異世界転移は荷が重い
瑞多美音
前編
よく晴れた3連休の初日……
中学生になり親や幼なじみと出かけるのが恥ずかしく、ひとが少ない場所ならと渋々参加を決めたキャンプ当日である。
今日向かう場所は親戚のおじさんの持ち山で火の後始末や後片付けをきちんとすることを条件で貸してもらえたらしく、貸切状態だとか。
「早く準備しなさいよー!菫ちゃんたち来ちゃうわよー」
「……はーい」
眠気を覚ますためにジャバジャバと顔を洗い、急いで準備をすませる。
その頃には幼なじみ家族も合流していた。ふぅ……ぎりぎり間に合ったか。
「おはよ!」
「……はよ」
「キャンプ久しぶりだねっ」
「あー、だな」
親戚の持ち山へは車で数時間かけて向かう……道中にある道の駅とスーパーをはしごして食べられるのかと思うほどの食料を買い込んだ。クーラーボックスも車のトランクもパンパンだ……両親たちの張り切り具合がすごい。
テンションが違いすぎてちょっと辛い……が、ようやく到着した。
「おお……空気が違う気がする」
「でも、虫は多そうだね」
「あー、虫よけしとくか」
「うん!」
もっと鬱蒼としているかと思えば近くには川も流れ、いい感じに日陰もある場所だった。
どうやら、親戚のおじさんが時々整備しつつソロキャンプしている場所のようだ。
「荷物下ろすの手伝ってくれー」
「「はーい」」
みんなで車から荷物を下ろしていく……いや、荷物多すぎじゃね?明らかに使わなそうなものまであるんですけど……1泊2日の予定だよな?
「あー、筋肉痛になりそう……」
「しゅん君、運動不足?」
「うっせ」
たわいない話をしながら準備をしていたはずなのに……突然、キーンッと音が響き、何もなかった場所に亀裂が入った。
「えっ」
「きゃっ」
すごい力で真っ暗な空間へ俺と菫がどんどんと吸い込まれていくっ。
こんなことありえねぇだろ!抵抗しようともがくが効果はない……
「「俊也っ!!」」
「「菫!!」」
両親が気づいてこちらへ手を伸ばすものの……手が触れる直前にすごい衝撃を受け……そこからはよくわからないまま視界が闇に包まれた。
どんっ……
「痛ってぇ……」
「いったぁ……し、しゅん君っ」
「どうなったんだ?あれは夢か?」
周囲を見回すと明らかにさっきいた場所と違う……近くにあった川や車から下ろした荷物も見当たらず、草原が広がっていた。
若干パニックだが、それでもなんとか正気を保っていられたのはいつも隣にいる幼なじみのおかげだった。
「ここどこだ?急に変な亀裂に吸い込まれたよな?」
「う、うん……」
「怪我は?」
「尻もちくらいだから大丈夫!」
自分も体が痛いような気もするが……特に怪我はしてないみたいでホッとする。
「ふぅ……よかった」
「どうなることかとおもったわよ」
「よかったわ」
「だな!」
ん?
「こっちだよ」
「こっち、こっち!」
「うしろよ、うしろ!」
「ふりむいてー」
声に従い後ろを振り返ると見慣れぬ幼児が4人いた……えっと、どちら様?
「えっと……」
「やだ!かあさんのことがわからないなんてっ![やだ!母さんのことがわからないなんてっ!]」
はぁ?この子供が母さんだとっ?髪型と性別以外何も一致してないぞっ!
「しゅんや、さてはしんじてないわね?[俊也、さては信じてないわね?]」
「な、なんで名前知って……」
「そりゃあ、おれたちがとうさんとかあさんだからだよ[そりゃあ、俺たちが父さんと母さんだからだよ]」
いや、どや顔で言われても幼児が両親とかふつー信じないって。
「かあさん、おれたちしかしらないことをしゅんやにはなしてみたらしんじるかも?[母さん、俺たちしか知らないことを俊也に話してみたら信じるかも?]」
「そうねぇ……ニチアサのヒーローものはきょうみないふりしてかならずチェックしてたでしょう。そのまま、まほうしょうじょのアニメもみながらしゅだいかくちずさんでたのもしってるし、いろもほんとはあおやみどりがすきなのにへややふくをくろでとういつしてみたり……[そうねぇ……ニチアサのヒーロー物は興味ないふりして必ずチェックしてたでしょう。そのまま、魔法少女のアニメも見ながら主題歌口ずさんでたのも知ってるし、色もほんとは青や緑が好きなのに部屋や服を黒で統一してみたり……]」
「うわぁああ!やめてくれよっ!今は見てないしっ!見てたのは小学生までだぞ!」
「これで、とうさんとかあさんだってしんじてくれたかい?[これで、父さんと母さんだって信じてくれたかい?]」
……え?なんで俺の黒歴史知ってんのっ?……はぁ?まじでこのふたりが俺の父さんと母さんだってこと!?
「あら、すみれちゃん!まずはいぶくろからってりょうりのれんしゅうがんばってしてたじゃない!こんかいのキャンプもはりきってたし、わたしたちなんどもあじみがかりして……[あら、菫ちゃん!まずは胃袋からって料理の練習頑張ってしてたじゃない!今回のキャンプ張り切ってたし、私たち何度も味見係して……]」
「え?あれ、れんしゅうだったの?おとうさんへのてづくりりょうりじゃなかったのかー……[え?あれ、練習だったの?お父さんへの手作り料理じゃなかったのかー……]」
「えー!本当にお父さんとお母さんだっていうの?なんで子供になってるのっ?」
隣で同じような押し問答を幼なじみもしている……どうやら、そっちのふたりも幼なじみの両親のようだ……そう言われれば4人とも確かに面影があるような……夢かな?実はまだ車の中で見てる夢とかだといいなぁ。でも、さっき痛みは確かに感じたんだよなぁ……
「やまでへんなきれつにすいこまれたあなたたちをあわてておいかけたらこうなったのよねぇ[山で変な亀裂に吸い込まれたあなたたちを慌てて追いかけたらこうなったのよねぇ]」
「とりあえず、いきててよかったよな」
「いや、なんでそんな冷静なんだよ!普通、子供になってたらもっとパニクるだろっ!?」
「まあ……そうだよな」
「いいのよ、こまかいことはきにしない!」
「いや、全っ然細かくないからっ!大人が急に幼児化するとかかなりの大ごとだからっ!」
うちの両親ってこんなに動じないっけ?すげぇ簡単に受け入れてるんだけど……はぁ……一旦受け入れよう。でないと話が進まないし。
「で、結局ここはどこだと思う?」
「うーん、たぶんいせかいってやつよ!」
「はぁ?まじで言ってんの?」
「まぁ、いせかいてんいくらいしててもおかしくないとおもうわ。だってわたしたちがこどもになってるくらいだものっ![まあ、異世界転移くらいしててもおかしくないと思うわ。だって私たちが子供になってるくらいだものっ!]」
「でも、みんなおなじところにてんいしてよかったよな。バラバラだったら、めもあてられないぞ[でも、みんな同じところに転移してよかったよな。バラバラだったら、目も当てられないぞ]」
「た、たしかに……」
異世界転移って……あの亀裂に吸い込まれたから?え、ファンタジーすぎじゃね?これが夢や妄想じゃないなら、そうなの……か?
じゃあとりあえず、なんだ……その……やってみるか。
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