遺伝
神田 啓示
遺伝
僕は母に似ていた。
特に何とも思ったことはないが、よく似ていると言われることが多かった。
七つ上の姉と、四つ上の兄は父に似ていた。
性格に関しても、彼らは勤勉とか真面目という言葉がピッタリのタイプ。
僕は母に似て、どちらかというと頭より身体を使うことの方が得意だった。
父はとても頭が良く、どんなことでも知っていた。
何を聞いても必ず正解が返ってきた。まるで辞書のような人だった。
父の少年時代は、いわゆる神童と呼ばれるような生徒で、成績は常に一番。デッサンも得意で、その左手が描く線は細かなディテールを再現することができ、美術の課題では、大人に描かせたと疑われやり直しをさせられたこともあった。
その後、大学を首席で卒業し、誰もが大学院に上がり研究者になると疑わなかったが、就職を選んだ。
足が不自由な実母を支える為、転勤の無い地元の小さな企業を選んだ。
就職はしたが、まだ勉強がしたいと言い、通信制の大学に入り、学問を続けた。
やがて結婚し、子供を三人授かった。
研究の道にこそ進めなかったが、知識欲を満たすことは出来た。
酒も煙草もやらない。
そんな自慢の父が死んだ。
僕が13歳の春だった。
遺伝 神田 啓示 @keiji5
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