だよ!


「その男は左右の手に魔銃を持ち、四方八方から襲いかかる魔族を冷静に、しかし苛烈にどんどん撃ち抜いていきました。男の手の甲に紋章はありません。そのため魔王にダメージを与える手段はありませんでした。しかし、魔族相手は違います。彼はこの場の魔族を全て請け負い、勇者達を魔王のいる玉座の間へと急がせました」


 いや、別にそんな意図はなかったんだけどね。ただ俺の弟子が四天王の一人に裏工作を命じられた魔族に殺されかけたから、その大本である四天王を殺しにいっただけだったんだよ。結果的に魔王討伐に協力する形になったけど、四天王の一人が暗躍のために送り込んだ魔族がいなければ俺はあの場にいなかった可能性が高い。


「玉座の間についた勇者一行は玉座に座る魔王と相対しました。魔王との戦いは熾烈を極め、戦いは昼から始まって深夜にまで及びました」


 あれ?そんなに掛かったっけ?というか外にいる魔族をとっとと倒した俺がここに駆けつけたはずなんだけど、なんで来ていないんだ?


「数時間にも及ぶ戦いにお互い満身創痍。次が最後の一撃だと勇者、聖女、剣聖、賢者は力を合わせて自分たちのできる最高の攻撃を繰り出しました」


 あるぇ〜?その場面俺もいたはずなんだけど!?魔王の攻撃を全部相殺していたの俺なんですけど?なんでいないの!?


「その一撃は無敵に思われた魔王でも耐えることができず、魔王は死に絶えました」


 俺なしで魔王討伐しちゃってるよ。いや、確かに俺いなくても倒せないことはなかったと思うんだけどさ。なんだろうこの虚しさは…


「魔王を倒した勇者一行。しかしその代償は大きいものでした。彼らが満身創痍の身体で魔王城を出ると、そこには積み重なる魔族の死体。そして、魔族の相手を一人で引き受けた魔銃師の死体がありました」


 え!?俺死んでんの?まだここじゃ死んでないはずなのにどうなってんだ!?このお話どこ情報なのさ!

 やばい。ツッコミどころが多すぎるけど、今は読み聞かせの途中だ。ちゃんと読み進めなくては。


「失意のまま、勇者達一行は王都に帰ってきました。しかしそこで待っていたのは更なる悲劇でした。なんと、国王が病に侵され、死亡していたのです」


 その人です。俺が死ぬ原因になった人はその人なんですけど!!病に侵されて死んでなんていないよその人!


 …いや、もうなにも言うまい。これはフィクションだと思おう。


「国王が亡くなった国は失意の中にありました。人とは絶望の中で希望の光を求める生き物です。そのため、誰かが光にならなければいけませんでした。そこで勇者はかねてより恋仲であった王女と結婚し、自分が国王になることを決意しました。こうして王国は魔王を倒した勇者の治める国となりました。めでたしめでたし」

「「「「わー!!」」」」

 

 ようやく読み終えることができた。子どもたちからは拍手喝采だけど俺の胸中は困惑に満ち溢れていた。

 俺の知ってる史実と全然違うんだけど…


 どうしてこうなった?




新しい登場人物

なし



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