流浪の癒し手 〜入れ替わりから始まる異世界人生〜

U0

序章

逃走

1 入れ替わり

 正直言って、限界だった。


 死のうかと考えた事も何度もあった。でも、結局そんな勇気は出なくて、漫然と生きていた。


 別に、劣悪な環境だったわけではない。どちらかと言うと、恵まれている方だとは思うし、自分よりも酷い目に遭っている人間なんて数えきれない程いるのだろう。


 それでも、つらいものはつらいのだ。


 唯一の救いは物語の中にあった。日々の憂鬱から解放された、ワクワクするような不思議な世界での冒険に憧れた。


 いつものように、明日になったら何か変わっていないかと淡い期待をしながら、目を閉じた。


 そして、夢の中で出会った。


 その深紅の瞳はじっとこちらを見つめていた。最初はもやがかかっていたみたいだったが、次第に相手の輪郭がはっきりしてきた。


 美しいと感じるほどに整った顔、白く透き通るように綺麗な肌、穢れのない純白の髪は足下まで伸びている。その姿は背景の白に溶け込んでいるようだった。


「君はだれ?」


 相手はこちらの問いには答えず、一方的に言う。


「私と人生を交換しない?」


「いいよ」


 不思議なほどに答えに迷いは無かった。夢だから難しい事は考えられなくて、感覚的に答えてしまったのかもしれない。


「ありがとう」


「お互い様だよ」


 すーっと、体が軽くなっていく感覚がした。


 気がつくと、目の前には見慣れた自分の姿があった。しかし、それはもう自分の体ではない。


 その姿に僅かな心残りを覚えながらも、夢の中で私は目を閉じた。



 


 


 


 

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