最後に手にする力はひとつ⁈「それはもちろん、俺・僕だよね?」
藤間伊織
第1話
私、
中学生になって早一週間。クラスで話せる人は増えたけれど、同じ方向から来ている子を見つけることができず今日も一人で登校です……!
昨日降った雨で出来た水溜まりに空が映っている。ぼんやり空を見上げると、よく晴れた青空に力強い薄桃色が寄り添うように広がっていた。今日はよく晴れてる。
そんな風景を見るだけで心安らぐような自分の性格は、嫌いじゃない。あまり空を見ていると電柱や標識にぶつかるので前を向く。恥ずかしながら以前やってしまった、実体験に基づく話なのだけど。
みんなが合流する道が見えるのはまだもう少し先の道。未だに同じ制服の人に出会っていないということは、この道を使う人をクラスの中から見つけるのも難しいのかな……。そもそも人通りも少ないし。
変化のないまっすぐな道を歩いていると、前からトラックが走ってきた。ほんの少し狭い道だけど、運転に慣れている人なら問題なく通れるんだろう。ぼんやりと視線を反対側の道に移すと男の子が立っていた。まだ小学生一年生くらいかな?でもランドセルは背負ってない。すると、男の子はたたっと木の影から飛び出した。
……え?
男の子が飛び出したのは道路の真ん中。そこには、猛スピードではないがあの男の子が無事では済まないくらいのトラックが迫っていた。
何か声をあげる前に私の体は動いていた。
命の危機には世界がスローモーションで見えるそうだ。私はこちらに気づいた様子もないトラックの運転手とも、男の子とも目が合った気がした。とにかく守らないと、と思った私は男の子を腕に抱えると勢いのまま反対の道へ跳ぼうとした。
しかし、私は思い出した。私、運動得意じゃない、と言うよりむしろ苦手だった。そう思うと、足がすくんでしまった。とっさに体が動いただけでも奇跡的だ。でも、このままじゃこの子まで……!
そこまで思考できていたのなら、そのときの私には世界がスローモーションに見えていたかもしれない。でも、目なんてとっくに瞑っていたし、開いていてもその後私に起きたことで全て忘れていたか、あるいは些細なことだと流すしかなかったと思う。
次に目を開いたのは「おい」とぶっきらぼうな声が聞こえてきたからだった。恐る恐る目を開けたが、私の前には綺麗なお花畑も小川もなかった。代わりに無愛想な少年が私を呆れたような顔で見ていた。ツンツンした雰囲気で、目つきのせいか少し怖そうな人だと思った。
「何してたんだ、お前」
「え、ええと……。あ、あの子は⁈男の子は大丈夫⁈」
「何言ってんだ。誰もお前の傍にはいなかったぞ」
「え、そんなはずは……」
周りを見回してみるが、確かに誰もいない。あんな小さい子が車に轢かれそうになって、すぐにどこかに行ってしまうとは考えにくい。
そうしてきょろきょろしていると、私は不思議なことに気づいた。今、私が立っているのは私が飛び出した道路の真ん中とも、跳ぼうとした反対の道とも少し離れている。もし、この目の前の人が助けてくれたんだとしても、一瞬でこの距離を引っ張るのは無理じゃないのかな……?そもそも引っ張られた感覚もなく、気づいたらここに立っていた。
「あの……あなたが助けてくれたんですか?」
「ん?まあ、そうだな。トラックに轢かれそうな奴ほっとくほど冷たい人間じゃねぇよ」
「あ、ありがとうございます!」
「……おう」
「……」
「……学校、行かなくていいの?」
「え、あ!遅刻!」
ようやく私は自分が登校中だったことを思い出した。消えてしまった男の子も無事だろうと思い、感じた「不思議」も解かないままお礼もそこそこに走り出す。
あれ?今の男の子、私と同じ学校の制服着てたような……?
はっ!赤信号……!急いでるのに……!
ここの信号、ちょっと長いんだよね……。そう思っていると、走ってきた車が水溜まりの水を跳ね上げ、スカートもシャツやリボンまでもびっしょり濡れてしまった。かばんの中身は無事だと思うけど……今日はあんまり運がよくないのかもしれない。
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