ブルーライト
白野椿己
ブルーライト
上京して4年。
夢と希望を胸にキラキラと輝いていたあの日の僕は、今の僕を置いて遠くへ駆け抜けていってしまった。
通勤ラッシュの満員電車にもまれ、人の大波に沿ってアスファルトを歩き、腹を満たすだけのご飯を急いでかきこんで、今日も眠るためだけに家に帰る。
くたくたのスーツも汚れてごわごわの革靴も、触っているスマホ画面にふいに映り込む疲れきった自分の顔も、どうしようもなく虚しい気持ちにさせる。
SNSに溢れる同級生たちの結婚や出産の報告、高級なものを並べた昇進自慢、趣味を全力で楽しむ写真。
それぞれが主役としてスポットライトを浴びているみたいだ。
いいねという名の『羨ましいね』で画面が埋め尽くされている。分かっている、見なければいいのに。
夢中でスクロールする指先が、ブルーライトだけ浴びていることに気が付いた。その光は冷たく、いっそう寂しさが増した。
これがせめて月明かりだったなら、少しは心が和らぐのに。
変わりたかったんじゃないのか、僕。勉強も運動も可もなく不可もなく、取り立て褒められた特技もない。
どこまでも凡人な僕でも都会に行けば変われると信じて、意を決して就職したはずなのに。
真面目な働きアリを続けたってそこそこにサボるアリと評価も給与も変わらない。
仕事が出来なくてもノリが良い奴の方がよっぽど得しているのだから、理不尽さと自分の不甲斐なさをビールで飲み込むことしか出来ない。
それでいて、酒に弱い。
疲れているからとサッサと風呂に入り電気を消して布団に潜り込んだ。でもなんとなく眠る気にもなれずゲームアプリをタップする。
負け続きでイラつき別のアプリを開く、飯テロや自分が足りを流すようにぼぅっと眺めていた。
見れば見るほど自分がちっぽけで悲しくなって、他人の不幸に口元を緩める自分が嫌になる。
暗闇でスマホ画面だけが僕を照らしていた。
SNSで輝く人たちに比べて、僕が浴びているのは
ブルーライトだけだ。
それがもたらすのは虚しさと悲しさだけだった。
これが月灯りなら小説のお洒落な冒頭にでもなるのに、今日は生憎の曇り空だ。
目が覚めたらちょっとだけ素敵な日常が始まったら良いなと期待して、僕はゆっくりと眠りに付いた。
ブルーライト 白野椿己 @Tsubaki_kuran0
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