第21話 その勇者、仲間に再会する
「本年度代表選抜戦 決勝戦を行う!3-A 筆頭席次
長かった代表トーナメントもこれで最後だ!やったー!
「やはり君と戦うことになったか。天霧君。人がどこまで天に刃向かえるのか試させてもらう。」
会長も今日は狩衣姿に烏帽子を被った陰陽師の正装でこの場に臨んでいる。
雰囲気も変わって、どこか掴みどころのなかった普段の会長の姿はない。
「それが会長の本当の姿ってわけですか?」
「これでも日ノ本の伏魔師を束ねてきた家の嫡男なのでね。無様は晒せんよ。」
「おてやわらかに」
「決勝戦、初め!」
最初に動いたのは、会長だった。
九文字の印を素早く切り、自分の指を噛み切ると、空中に五芒星の印を描いた!
「八百万の畏き大御神との契りをいざ果たさん!」
『血継呪術【
闘武場が闇で覆われ、俺は暗闇の中で1人立っていた・・・
『なあ、ユキト兄!俺はユキト兄みたいに剣を振るって強くなりたい!孤児院の兄弟たちには、俺たちみたいな辛い思いはさせたくないんだ・・・』
「えっ?ヴァッカースなのか?おい!ヴァッカース!!」
『ユキト兄は、心の中で血の涙を流しながら、勇者の力を振るっているんだね。自分の生まれた世界でもない、僕らの世界のために。それに魔族のためにまで涙を流すなんて、優しすぎるよ、ユキト兄・・・』
「今度はボルカなのか?ボルカ!どこだ!どこにいる?」
『ユキト。愛しておりましたわ。たとえあなたの心が生まれ育った遥か遠くの世界に取り残されていたとしても。
人の為、魔族の為に傷付いていく貴方の魂に寄り添いたい・・・癒してあげたい・・・。ユキト。愛しております。たとえ、死してなお・・・』
「・・・アムネリア・・・すまなかった。俺が魔王との闘いにお前たちを巻き込まなかったら・・・本当にすまなかった・・・」
『すぐに泣くところがお前の悪いところだぞ、ユキト!そんなお前が心配だから、俺がこの刀を打ってやるよ。
泣き虫なお前とずっと一緒にいてやれるよう、俺の魂を込めてな。だから、ユキト。お前は、お前らしく自由に生きろ!』
「・・・エルドレイン・・・友よ・・・俺は、今・・・」
『黒丸!』
俺はボロボロなきながら、
『何を悲しむ
どこかから、暗い女性の声とともに、懐かしい仲間が目の前に現れた。
「ヴァッカース!」
「ユキト!」
白虎族の獣人。いつも明るく、優しく、そして強かった戦士。
「ボルカ!」
「ユキト」
ホビィト族の賢者。俺より何百倍も賢くて、多彩な魔法を操った穏やかな小さな巨人。
「アムネリア」
「ユキト。愛しいひと」
城下町の聖女。人が傷つくことを何よりも嫌いながら、魔王との闘いに最後まで着いてきてくれた、優しく美しい人。
「エルドレイン。友よ」
「ユキト。また泣いているのか?」
ハーフドワーフの鍛冶師。俺の兄であり、親友だった男・・・
『汝が望めば、黄泉の国でこの者達と
「ヴァッカース!ボルカ!アムネリア!そしてエルドレイン!
お前たちを闘いに引っ張り出してすまなかった。穏やかな日々を与えてあげられなくてすまなかった。・・・守ってやれず・・・すまなかった。」
『よくぞ決心しました。妾は汝を・・・』
「すまない!みんな!俺はまだお前たちの所には行けない!この命尽きたら、また会おう!」
「それでいい!師兄よ!」
「あなたにしては、まともな判断ですよ。」
「何度生まれ変わっても、貴方のおそばに。愛しい人よ」
「それでこそ、我が友!心のままに、真っすぐ進め!」
俺と共に泣いてくれる『黒丸』に、俺の持てる全ての魔力を注ぎ込んだ!
【次元斬[
暗黒の世界が左右にズレてそこから光が差し込んだ・・・
さらば愛しき人たち。俺にはまだ帰るべき場所があるんだ・・・
・
・
・
「
術を破られた会長は、口から血を流しながら崩れ落ちて膝を着き
「私の負けです。
トーナメント決勝の舞台に倒れた。
「優勝は天霧!」
この歓声が聞こえるか?みんな。これが俺の生まれた世界だ・・・
◇◇◇
横浜のベイエリアを見下ろすビルの最上階の一室にその男たちは集まっていた。
『張
長髪の青年に促されて、2人の男がベイエリアの夜景を見下ろす豪華なソファーに腰を下ろした。
『劉。呂
『はい、
劉と呼ばれた青年はそう言うと、分厚い封筒を張に渡した。
張が封筒を懐に入れるのを見届けて、劉はもう1人の男に話しかけた。
『王
『そうだぞ
先日の横浜での作戦の失敗、外交部に大きな借りを作ってしまった。そこを理解して欲しい。』
どこから見ても官僚にしか見えない張の嫌味に対して、戦場の雰囲気を濃厚に纏う男は鋭く言い返した。
『私は宋 少将の直属。貴様とは指揮系統が異なる。よって貴様からの指示は一切受けない。』
『なんだと!私は
『忘れてもらっては困る!私は特務
大使には宋 少将のチャンネルを通して話は付けてある。』
『戦争でも始めるおつもりですか!』
この場では最年少の劉が声を荒らげた。
『我々は戦争の尖兵だ!台湾を祖国に奪還する作戦の前に、日本の神霊的防御システムを破壊しなければならない!』
『
『貴様こそ戦史をもっと研究しろ!
太平洋戦争中、皇居と京都はB-29からの爆撃から逃れた。それは米軍が政治的意図で目標から除外したと言われているが、それは嘘だ。米軍は狙ったが命中させられなかったんだ!
それに沖縄戦に於いて、米兵は日本軍が降伏するその瞬間まで、追い込まれているのは米軍の方だと錯覚していた。これは現在も残る米兵の無線記録からも分かる。
だから米軍は日本本土決戦を恐れたのだ!日本の精神的攻撃によって米兵の士気が壊滅することを!だから2発の爆弾で終わりにする道を選んだ。』
『だがどうやってその得体の知れない防御システムとやらを破壊するんだ?外交部のスパイからも、一切そんなものが日本にあるなどと報告は上がって来ないぞ!』
『神霊的防御を破壊する手立ては、半島のネズミを使って進めている。これは周国家首席直々の指令で工作が始まった。横浜での作戦もその流れの一環だ。
我々はその横浜での作戦で、敵の尻尾を捕まえた。
劉。判明したことを話せ!』
『横浜での作戦部隊を壊滅させたのは、1人の学生でした。』
『バカを言うな!学生が、しかもたった1人で武装した2個小隊約100名を制圧しただと?ふざけるな!』
『しかし、事実です。張
『我々超務部隊は、その能力者達を攻撃し、敵戦力の壊滅を目指す。
劉。そのための協力者はどうなった?』
『日本のそう言った裏事情に精通した先生をお呼び致しました。日本の国会与党の先生です。』
劉の合図に、秘書がゲストを迎えに外室して行った。陰謀の夜はまだまだ続いた。
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