第9話 その勇者、校外学習に出る

 ウザがらみされた加茂かもとの決闘が終わって、しばらく平穏へいおんな日か続いた。


 特殊科一年の授業は基礎訓練 : 座学 : 戦闘訓練の比率が 3 : 3 : 4となっており、Aクラスは基礎訓練免除で座学と戦闘訓練を自由に選べる制度になっていた。


 つまり、月に一度以上の決闘と学園外での妖魔退治実習を受ければ、後は本人の自由なのだ。

 だが、クラス落ちしない為に、遊びほうけているバカはAクラスにはおらんのだがな。


「はーい、注目!それでは最初の月次妖魔退治実習を行うよ。」


 そんなわけで、今日俺たちは、『ここ、本当に東京なのか?』とサラサに三回たずねたほどカントリーな町にきている。だって近くに牛舎があるんだぜ!


 まあ、たいがい俺たちの学園も山ん中だし、それでも東京都だからな。問題ないのか。


「先生!それより、なんで子供が一緒にいるんだ?」


久世くぜ君、それは良い質問だねぇ。

 はい!では、自己紹介して。」


「はい!天霧あまぎり スズネ!中等部1-Aクラスなのです!趣味は、に抱っこしてもらうことなのでっす!フンスッ!」


「きゃーっ!スズネちゃーん!サラサお姉ちゃんに抱っこされてぇー!」


 あー、サラサ。実習中に抱きつくな!


「スズネちゃんはね。入学試験でその才能を示した。高等部1-Aに値する才能をね。

 あらでも残念。スズネちゃんはまだ12歳だから、さすがに義務教育を受けないとねぇ、僕らが怒られちゃうからさ。」


「だったら何故・・・」


「あれ?それを久世家くぜけの人間が言っちゃうの?」


 すめらぎ先生、口調はおチャラけてるけど、目がマジで怖い!元勇者の俺でもだ。


「今の伏魔師ふくまし界に、遊ばせておく人材の余裕はない。

 我々は才能のある若者を、一日も早く生き残れるよう鍛えなければならないからだ。」


「まさか、それは百きy・・・」

久世くぜっ!」


 皇先生の実績の声と共に、強い威圧が飛んだ!

 おいおい、どんだけ・・・


「諸君もそうだけど、スズネちゃんにも早い段階から妖魔退治の実習に参加してもらって、経験をつんで欲しいと考えているんだ。」


 一転していつもの柔らかい口調に戻った。


神流かんな。一般の肆級よんきゅう伏魔師と今の君たちの差は何かな?」


「経験です。」


「そのとおり!経験だね。

 実戦に勝る経験なしとも言われるね。

 だから、君たちは毎月最低一回以上の妖魔退治実習を義務ずけられているんだね。」


「はいはーい!先生!スズネはお兄ちゃんと一緒だったら、ジャンジャン妖魔退治するのですっ!」


「きゃー!偉いわースズネちゃん!お姉ちゃんも一緒についてって守ってあげるぅ〜ん♡」


「それじゃあ、実習を始めるよ。」


 そうですね先生。こいつらはスルーしとくのがベストですね。とくに【♡頭】のサラサは・・・



「昼とはいえ、廃病院ってのは雰囲気あるな。」

「お兄ちゃんなら恐れるものはない!のです!」


「ブラコン?」

「うきゃー!何このちっこいのは!です。戦争か?戦争なのか!でっす!」


「フタバはお姉ちゃん。」

「スズネと身長、そんなに変わんないのです!」

「でも、大きい。」

「プギャー!おっぱい、おっぱいなのです?ふん、『そんなもの飾りです。偉い人にはそれが分からんのです』なのです。ね?お兄ちゃん?」


 ・・・俺は黙って顔を逸らした。


「大丈夫。お兄ちゃんもおっぱい星人。ね?」


 サラサと一緒にいると、いつの間にかフタバとも仲良くなっていた。

だが、何故我が崇高すうこう嗜好しこうが分かるのだ?フタバよ・・・


「お兄ちゃん?」


「いや、それよりどうした?サラサ。日中でも怖いのか?」


「ここここ・・・こうゃくににゃい」


「「噛んだ」です。」


「ほら、手を貸すから早く行こう。俺たちのチームは四階から調べなくちゃならないんだからな。ほら。」


◇◇◇


「ルイ。光を。」

「はい、リンネ様。」


 久世くぜの指示で神流かんなは素早く印を切り、久世たちの周りに三つの朱色の火球を浮かべた。


「廃病院での霊災れいさいと言えば、地下室が一番疑わしい。

 無知な天霧まあぎりには四階からの見回りを押し付けたので、今のうちに見つけ出してはらうぞ!」


「はい、リンネ様。」

「・・・」


「どうした?番匠ばんじょう。不満か?」

「・・・いいえ、そんなことはありません・・・」


 階段を下りながら久世はつづけた。


番匠ばんじょう。一度はお前の母親の願いにより、久世家の寄子よりこから離れることを許した。

 だが、お前に霊力が発現した以上、久世家に尽くして貰うぞ!」


「・・・はい。わかっております。リンネ様。ですから、母のことは・・・」


「みなまで言わなくても良い。

 約束通り、お前がAクラスに入学したので、お前の母親は久世家の総合病院に入院させて最高の医療を受けている。

 お前も休みが取れたら、見舞いに行って見ればいい。」


「ありがとうございます。リンネ様。」


「良い。

 どれ、地下二階に着いたな。

 番匠ばんじょうお前の傀儡くぐつを先行させて、霊障れいしょうの気配を偵察させろ。」


 番匠は呪符を一枚取り出すと、指をかみ切った血で呪符に五芒星をなぞった。


「おんぎゃくぎゃくえんのうばそくあらんきゃそわか!

 小角しょうかく、来い!」


 呪文をとなえると、呪符が煙に変わり、中から一本角の小鬼の人形が出てきた。


「小角、前方を偵察しろ。」


 番匠の命令に従い、傀儡の小鬼はカタカタ体を揺らしながら進んで行った。


◇◇◇


元素魔法【土】エレメンタルマジック・アース

「宝具、3つ!」


 廃病院の二階に降りてきた。この病院跡には、まだハッキリとした形になる事の出来ない妖魔がたくさんいた。・・・G程度には。


「スズネちゃんとフタバちゃんがいると、楽で良いわね〜。たすかるわ〜」


「俺が魔法で結界を張っている件についてはスルーかのか?」


「あー、はいはい。ユキトくん乙乙。」


 あんなにビビってたサラサだったが、敵が姿を見せたので怯えなくなったのはさすがだ。


「でも、ユキトくんとスズネちゃんのその魔法って不思議ね〜。

 いままで見た事のない呪術だわ。」


「これは呪術とは違うぞ。自分自身の魔力を源泉げんせんに発動する術式だからな。」


「サラサ交代。もう呪符が無くなる。」


「おっけー!フタバ。」


 トコトコとフタバが俺の隣に戻ってきた。


「フタバ、おつかれ。」


「うん、疲れた。

 ユキトの魔法。興味ある。

 今度教えて。」


「おおっ!フタバ。二言以上話せたんだ!」


「お兄ちゃん!何とかしてなのです。ゴキ共みたいにウジャウジャいて、もうイヤ!なのですぅー」


 スズネがキレかかっている。

 仕方ない、手を貸してやろうか。


「神聖魔法【聖域《サンクチュアリ】!」


 俺から発した聖光が、どんどん広がって行き、壁もすり抜けて廃病院全体を聖なる光で満たした。


 すると、病院内の聖光に照らされた全てのよこしまな妖気の塊が、一瞬で浄化された。


 その時、廃病院全体が揺れて、ソイツの妖気がハッキリと感知できた。


『おーんおんおおおお―――』


「女の泣き声か?きしょいな。」



◇◇◇


 すめらぎとその補助に来た三人の伏魔師は、廃病院を取り囲むよう四隅で印を組み、病院全体をおおう結界を張っていた。


 四人の伏魔師が結界に集中してると、突然廃病院から光が染み出して建物全体が発光した。すると、


『おーんおんおおおお―――』


 病院の建物全体が揺れて、建物の中を、壁の中を、床を天井をすり抜ける巨大な蛇の黒い影か物凄い速さで動き回っている!


「ソウマ!」


「カイさん!結界の維持を!妖魔本体を逃がさないで!」


「承知!」


「状況次第では、僕も突入します!」


 その時!外壁の角を回ろうとした妖魔が、壁ごと妖魔の蛇首を切り落とされた。


『わー!ユキトくん!建物ごときっちゃダメだよー!』

『『ぎゃー、ぎゃー!』』


「どうやら、ハーレムチームが妖魔をはらったようですね。やれなれ、これまた派手な方法ですね。」




*************


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