第3話 王国追放
ガルディア王国の王様が静かに座って、
ソウタを見据えている。
見た目は50代前後か、ほうれい線などが目立つが、
若々しさを保って、とても高齢とは思えない見た目をしている。
宝石を散りばめた王である証の王冠を被り、
長めの白髪は肩ぐらいまで伸ばし、
赤色のマントは地面につくぐらいに長く、
腕や首にはいかにも高級そうな装飾品を身に着ける。
特徴的な白い髭はお腹部分まで伸びており、
右手で上から下にゆっくりと髭を触っている。
「よく来たな、、我が名はクレスト・リヴ・ガルディアだ」
王様は髭を触りながら自己紹介をした。
「えっと、俺の名前はソウタです」
ソウタは頭を下げる。
膝をついた方がいいのか、ソウタは悩みながら、
アタフタしていた。
「フッ、立ったままでよいぞ」
王様は気が遣える王様だった。
少しほっとしたソウタは、王様に事情を説明した―――
―――「なるほど、魔王を倒すために転生したというのか」
王様は髭を触りながら、ソウタの話を聞いていた。
「そうなんです、それで支援の方をお願いしたくて」
「支援か……確かに魔王を倒してくれるのであればこちらとしてもぜひお願いしたいが、だがソウタよ一つだけ聞かせてはくれぬか?」
「はい、なんですか?」
「そなたの持つスキルや魔法とやらを見せてはくれぬか? 支援をするに値するのか否かを自らの目で見てみたい」
ソウタはビクッと反応して、とてつもない汗が流れる。
スキル? ないよね。
魔法? 使えない……
「え、え~っと、あの~」
中々切り出せない。
「どうした? 転生をしたのであれば何か強力なスキルか魔法を持っているのだろう?」
「それが、その……です」
聞き取れないぐらいの小さな声でソウタは王様に伝える。
「なに? なんて言ったのだ?」
「ないです」
「ん? ない?」
王様は前のめりになりながら聞き返した。
いつしか髭を触っていた手は、髭を掴んだまま動かない。
しばらく沈黙が続いた時、王様は口を大きく開けて笑った。
「はっはっはっ! スキルも魔法もない転生者を支援しろとは滑稽だな!」
腹を抱えている王様を見て、周りにいる兵士たちも笑い出した。
「何も持たずに転生とは可哀そうに」
「それであれば私も支援してほしいぐらいだ」
「なんともおかしな転生者だ」
ソウタは大勢の目の中誹謗中傷を浴びる。
はぁ? なんだよこれ。
俺は転生して魔王を倒すって言っただけなのに、
俺は何も悪いことしてないのに、
スキルを持ってないだけで、
魔法を使えないだけで、
なんでこんな目に合わないといけないんだよ。
ソウタは怒りが込み上げてくる。
拳は強く握り、唇は血がにじむほど噛みしめていた。
「王様、俺は確かに何も持ってないが、なんでそこまで言われないといけないんだ?」
ソウタは怒りが我慢できず、王様を睨む。
「いや、失敬。だが、これでは転生したかどうかの証明もできんのでは我が国もどうすることもできんのでな悪く思わんでくれ」
すると、
兵士の列から1人の兵士が前に出てきた。
全員と同じ甲冑を身に着け、
兜の奥にある鋭い眼光が特徴的だ。
「失礼ながら王様。この者の実力を図るため、一度この私に手合わせをさせていただけないでしょうか?」
兵士は王様の前で膝をつき、頭を下げる。
「はぁ? なんで俺があんたと戦わなくちゃいけないんだよ」
ソウタは兵士を睨むが、兵士はソウタの方を向こうとしない。
「ソウタ、これはチャンスだよ。ここで勝てば、支援してもらえるかも」
「なんだよそれ……」
ソウタは不機嫌そうな表情を浮かべた。
「ふむ、よかろう。ソウタよこの者と戦い、勝てば支援の件は考えよう」
「許可をしていただき、ありがとうございます」
そういうと、兵士は鞘から剣を抜いてソウタに向ける。
「おい! お前だけ剣はずるいぞ、俺にも剣を貸せよ!」
ソウタはねだるように右手を差し出した。
「ソウタ剣握ったことあるの?」
「あるわけねぇだろ、でも、なんかムカつくから絶対勝ってやる!」
王様と兵士は目で合図をすると、1人の兵士から剣をソウタに渡すよう指示を出し、
ソウタは剣を渡された。
ソウタは初めて剣を握り、柄の部分をギュッと握りしめる。
想像以上に重く、片手ではとても使いこなせない。
「くっ……」
両手で柄を持ち、やっとのことで構えをとった。
「ソウタ大丈夫か?」
「平気だよ、こんな奴すぐにぶったおしてやる!」
「威勢だけは言いようだな、それでは行くぞ!」
兵士は勢いよくソウタに突っ込む。
「くそぉ!」
ソウタは力任せに剣を横に振った。
剣は空を切り、剣の重みでそのまま体ごと回転してしまいバランスを崩す。
「うおぉ!」
「ふん、甘い!」
兵士は剣を勢いよく下から上に斬り上げた。
ソウタの剣にぶつかり、ソウタは剣を手放してしまう。
「しまった!」
飛んでいく剣に気を取られていると、
兵士の剣はソウタの喉元まで来ていた。
あと数センチずれていれば、喉元に剣が突き刺さっていただろう。
「どうした? 私に勝つんじゃなかったのか?」
「ぐっ、くそぉ!」
ソウタは腰を低くして、兵士めがけてタックルをした。
しかし、足腰を鍛えている兵士はビクともしない。
それどころか、ソウタの力を利用され、
そのまま王様の近くまで投げ飛ばされてしまう。
「うぅ、ぐっ!」
何とか立ち上がり、今度は右拳を顔めがけて放った。
拳を綺麗にかわされ、兵士は剣の柄の部分でソウタの背中を押し込むように殴った。
「ぐわぁ!」
「ふん、これで転生だと笑わせるな! 貴様を転生させた者はさぞ無能だったようだな!」
「え、俺のことか?」
神さまが頭の中で話しているがソウタには聞こえていなかった。
怒りや惨めな思いの方が勝っていた。
こんなにバカにされてるのに、
俺は一撃もこいつに与えられないなんて……
「失せろ! この国で生活することすら不愉快でならん」
周りでは大勢の兵士がソウタのことを笑っている。
ソウタは握った拳で地面を叩き、スッと立ち上がると、無言のまま城を出て行った。
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