Karte02 『悪役令嬢症候群』
第6話 『悪役令嬢症候群』序
「はぁ……また彼に振られちゃいました……」
「へぇ。リコくんには彼氏がいたのか。意外だな」
失礼な。
つい、ひとりごちてしまったのだけど、まさか先生がこんな話題に反応してくれるとは思わなかった。そっちのほうがよほど「意外」だ。もしかして異性に興味がお有りだったりするのかな?
まさかね。どうせ研究ばかりで「男? 興味ないね」とか言ってそうな感じよね
でも一応聞いておこ。
「先生はお相手はいらっしゃるんですか?」
「お相手と言うのは、付き合っている男性や配偶者がいるかという意味かい? 残念ながらいないよ」
先生と初めて治療以外のことで会話ができた気がする。
先生のことをよく知るチャンス。この折角の機会は逃す訳にはいかない。
「先生はどんな男性が好みなんですか?」
「うーん。そうだなぁ……。そういう君は? どんな男性と結ばれたいと思うんだい?」
結ばれるって……先生って意外と可愛らしい言い回しを使うのね。少し重い気もするけど。普通なら付き合いたいか、とかじゃないかな。
もちろん恋愛トークは私の好物である。
「私ですか? そりゃあもちろん素敵な人と結ばれたいですね。白馬の王子様とは言いませんが、やっぱり清潔感が重要ですよね。収入や身長、顔なんかは特に気にしません。気にしませんが、理想を言わせてもらうならどこかの貴族の御曹司様になにかの拍子に見初められたりして……。それで玉の輿に乗って――。それで彼は口では冷たいこと言うんですけど、実は私のことが大好きで、私のことだけを愛してくれて、毎晩寝る前に好きだよって言って抱きしめてくれるんですよ。でへへへへ」
「なるほどね。間違いなくシンデレラ症候群だな」
私が気持ちよく理想を語っていたのに。
「シンデレラ症候群? なんですか、それ」と、私はちょっとふてくされて聞いた。
シンデレラ症候群というのはいつか現れる理想の男性に、自分を幸せにして欲しい自分を変えてほしいと願う症状を言う。つまり今の君のような症状のことだ」
結局は症候群のお話になってしまうのね。しかも今なんかバカにされたの? 私。
「私は別にそこまでは求めていません。なんですか、もう。……それより先生はどうなんですか? 理想の男性像とかないんですか?」
「ボクは精神と肉体が健康ならどんな男性でもウェルカムだよ」
ウェルカム!? どんな男性でもっ!?
「い、意外ですね。好みの内容はともかく、男性に興味はあるんですね」
「あたりまえじゃないか。ボクだって健康な女子なんだぞ。異性への興味くらいあるさ。ボクのことをなんだと思っているんだ、まったく」
男性なんかに興味がないマッドドクターだと思っていました。
先生って一体何歳なんだろう? 先生はとても背が低い。背が高い方ではない私よりもさらに頭一つ分は小さい。なので見た目は中学生……見方を変えればもっと子どもっぽく見えるかも……。
「あの、先生はこれまでに男性とお付き合いしたことは……」
「………一度もないけど。それがなにか?」
意外……でもないか。先生は見た目でずいぶん損してるんだろうな。髪は手入れされていないからボサボサだけど顔も綺麗だし頭もいいしお金持ちなのに。
たぶん発育のほうが未発達すぎてそもそも恋愛の対象に見られないというのが正解かな。
「おかしいと思わないか? ボクはかなりストライクゾーンは広いほうだと思うんだが……。ボクの力で体なんていくらでも健康に出来るから健康でなくたっていい。どんな病気だろうが呪いだろうが即座に治してみせよう。ボクは君のように選り好みなんてしない。美醜も貴賎も貧富も問わない。もう付いてさえいればそれで十分だというのに……なぜ誰もボクに声をかけてこないんだ!? こう見えてもボクはもう十分に大人の体だぞ! 下の方だってちゃんと――」
「ス、ストップですっ! まだ日も明るいうちからなんてこと言うんですかっ! でもそのお話の続きは今晩ぜひ……」
「そうだな。ことこの分野に関しては君から学ぶこともあるかもしれないからな。今日の診療が終わったらボクの家に泊まりにこないかい? 夜が明けるまでじっくりとお互いのこれまでの研究成果の報告会を行おうじゃないか」
まさかのお泊り会のお約束を頂いてしまった。
女子会なんて今まで経験がないから、ドキドキしてきた。楽しみ。
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