10話 孤児院の話と更なる同行者
お嬢と別れてから数分後、俺はアーシャとソフィを引き連れて伯爵家の無駄にデカい庭に来ていた。
ここでお嬢が待っているはずなんだけど、見当たらない。もしかして俺のほうが早く着いちゃったのかな?
因みにソフィがいるのはアーシャを呼びに行ったら『私も行く!』と強硬に主張してきたからだ。どうしようかな?と思ってたら涙目になっちゃったから連れてくる他なかった。いくら最強のペットでも天使には敵わなかったよ…。
「ルナ〜アーシャ〜孤児院ってどんなところなの?」
お嬢が来ず、手持ち無沙汰にベンチで三人並んで座っていると、ソフィからそんな質問が来た。言われて見れば確かにソフィは孤児院に来たことがなかったような気がする。
ここは俺が孤児院について素晴らしいプレゼンをしてあげなくては!
「孤児院は超良いところだよ~。シスターが超可愛いし、子どもたちも超可愛いし、お嬢たちのおかげでご飯もちゃんと食べれてるからね!ソフィも同い年の友達ができるかもしれないよ?」
「本当!?わたしにも友達できるかな?」
「できますよソフィア様。あそこの子たちは新しい友達に飢えてますから」
アーシャが俺の説明に続いてそんなことをソフィに言っていた。
おいおい、飢えてるってそんな言い方は無いだろ!!…と声を大にして言いたいところなんだけど、あながち間違いじゃないんだよね。
孤児院の子達は社交性が異常なほどに高くて『君は誰?へー○○っていうんだ!じゃあもう友達だね!』ってレベルの早さで友達認定するおかしな奴らばかりなのだ。あの子達に比べれば俺のコミュ力なんて無いに等しい。
「あ、でもソフィに一つ注意しとくね。男の子には気をつけるように。なんでか知らないけどみんなイジワルしてくるからね」
昔はそんなことなかったのに最近はみんなスカートを捲ってきたり尻尾を掴んできたりするようになったのだ。
俺は前世が男だから別に気にしないけど、ソフィは前世もない正真正銘の女の子だからね。しっかり教えといてあげないと心に傷を負ってしまうかもしれない。俺は気配りができるペットだからこのくらいは朝飯前だ。
「いや、ルーちゃん?あれは男の子特有の…」
「ん?何?アーシャ」
「う~ん。これ言わないほうがいいのかな…?でもソフィア様には伝えたほうが…」
アーシャが一人でなんかゴニョゴニョ言ってるけど、ソフィを挟んで座ってるからそんな小さな声じゃ聞こえないんだけど…。まぁ大事な用ならもっと大きな声で言うだろうし独り言だったのかな?
(ソフィア様。ルーちゃんはあんなこと言ってますけど、男の子達も別にイジワルじゃないですからね)
(え?そうなの?)
(はい。その、男の子には好きな子にちょっかいを出したくなる時期があるみたいで、皆ルーちゃんが好きだからちょっかい出してるだけなんです)
(あ!それ知ってる。前にアーシャがいなくてララと一緒にいたときにララが読んでくれた恋愛小説に書いてあった!)
(え?ララさんそんな小説をソフィア様に読み聞かせたんですか!?…いえ、まぁいいです。そういうことなのでルーちゃんの言うことは聞き流して大丈夫です)
むむむ。なんか二人で内緒話をしてるぞ。俺だけ除け者にするなんて酷いじゃないか!
「二人共なに話してるの?」
「なんでもないよルーちゃん」
「ルナって意外と鈍感だったんだね」
「ソフィア様!?」
「鈍感?」
鈍感ってあの鈍感?痛みをあまり感じないとかそういうの?だとしたらそんなこと無いけど…
あ、もしかして恋愛的な意味で言ってるのかな?でもだとしたら誰からの好意に鈍感って言われてるんだ?
今は孤児院のことを話してたし孤児院のひとなのかな?となると……はっ!?もしかしてシスターが俺のことを好きなのか!?言われて見れば確かに他の子よりも俺のことを気にかけてくれてた気がする。つまり相思相愛ってこと!?
「アーシャ!もしかしてシスターが私と結婚したいって言ってたの!?」
「あ~なんか皆が可哀想に思えてきたよ…。この恋実ることあるのかな…?」
ふふふ〜ん。これはいいこと聞いちゃったな。まさかシスターがそんなに俺のことを好いてたなんて。もう今すぐにでも会いたい!
あーもう、こんなにテンションがあがってるというのにお嬢は一体何やってるんだ!!
「あの貧乳オーガはいつまで私達を待たせるつもりなんだ!」
「誰が貧乳オーガですって?」
「ニャァァア!?耳が!耳が千切れる!?何?何事!?って、お嬢!?」
「ええ。そうよ。それで?貧乳オーガっていうのは誰のことを言ったのかしら?私に教えてくれる?」
「にゃ、にゃははー…」
俺が溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように叫べば後ろから物凄い勢いで耳を引っ張られた。超痛い…。それはもう今すぐにでも耳を抑えて転げ回りたいほどに痛い。
なんでお嬢はいつもいつも俺が悪口を言ったタイミングで現れるんだ!まさか今の今まで隠れていたわけじゃないよね?
とりあえず笑ってごまかそう。うん、それが良い。
「あらあらごめんなさいねルナ。遅くなったのは私のせいなの。丁度私も孤児院に行く用があったからレイラに待ってもらったのよ」
お嬢に乾いた笑みを浮かべながら相対していると、頭上から第三者の声が聞こえた。ナイスタイミングだよ!ルナちゃんライブラリによるとこの声に一致する人物はただ一人!
お嬢とソフィの母親であるレティシア・ベネットにおいて他にいない!
「マミー!!」
あだ名がマミーなのはお嬢とソフィのマミーだからだ。お嬢には何度もやめろって言われたけどこれほどぴったりな呼び方は他にないから無視してる。
そんなマミーの見た目はお嬢とソフィと同じ髪色に同じ瞳の色。そして微塵も似つかないマリンに勝るとも劣らない凶悪な双丘。つまりは巨乳だ。お嬢の10倍…いや、ゼロに何をかけてもゼロだから関係ないか。無駄なことを考えちゃった。
…ってこういうことを考えたらだめなんだって!!
なんかこころなしかお嬢の目つきが鋭くなってる気が…。
いかん!早急に話題を変えなくては!!
「マミーも一緒に行くってほんと?」
うむ。見事な話題転換だ。
お嬢の視線から隠れるようにマミーの前まできてから質問をする。
ふっ、これがテクニックと言うやつだよ。みんなも覚えておくといい。こうすればお嬢も諦めてくれるから。
「ええ。さっきも言ったけど丁度孤児院に用事があったの」
「やった!孤児院のみんなもマミーのこと好きだから喜ぶよ!あ、そうだ。ソフィも一緒に行っていい?」
「わたしも行きたい!お母さま!」
「そうねぇ。ソフィアはお勉強も頑張ってるし息抜きがあってもいいでしょう」
「やったー!!」
ソフィは座っていたベンチから飛び上がり、ぴょんぴょんとはねて喜びを体現している。
…可愛い。
その様子を見てアーシャはソフィが転ばないか心配でオロオロしている。
…可愛い。
二人の妹分の様子にほっこりしていると、お嬢が俺達全員の前に出てきて告げる。
「それじゃあ行くわよ。既にエインとマリンに馬車を準備させてるわ」
お嬢の号令に従い、俺達は伯爵家の紋章が刻まれた馬車に向かった。
新しい登場人物
レティシア・ベネット(マミー)38歳 人族
レイラとソフィアの母親でベネット伯爵夫人。
レイラとソフィアと並ぶと、姉妹だと思われるくらいには若々しい容姿をしている。
しかし、身体のある一部分における格差は一目瞭然。
包容力のある女性でルナを甘やかすこともしばしば。
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