9話 お嬢との戯れ
ふぅ。昨日は酷い目にあったぜ。
朝からお嬢に怒られて、メイド長に怒られて、マリンの胸を揉めず、ソフィに敗北して、双子姉妹にも敗北して、ノエルに性癖をちょっと歪まされて、メイド長に叱られて……
思い出してみたら散々な一日じゃないか!
因みにあのあと双子メイドに『なんで夜ご飯運んでること教えてくれなかったんだ!』って言ったら『騒ぐだけ騒いで最後には逃げたから伝えられなかっただけ』って言われた。
俺は断じて逃げたわけではない。でも一応土下座はしておいた。ちょっとルルの圧が強くてビビったとかじゃないよ?ただ床の冷たさを感じたいなぁって思っただけだからね。勘違いしちゃ駄目だよ。
まぁそんなこんながあって今日という日を迎えたわけだ。
昨日はなかなかにハードな一日だったけど今日はどうしようかな。
特にやりたいこともないんだよね。街に遊びに行ってもいいし、森に入って魔物を狩ってきてもいいんだけど、な~んかどっちもピンとこないんだよね〜。どうしよ。
うーん、こういうときはとりあえずお嬢に会いに行こうかな。なんかいい考えがあるかもしれないしね!
よし、そうと決まればお嬢の部屋にレッツゴーだ。
俺の部屋からお嬢の部屋に行く場合は、昨日散々な目にあった魔の曲がり角は通らなくてすむ。
そのため特に何事もなくお嬢の部屋にたどり着くことが出来た。ここで本来ならばノックをするべきなんだろうけど、俺はしない。お嬢と俺の仲だからね!
「お嬢〜!暇〜!!私に構え〜」
「はぁ…私は暇じゃないのだけど?」
部屋の中に入りながらお嬢に今の心情を吐露すれば、お嬢は額に片手を当てながらため息混じりにそんなことを言ってきた。
全く、お嬢は何もわかっていないな。
「お嬢、ペットの面倒より優先するものなんてこの世界にはないのだよ」
これが世界の真理。ペットの言うことには『サーイエッサー!!』以外の返事はありえないのだ。
「普通にあるわよ。というか私の中でのペットの優先順位は最下層よ」
「最下層!?こんなに可愛いのに?」
やはりお嬢は世界の真理を理解することができないオーガだったらしい。こんなに可愛いペットの優先順位を最下層にするなんて常人だったらありえないからね。
「…また失礼なこと考えてない?」
「考えてません!!」
そうだった。このオー…ゲフンゲフン、お嬢は読心術が使えるんだった。危ない危ない。
「まぁいいわ。それで?暇ならソフィアとでも遊んできたらどう?」
「んー。ソフィとは昨日遊んだしなぁ。なんか他にない?」
「じゃあマリン達と訓練でもすれば?」
「それも昨日やった〜」
「じゃあもうメイド長に叱られてきなさい」
「それは暇つぶしじゃ無いじゃん!なにが悲しくて自分からメイド長に怒られに行かなきゃいけないのさ!」
こっちは真剣に悩んでるというのに投げやりに答えやがって!
「お嬢!私は真剣なの!!このままだとお嬢のポニーテールを猫じゃらしに見立ててじゃれ始めるぞ!いいのか!?」
「そしたら私はルナの尻尾をちょん切ろうかしら」
「発想が猟奇的すぎるよお嬢!そんなことしたらルナちゃんファンクラブのみんなが黙ってないぞ!」
なんて恐ろしい発想をするんだこの悪魔は。こんなに可愛い俺のチャームポイントを切るなんてありえないでしょ。猫の尻尾は切ったら生えてこないんだぞ!!
……あれ?でもトカゲは生えるんだっけ?なら猫も生えるのかな?
「お嬢?私の尻尾切っても生えてくるのかな?」
「知らないわよ。でも切ったら死ぬほど痛いんじゃないかしら?」
「それはそう。ならお嬢の髪を猫じゃらし代わりにするのはやめとくー」
お嬢のポニーテール猫じゃらし計画は始動する前に終了した。少しだけやってみたかったんだけど、尻尾を犠牲にしてまでやりたいかと聞かれれば決してそんなことはない。
でもそうなると何をするのかという話で、また振り出しに戻ってしまった。
お嬢は目線を机の上に戻して、仕事を始めちゃうしどうしようかな。
んー……とりあえずお嬢の邪魔しようか。
「んー、んんー、んんんー」
「………」
むむ。この美しい唸り声を聞いてもびくともしないとは…なかなか手強いな。
「ゴホンゴホン!ウオッホン!」
「………」
むむむ。まだ無視を続けるか!
段々ムカついてきたぞ。
「グワッホグラッシャンガラルガン!!…ゲホッゴホッ」
「あーもううるさい!わかったわよ。丁度孤児院の視察の予定があるから、前倒しにして孤児院に行ってあげる。これで満足?」
「ゲホッゲホッガハッちょっ待って、お嬢お水頂戴、ゲホッ」
やばいちょっと唾が変なとこ入った。孤児院行けるのを喜びたいんだけど、命の危機が目の前に迫ってて返事をする余裕もない。
ちょっとお嬢まじでヤバい。早くお水頂戴…。
「はぁ…何やってんのよあんたは…ウォーター」
み、水!水だー!!ゴクゴク、ぷはー。
ふぅ、死ぬかと思った。普通2日連続で命の危機に瀕することなんてないはずなのにどうしてこんなことに…。
お祓い行ったほうがいいのかな?
「私はあんたを拾ったことを最近後悔し始めているわ…」
「またまたご冗談を〜。こんなに可愛いペット他にいないよ?頭撫でてもいいよ?」
お嬢も冗談が上手いんだから。俺のような最強で最カワのペットなんてそうそう出会えないんだから後悔するわけないでしょうに。
ほらほら、頭を撫でたくなってきたんじゃない?尻尾もフリフリしてあげよう。特別だからね。
「…ってこんなことしてる場合じゃなかった!!孤児院!早く行こ!お嬢」
俺は一体何をしてるんだ!?
孤児院だよ孤児院。早く行かないと時間がなくなっちゃう。
「分かったから引っ張らない。それにどうせ行くならアーシャも連れてきなさい。ソフィアの世話はルルにでも任せていいわ」
「確かに!じゃあお嬢準備しといてよ!私はアーシャ呼んでくる!」
「はいはい。準備ができたら外で待ってるわよ」
「は~い!」
やっぱりお嬢の部屋に来て正解だった。
これで空欄だった俺の心の予定帳に予定が入ったよ。『孤児院への里帰り』ってね!
ここ最近は忙しくてあまり帰ってなかったからな〜。大好きなシスターに悪い虫がついていないかしっかり確認しなくちゃ!
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