#字書きのゆるっと創作30分まとめ

海野てん

第1話 生鮮

 お題「大渋滞」「朝顔」


 とっことっこ進んでいた歩みが、ついに止まった。照らす橙色の丸い光の果てはなく、くねりくねりした先行きは暗くがりに消えていく。行儀良く、あるいは仕方がなくそうしている行列だけが道なりに続いている。

 背後の席から、けしからぬ音がした。明らかに何かをぶちぶちむしっている。前方に注意しながら振り向けば、思った通り、座席のわずかに傷付いた部分をとっかかりに、一部をくり抜くようにむしっている不届者の姿があった。

 一体どういうつもりか。運転席の男は、動かない行列と後部座席のいたずらに苛立ちを募らせる。

 後部座席の人物は、操縦の責任もない身、手持ち無沙汰な指先をどうしたものか、考えた結果だと開き直った。けれど怒らせてしまうならば仕方がないと、千切ったものを開けた穴に戻してみせたけれど、それで元に戻るはずもない。

 それよりも、何かを穴に仕込み、隠すように埋め戻したのを、運転手は見逃さなかった。まったく、どういうつもりか。返答次第では道半ばで降ろしてしまおうか。

 いやですねえ、何も悪いことなんかしていません。犯人は白々しく振る舞うが、仕込んだものは種であると自白し、埋めた穴をほじくり返すと、証拠の品を操縦者に見えるように差し出した。三粒のよく膨れた朝顔の種が青い手の平でころころしていた。

 こんなに時間がかかるなら、着く頃にはきっと花が咲くでしょう。愉快そうな犯人が、乗り物を優しく撫でる。幸いにも、用意された乗り物は新鮮で、水分をたっぷり含んでいた。

「こんなに良い牛を用意してくれるなんて、羨ましいことですよ」

 茄子に楊枝を刺した精霊馬は二人が乗るのに十分な大きさで、同じ道ゆきの茄子たちの中、一際色も張りも良く、誰もの目を惹いた。

「このお茄子から生えたなら、きっとこの世では見られないほど鮮やかに咲くでしょう」

 運転手は手綱を握り直し、ため息を吐く。記憶によれば、茄子の精霊馬は沢山の土産を持って行かせるためのもので、奇妙な同行者を相席せるためのものではなかったはずだ。

 濃い紫の車体に絡み付く青空の色の想像は、いくらか愉快だった。

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