第16話 その勇者、巫女の舞に心奪われる


「代表戦選抜 2回戦を行う。2-A 八千草やちぐさ サクラ。1-A 天霧あまぎり ユキト。両者前へ!」


 さて、俺もいよいよAクラスの実力者との対戦だ。前の試合て大淀おおよど先輩の頑張りを見せられたとあっては、俺も少し張り切らなきゃね!


 主審の話は安定のスルー定期でと・・・


「今日、貴方とここで対戦するのをとても楽しみにしておりました。天霧あまぎり君。」


 昨日、生徒会室で美味しいお茶を入れてくれた美人さんだ。こうして見ると、長い黒髪が良く似合うスゲー美人さんだな。巫女さんの正装姿と相まって神々こうごうしい・・・


「えっと、昨日は美味しいお茶をどうも。」


「ふふふ、お茶くらいでよろしければ、いつでも入れてさしあげてよ。」


「両者、線まで下がって!」


 主審もちと空気よめや!


わたくし、貴方の本気を見せていただけるかしら?」


「それは、あなた次第ですよ。」


 彼女は、涼し気な笑を残して下がっていった。やばいな。はなから調子狂ってしまったなぁ・・・


「始め!」


 とりあえず、彼女の出方を見よう。


 彼女の手に持つ武器は、長さ3メートルを超える大槍だ!女性の持つ武器じゃないよな?

 だが、白金色しろがねいろに輝く槍の穂先ほさきは80センチ位と長く、龍が刻まれた刀身には気品すら感じる美しさがある。


 なんとなく彼女にお似合いの武器だなと思ってしまった・・・


「あら?エスコートしては下さらないの?つれないお方。では、わたくしから参ります、!」


夜叉丸やしゃまる!』


 彼女の呼び掛けに、二面四臂にめんしひの大鬼が現れた!


 うっ、これは!地元の神社に現れた、荒御魂あらみたまと呼ばれた神より恐ろしい存在だぞ!

 彼女はそれを何の術式も使わずに使役出来るのか?


「あら、嬉しいですこと!少しは本気出していただけるのかしら?」


王級魔法【火炎牢獄】ファイヤープリズン


 これまで学園では使ったことのない、火の上級魔法が大鬼を青い炎で取り囲んだ!


夜叉丸やしゃまる!』


 彼女が鋭く命じると、青い炎の牢獄を斬り払い、4本の宝剣を手に手に持った鬼が飛び出してきた!


 鍛えられた武人の目ですら捉えられない速さなのだが・・・・・・俺には止まって見える!


 瞬時に肉薄してきた鬼の斬撃を手で払いながら、大鬼の腹をカウンターの両手掌底打しょうていうちで撃ち抜いた!


 しかし鬼はダメージを受けた素振りも見せず、4方向から鋭い斬撃を返してきた!


「くっ!」


 俺はバッグ宙で後方に飛んで距離を取った。


「やっと天霧君を1歩その位置から動かすことが出来ましたね。

 ですが、武器も持たずに夜叉丸やしゃまるの攻撃をいつまでかわせるのかしら?

 それに貴方の武器は日本刀だと伺っております。わたくしには、見せていただけませんの?」


 何か魂胆こんたんでもあるのだろう。さっきから彼女の言葉数が多い。


「俺の黒丸で傷を負ったら、先輩も無事ではいられない。」


 これならどうだ?


複合元素魔法【氷】エレメンタルマジック・アイス アロー


 俺は、瞬時に100本の氷の矢を頭上に浮かべ、大鬼に向けて放った!


「「おおっ!すげー!」」

「「な、なんて数だ!」」


 ギャラリーがざわつく。


 だが大鬼は4本の腕を振り回し、宝剣で氷の矢を叩き折っている!


複合元素魔法【雷】エレメンタルマジック・サンダー

精神魔法【睡眠】スリープ


 鬼がアイスアローに対処いてるうちに、二重詠唱でサンダーとスリープを彼女に撃ち込んだ。


「残念ですが、私には攻撃は一切通じません。」


 巨大な蓮華れんげの花につつまれて、彼女は俺の魔法をリジェクトした。


 そして彼女の頭上には、一体の菩薩ぼさつが現れていた。


「この2体が先輩の『力』なのか?」


「『蓮華菩薩れんげぼさつ』は全ての攻撃からわたくしまもり、『夜叉丸やしゃまる』は私の全ての敵を討ち滅ぼす。これがわたくしの力・・・いえ、私に課せられた重い義務・・・」

 

 どこか悲しげな顔で彼女が言った。


「そして、もう1つの力がその大槍ですか。」


「この槍のめい日本号にほんごうと言い、裏天下三名槍めいそうでもある神槍しんそうです。わたくしに見事勝てたのなら、この槍についてお話してあげましょう。」


 そう言って彼女は、美しい蓮華の結界の中で、優雅に流れるように日本号を使って舞を踊り始めた。

 踊りに合わせて白絹しらきぬの千早の袖が大きくひるがえり、金色の冠の鈴が小さく鳴った。


 彼女の舞は、どうやら俺を縛るための呪術のようだ。

 俺に向かって夜叉丸が4本の宝剣で同時に突いてくる。俺の心臓の1点を目掛けて!


「だが、それは悪手だ!」


『神級魔法【インドラズ スピア】』


 今度は魔法を分散させずに、極太のインドラの雷槍らいそうを夜叉丸の脳天に落とし、立ったまま頭から夜叉丸を石畳に縫いつけた!


「夜叉丸ー!」


 甲高い彼女の叫びが響く。

 主人の叫びに答えようともがき始める大鬼!


「これでまだ動けるとは・・・」


『帝級魔法【ヤルンヴィド】』


 夜叉丸の足元から、鉄の森ヤルンヴィドの木の枝が絡まり、大鬼を緑の枝で呪縛した。


 今度は完全に身動き出来ない夜叉丸の脇を、彼女に向かってただ歩いていった。


「だめ!『蓮華菩薩』!」


 彼女の声に合わせて蓮華の結界の光が強くなったが、俺は結界など全く存在しないかのように結界内に侵入した。


「どうして!菩薩の結界に貴方は侵入出来たの?なぜ・・・」


 舞を止めた彼女の細い腰を抱き寄せる。


「俺はあなたを攻撃しに来たのではなく、ただあなたを抱くために来たんだ。菩薩様なら、俺の気持ち汲んで当たり前だろ?」


 彼女は俺の腕に身を任せながら、呟いた。


「サクラ、と呼んでください・・・」


「しょ、勝負あり!天霧?でいいよな?」


 最後まで締まらない主審だった。


◇◇◇


 そのもの達は古くからこの日本に根を伸ばしていた。

 

 古来、そのもの達は日ノ本から半島を経てからの国へと自由に行き来し、一族秘伝の呪術をもって生きるかてとしてきた。


 だが、そのもの達の一族全てに衝撃が走った。


 ― 1910年、日韓併合 ―


 近代化の混乱のもとに始祖神を奪われ、失ってしまった半島の支族は、密かに日ノ本へ逃れ細々と彼らの『わざ』を継承してきた。


 しかし、外津国そとつかみの子であるそのもの達には、日ノ本の八百万の神々は加護をあたえず、そのもの達は始祖神を祭る祭祀の技(業)を次第に失ってしまった。


 だが、そんな中でも1部の力ある呪術師は、八百万神々の恩寵おんちょう呪怨じゅおんおとしめ、祖神を奪ったもの達に復讐するために地下で蠢いていた・・・


◇◇◇


 箱根山中にある古びた建物の地下。禍々しい魔法陣に向かい一心不乱に念を送っている醜い老人が3人、けがれたおぞましい呪詛の儀式を行っていた。


『導師。横浜の件、情報が入りました。神奈川県警と警視庁からの情報です。警察庁からは・・・まだです。』


『警察庁のネズミは処理された』

『県警の、情報、、話せ』

『・・・』

 

 人の声とは思えない、深くて暗い声だ。

 報告に来た男は、怯えを表さないよう細心の注意をはらって説明した。


『儀式に使われた壺は全て破壊されました。犯人は不明で、情報が秘匿ひとくされております。ただ、イベント会場に突入する慈恩院学園じおんいんがくえんの学生を一般の野次馬が撮影したとの情報がありました。ですが、初動で動いた公安に写真の破棄を求められたそうです。我々も未だ入手出来ておりません。』


『東家の人間でなく、学園生だと?』

『東家の人間、、確認した、のか?』

『・・・・・・』


 その男は老人たちと話せば話すほど、心が冷えていくのを感じた。


『学園生が1人。警察が動く前に突入しました。東家の人間は警察の初動後に現場に入りました。』


『その学園生の情報を集めよ』

『その、学生、、の、遺留、ぶつ』

『・・・・・・』


『かしこまりました』


 男が立ち去ると、今まで口を閉じていた老人が話し始めた。


『あの『呪器』を作るのに、長い年月と数千のにえが必要だった・・・』

『百余年の歳月が徒労とろうした』

『愚か、者に、、罰を』


 ユキトの知らぬ場所で歯車が動き出した・・・



*************


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