第2話 トイレも一緒なのです

 このままだと本当に漏らしそうだ。しょうがない。



「分かった。ここで後ろ向いているから、ちゃんとトイレで済まして」

「ほ、本当で……すぅか……うっぅ」

「ほら、早く入れ替わって」

「ゆ、ゆっくりで……」



 はぁー、先が思いやられるぞ。



「あ、あの……これ、ここに座ればいいのですか?」

「え!? 当たり前じゃないか」

「だぁって、ル、ルナの世界にこんな変わったトイレはありません」

「どこの世界の人間だよ!」



 どう見ても普通のトイレだろ。



「あ、あのー、お願い……を聞いてもらっても」

「何だよ」

「耳を塞いでくれう……と、助かりますぅ」

「恥ずかしいんだったら、俺出るから」

「それは駄目ですぅ! あっ」


「分かったよもうー! あー!! ああーー!! 何も聞こえない! 何も聞こえなーい!! お隣さん声がうるさかったら!! ごめんなさーい! いや、隣は空き家だったー!! あー! 聞こえない!」



 本当、朝から何やっているんだよ。



「すみません。もう大丈夫です」

「終わったか……」

「はい、やっぱり優しいのです。ルナの為に気を遣ってくれました」

「ふぅー、やれやれだよ」


「ところで、この後どうすればいいんですか?」

「どうするって、女の人は……ヒデを使うのかな? そこにボタンがあるだろ?」

「これですか?」



 プシャー



「ひぃやっ!!」

「うわぁー!!」



ドスーン!!



 急に水が出て来たことに驚いたのか、物凄い勢いで俺の方に飛びついて、押し倒されてしまった。



「痛てて……」

「うぅぅぅ、酷いです。こんなエッチな悪戯なんかしなくてもルナは……」

「いやいやいやいや、悪戯じゃないよ!! そういう機能だよ!!」



 俺を押し倒したまま、恥ずかしそうにしている。



「でも、思い出しました。ルナが落ち込んでいる時に、あなたは魔法を使ったサプライズで、ルナを元気付けてくれたのですよ」


「ははは……」

「……」


 魔法とか言い出したから、物凄い妄想癖なのかもしれないぞ。返す言葉も見つからない。

 


「……」

「……」


「何瞳を閉じてキスモードになっているんだよ!!」

「今、とてもいい感じでした。ルナにキスして欲しいのです」

「こんなトイレの中がいい感じなのか?」

「そうでした。さっきのベッドに移動しましょう」

「ごめん、ツッコミ方を誤った。キスなんてしないよ!」



 本当、油断も隙も無い子だ。



「それよりいつまで俺を押し倒しているんだよ。早くどいてくれよ」

「ルナとキスして下さい。ここで構わないのです」

「お前なー」


グゥーーーゥ、ギュルルル


「お前、お腹空いているのか?」

「うぅぅぅ、は、恥ずかしいですぅ」

「俺も腹減ったし、一緒に食べるか?」

「はい、一緒に食べたいです」


「じゃあ、どいてくれ」

「分かりました。でも、腕は掴ませてもらいます」

「やっぱり放さないのかよ!」



 とりあえず、押し倒されたこの状況は何とかなりそうだ。



「ふぅー、やっと解放された……あっ、って、おい!! パンツ履けよ!」



 スカートから膝の間に白いパンツが引っ掛かているから、なんか凄いエロいぞ。



「まだ濡れているから履けないのです」

「こらー! 発言には気を付けろー!」

「ルナは何もいけないことは言ってません」

「無自覚か! そこのトイレットペーパーを使ってくれ。朝飯にするぞ」

「ま、待って下さい」



 朝飯と言っても、菓子パンとコーヒーだけしかない。

 しかし、相変わらず俺の腕を掴んだままだ。



「どのパンがいい?」

「これはパンですか?」

「そんな中学生の英語構文みたいに聞くなよ。見ての通りだろ?」

「ルナの世界とちょっと違います。こんな袋にも入ってないです」



 いつまでその話の設定続けるんだよ! 



「じゃあ、俺が選んでやるよ。このアンパンでいいか? 甘いのは苦手じゃないだろう?」

「甘いのは好きです。もしかして、ルナの好みを覚えていたのですか?」

「いや、何となくのイメージで」

「うーん、それはルナが子供っぽく見えたからですか?」

 


 はい、そうです。って言いたいところだけど、言うと面倒くさそうだから……。



「甘いもの好きの女の子は多いだろ? 別に深い意味はないさ」

「ルナも例外ではありません。大好きなのです。あなたは、よくルナを美味しいお店に連れて行ってくれました」


「あ、そうなんだ……それより、早く食べようぜ」

「はい」



 本当、付き合いきれないな。



「キャーなにこれ!? 甘くて美味しいです!」

「朝だから静かにね」

「はーい! う~~ん、美味しい!」



 そこまで美味しそうに食べてくれると、自分が作ったわけじゃないけど、嬉しくなる。だから、この子を食事を誘うのもありなのかな……いやいや、まだ得体の知れない子だ。



「ところで、話を聞かせてくれよ。何でこんな状況になっているのか説明してくれよ」 

「そうでしたね。説明するのです」



 説明と言っても、この子の妄想だから、可笑しな点が一杯出てくると思う。この矛盾点を突っ込むべきか、適当に聞き流すか?


 どう対応すればいいのか分からない……。



「あなたは、叶えたい願いを捨てて、ルナを選んでくれたのです!」

「説明下手か!」






 


 

 



 

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