親の命令で、悪女やっています

塩桜

第1話 自覚

 0時を過ぎたある冬の日、日野桜ひのさくらは家路についていた。

「寒い。寒すぎる。何で私だけがこんな遅い時間まで仕事しなくちゃならないのよ。今日は……もう昨日か、せっかく新しいエピソードが公開されて、早く帰ろうと思っていたのに」

『カージナル王国』というゲームが流行っていた。その主人公の名が『クロム・ローズ』。桜の推しは主人公……のライバル、悪女の『××××・××××』だ。そのゲームのエピソードが新しく公開され、朝はワクワクだった桜はとても悲しみに浸っていた。そんな気持ちを持ちながら、帰宅しているとどこから来たのか、トラックが突っ込んできた。そこからのはない。


「……ル、シャトル!」

「は、はい!何でしょうか。父さん。」

いけない。また、前世の記憶を考えてしまった。

「大丈夫か?最近、ぼんやりしていることが多いが……」

「大丈夫です。きょ、今日の夕ご飯は何かなぁと思っていただけなので」

「今、食べているが?」

「と、とにかく何でもないです。えっと、ご馳走様!」

「そうだ、あとで話があるから、父さんの部屋に来いよ~」

「了解です」

あ、あせった~。隠すの意外と大変なんだよな~。

私、シャトル・ヴェールは五歳の普通の女の子……ではなく、なんと前世の記憶持ちである。自分が前世の記憶を持っているのに気が付いたのは、四歳のとき。「なんか知らないはずの記憶がある」とずっと考えていたら、「これは前世の記憶なのでは?」と思いついた。今はそれで納得している。

……言い忘れていたけど、前世の記憶を考えるとものすごく疲れてしまう。疲れると、眠くなってしまう。もう、限界に近い。父さんには悪いけど、話は明日にしてもらおう……。

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